SCENE 48 * RENA * With Rian
レナは再びのライアンからの電話に応じていた。意外な話だった。彼の父親とジェニーの父親が友人だという事実が発覚した。そのうえ、ライアンの家のガレージを、ジェニーの父親たちの会社が建てるという。
どういう反応をすればいいからないのだが、ベッドに仰向けになっているレナは顔をしかめた。「──運命?」
「いやいやいや。そんなの運命とか言わねえから」と、電話越しにライアンが言う。「で? やっぱ微妙な心境なの?」
彼女は少々悩んだ。「微妙。なんか、べつに悪いことじゃないんだろうし、ベネフィット・アイランドっていう田舎じゃ、なにが起きてもおかしくはないんだろうけど──」
「だよな。べつに気にすることじゃないよな」
「でも、なんか──」
言いよどんでいると、彼が変わりに答えた。「嫉妬?」
「うん」呆れられるのはわかっている。
彼は溜め息をつく。「普通におもしろいと思ったオレってやっぱ変なの? なんかジャックに電話したけど、あいつも微妙そうな反応だったし。ムカつくとか言われたし」
「あんたがおもしろいって思うことに違和感はないんだけど、なんか──」
言葉は濁したものの、レナはとても複雑な心境だった。親が知り合いというのは、自分とライアンだけだと思っていた。特権というか、特別というか──だが違っていた。
ライアンはやはり呆れている。「なんかなんかうるさい奴だな。けどガレージの件、使うのはオレだぞ。一階は車庫だけど、二階は部屋みたいになる。夜はホテル行かなくて済むんだよ」
レナはぽかんとした。「なにそれ。そんなありがたい部屋を作ってくれるの?」
「そうだよ。オレのちゃんとした部屋にするわけじゃなくて、夜だけだって言われてる。メグに変に思われないようにしなきゃいけないから、夜早い時間からってのは無理だけど。メグが寝てから朝までならいくらでもいられる。防音もちゃんとしてくれるし、エアコンつけてベッド置いてくれるって。たぶんそんな広くないだろうしそれだけだけど。そんだけあればじゅうぶんじゃね?」
なんだかとても大きな話になっている気がするが。「まあ──」
「ああもう!」彼は声をあげた。「どいつもこいつもめんどくせえ」
「ごめん」ライアンが怒っている。わかっている。くだらないとは思う。
「あのさ。親同士が知り合いで、しかもガレージ建ててもらうからって、それがなんだよ? そりゃオレはジェニーの親父に会うかもしんねえし、話すかもしんねえけど、ジェニーがオレの家に入り浸るわけじゃねえんだぞ。ジェニーとその話をすることはあるかもしんねえけど、むこうだってジャックがあれだ。ジェニーはジャックが嫉妬深いことわかってるだろうし、オレはお前が嫉妬深いってわかってるからそんなに話さねえよ。それにこのことでオレとジェニーがどうなるわけでもねえ。オレの幼馴染みはお前だし、オレが今つきあってるのもお前で、それが変わるわけでもない。なにが気に入らないわけ?」
いつも以上に早口だったが、レナはちゃんと意味を理解した。泣きそうになり、横を向いた。
「ごめん──」どうかしている。けれど自分は、それほど強くはない。
またライアンが溜め息をつく。
「お前さ、マリーにもそうやって嫉妬してるわけ?」
「──正直、嫉妬はする。けど、マリーはたぶん、気遣ってくれてるの。だからあんたの中学の時の話とか、あんまりしない」
女子会ランチでライアンとのことを報告したあと、マリーは言った。“私は心配してなかったけど”、と。思わず理由を訊いてしまって、彼女は“なんとなく”と答えた。その答えの意味を、あとになって理解した。気を遣ってくれた。
「それだよ」と彼が言う。「ギャヴィンも嫉妬すんだよ。だからオレとマリーは、ろくに中学の時の思い出話もできねえ。べつにそれほどしたいわけじゃないし、怒ってるわけでもないんだけどさ。なんなの? 嫉妬ってなに? 信用してないの?」
「今は信じてる。だけど、たとえばマリーとか、中学の時の私が知らないあんたを知ってるじゃない。すごく羨ましくなる」
レナの目に浮かんだ。今さらなのに、小学校高学年の時、彼を避けるようになってしまったことを後悔している。
ライアンは少々、不機嫌になっている。「それはジャックも同じじゃん。むしろジャックのほうが詳しい」
「ジャックは男だから。男と女は違う。女目線ていうのがある」
「──意味わかんねえ」
目を閉じる力が強くなり、涙が流れた。こんなはずではなかった。レナは、もっとあっさりとした交際ができると思っていた。
「ごめん──」
「いや、あやまんなくていいって。けどさ、オレにはいいけど、マリーにはあんま気遣わすなよ。っていうかあからさまな嫉妬は見せんなよ。性格上気遣うタイプだし、あいつもたぶん、ギャヴィンが嫉妬するってのはわかってるから、最近オレとあんまり話そうとしなくなったってのも、ぜんぶお前が悪いってわけじゃないんだけど。って、こんなこと言ったらまたお前が嫉妬するのかもしれねえけど」
マリーがライアンとあまり話そうとしなくなったというのは、レナも気づいている。マリーからライアンの名前を聞くことも少なくなった。
その一方で、ライアンは、本当にマリーのことを理解しているし、大事に思っている。それがわかるとまた、自分は嫉妬してしまう。ダメだ。
ライアンが続ける。「まえにも言ったけど、オレは嫉妬はしない。しかもわりと無神経。わりと平気でお前が聞きたくないこと言うかもしんねえ。言ってるだろうし、これからも言うと思う。けどさ、過去は過去じゃん。どの部分を知ってるかとか、言い出したらキリがないんだよ。そんなに昔のことが知りたいなら、オレじゃなくてもジャックとかマリーに訊いて、オレのアホっぷり、ぜんぶ掘り返せばいいじゃん。なんなら親父とかおふくろにだって訊けばいい。意味ないと思うけどな」
意味は、ないのか。「過去を知りたいっていうか、理解したい。なんでそんな風にいられるのか、やっぱりわかんない。少しは理解したつもりだったけど、やっぱりわかんない」
「それはオレが変だって言いたいわけ?」
「──“特殊”」
「言い方の問題だろ。んじゃオレはどうすりゃいいの? もうほんと、お前がなにを嫌がるかってのはだいたいわかるんだけど、どうすりゃいいかぜんぜんわかんねえ」
それは自分でも、わからない。「あんたはきっと、私が他の男と仲良く昔話してても、なんとも思わないんでしょうね」
「思わねえな。むしろなに話したか根掘り葉掘り訊く」
「なんでそんな強いの?」
「いや、強いかどうかは知らねえけど。この世にジャックを除いてオレ以上の十七歳の男がいるわけねえじゃん。よってお前がオレに惚れた以上、お前が他の男に目移りするわけない」
レナはぽかんとした。「いるし。自惚れすぎだし」
「いや、いねえよ。十七歳に限定すればな。もしお前が他の男のところに行ったとしても、絶対そいつじゃ物足りねえ。オレを忘れねえ。無理」
この自信はなんなのだろう。アニタのようだ。いや、アニタ以上か。「そう思える理由すらよくわからない」
「じゃあ考えてみろよ。オレとジャック以上の十七歳が他にいるか?」
十七歳、限定──。彼女は真剣に悩んだ。ギャヴィンはどうなのだろう? というか、基準がわからない。中学と高校──それほど詳しくは知らない。
「わかんない」と、それがレナの出した結論だった。
「ま、明日になればわかる。心配するな。オレの知る限り、ジェニーは遥か天上の存在だけど、地上にお前以上の女はいないから」
「なにその、褒めてるのかどうかよくわかんない言葉」
「変な意味じゃなくてさ、ジェニーはオレの中で手出しちゃいけない存在なの。いや、出す気もないし出そうと思ったこともないけど。なんていうか、手の届かない存在。神聖すぎて。けどジェニーを除けば、オレの手の届く範囲ではお前が一番。わかる?」
前後の言葉に差がありすぎていて、素直に喜んでいいのかがよくわからなかった。だがなぜかドキドキして、彼女は笑った。
「なんか、なんとなくわかる。ジェニーのことは。あんたなんかじゃもったいない」
「だろ? 自分ですらオレにはもったいないって思うのがジェニーだ」
「うん。で、彼女を除けば私が一番なわけね。つまりは二番目だけど」
「あれだって。ジェニーをゼロだと思えばいい。番号つけるのすらもったいないから。ピラミッド・ランキングで天使の羽つけて頂点に立ってるのがジェニーだ。で、横線引いたピラミッドの中の一番上にいるのがお前」
レナは図を思い浮かべた。笑える。人間的に、自分はジェニーには絶対に勝てない。勝てるなどと思っていないし、勝ちたいとも思わない。
「わかった。つまりあんたも、私以外の女に目移りすることはないわけね?」
「え。そりゃどうだろ」
「は?」
彼はまた笑う。「まあ今のところ、そんな予定はねえから気にするな。だからさ、嫉妬すんのは勝手だけど、無理もしなくていいけど、変に病むなよ。オレがはじめて惚れたのもはじめてキスしたのもお前。オレが今惚れてんのはお前で、つきあってんのもお前。とりあえずそれだけ頭に入れとけ」
一瞬にしてレナの全身が火照った。嬉しすぎる言葉だった。「──ん、そうする」




