SCENE 47 * JENNIE * With Jack
リビングから自室へと戻ったジェニーは、呆然としたまま、明かりもつけずにソファに腰をおろした。
パパとライアンのお父さんが知り合い。
マイキーも知り合い。
パパたちの会社がライアンの家のガレージを建てる。
なんだか、話が唐突すぎてよくわからない。
レナになんて言えばいいの?
ジャックになんて言えばいいの?
二人はきっと、いい気はしないだろう。
これはいやがること?
立場が逆だったら?
レナとジャックの家族が知り合いなら──すごいと思う。世間は狭いのだと。けれど、レナやジャックは──。
テーブルの上で携帯電話が鳴り、ジェニーははっとした。ジャックから電話だ。少々戸惑う気持ちがあったが、応じないわけにはいかない。声も聞きたい。そう思い、電話に出た。
「はい」
「今大丈夫?」
彼はライアンから聞いたかしらと思いながら、彼女はソファに背をあずけた。
「ええ。おかえりなさい」
「君にそう言われるの、すごく嬉しい」
ジャックの声は、とても好きだ。大好きだ。聞いていると落ち着く。安心する。「本当は、直接言いたい」すごい本音が。
「──うん。直接言われたい。玄関で」
ドキドキする。「ええ。あなたがベルを鳴らして、私がドアを開ける。“おかえりなさい”って言うの」会いたい。
「うん。抱きしめる。十分くらいは離れられない気がする」
ジェニーは笑った。「そうね。リビング? とかに戻る時間ももったいないかもしれない。あなたに抱きしめられると、離れたくなくなるの。ほんとに」言わなければいけないと、わかっているのに。
「それは、僕も同じ。毎日、夜が長い。十数時間が待ちきれない」
「ほんとに──ウェルス・パディよりは近いんだけど、それでもやっぱり遠い気がする。バスで五分の距離すら長く感じる」
そうは言っても、自分たちはまだ近いほうだ。マリーとギャヴィンはもっと遠い。アニタとタイラーはそれ以上。
「うん」ジャックは静かに答えた。「早く大人になりたい。そしたら一緒に住める。休みの日はずっと一緒にいられる」
彼女の心臓が揺れた。嬉しい。「そうね。だけど仕事に行くのもイヤになるわ、きっと」
彼が笑う。「それは言えてる。毎朝泣く泣く出勤だ。ダメ人間になりそう」
彼女も笑った。「どうすればいいのかな。離れてたくなくて一緒に住むのに、一緒に住んでもやっぱり離れたくなくて、ダメな人になっちゃうの」
「自宅でできる仕事がもっとあればいいんだけどね。でも君はどっちかっていうと外で活動するタイプだよね」
「どうかしら」一応の目標はある。でもまだ言えない。「私は外も中も好きなの。一日中家にいることだってできるし、一日中外で遊ぶこともできる」
「あ、そうか。図書館も好きだもんね。ああ、仕事してる時の君の顔も見てみたいな」
「仕事に支障が出るからダメ。クビになっちゃう」
「だよね。三ヶ月以上経つのに、毎日気持ちが大きくなるばっかり。どうなるのかわかんない。ちょっと怖い」
それは、ジェニーも一緒だった。「私も。でもイヤじゃない。確かに怖いけど、嬉しくもある。あなたはいつも同じように感じてくれてる。それがわかるたびにすごく嬉しくなるの」
「僕も。──ライアンのこと、聞いた?」
心臓が締めつけられる思いがし、一瞬、唇を固くむすんだ。やはり知っていた。
「──ええ。パパと彼のお父さんが知り合いで、ガレージを建てるって。しかもウィリアムも手伝うわ。ウィルが大晦日にライアンに会ったって言ったら、パパがじゃあ手伝ってみるかって。ウィルは私のこと気遣って悩んだみたいだけど、私が行ってって言ったの。ウィルはパパたちの会社に入ろうとしてるから」
「そっか。できたら君も見に行く?」
「まさか」
「興味ない? お兄さんがはじめて手伝う仕事って」
「見ても私、今は建築のことなんてぜんぜんわからないもの。写真なら見せてもらえるし──それにウィルが話してくれる気がする。しかも毎日」
ジャックが笑う。「そう。レナには話した?」
「ううん。私は話を聞いたばかりだったし──すぐにでも言うべきだったのかもしれないけど、あなたやレナがどう思うかがわからなくて、なんだか──」
ジェニーは言葉を続けられなかった。意外で、驚きはあったものの、悪いことではない。むしろ嬉しい。けれどその嬉しさを、変にとられてしまうと──。
「うん。正直ライアンから聞いて、ちょっとへこんだ。意外なところで接点があったから。でも考えたら、君のほうがもっと複雑なんだよね」
「そう。複雑」ジャックやレナのをことを考えれば、素直に喜べない。
「ごめん。なんか気遣わせて。でももう大丈夫だから。少なくともこっちは」
「私こそごめんなさい」左手でうつむく頭を抱え、目を閉じた。泣きそうだ。「話を聞いて、すぐにあなたに電話すればよかったのかもしれないけど、電話もらってからもそうだけど、どう言えばいいのかわからなかったの。なんだか──」
ジェニーは、ジャックの気持ちがない相手には嫉妬しない。なので仮にジャックとレナの親が知り合いだとしても、きっと妬いたりはしない。やはりすごいと思うだろう。けれど──。
ジャックが切りだす。「──ジェニー。五分でいい。家、出られない?」
彼女は目を開き、顔を上げた。
「十五分じゃだめ?」胸が苦しい。「コンビニに行くって言えば、十五分くらいは大丈夫」会いたい。
「じゃあ十五分。離れたくなくなるだろうけど、それよりも会いたい」
「私も会いたい」
「近くまで行ったら電話する」




