SCENE 46 * JACK * With Rian
家族三人での食事が終わって家に帰り、少しリビングで両親と話したあと、ジェニーにメールを送ってからシャワーを浴び、ジャックは自室に戻った。携帯電話にライアンから着信があったので、かけなおした。
「すげえ」と、ライアン。
明かりをつけないまま、ジャックは三人掛けソファに腰をおろす。
「なにが」
「ジェニーの親父って建築会社やってんの?」
「ああ、らしいな。社長じゃないって言ってたけど」
「兄貴は三歳年上だったよな?」
「うん」
ライアンは去年の大晦日、レナと一緒にいる時に、ジェニーの兄であるウィリアムに会ったという。なにもかもが完璧だと言っていた。王子だとかなんとか──よくわからないが。ジャックも以前、レナに携帯電話で写真を送ってもらったことがあるのでウィリアムの顔は知っている。確かにハンサムだ。
電話のむこう、ライアンは指を鳴らした。「きた。当たりだ」
「だからなにがだよ」
「親父とジェニーの親父が知り合いっぽい」
ジャックはぽかんとした。「ハリーと?」
「そう。なんか高校の同級生らしいんだわ。んでさ、ジェニーの親父がいる会社にガレージ建てるの頼んだって」
話が見えない。「ガレージって、車庫? なんで?」
「家の裏、ゲストルームとかオレの部屋があるほうに二階建てのガレージ建てるんだって。二階は基本夜だけだけど、オレがホテル代わりに使える。ベッドとエアコンも置いてくれるって。部屋使えない代わり。メグに変に思わせないことが条件」
理解したが、ホテル代わりの部屋をガレージとして建てるというのか。まさかか。確かに彼の家は裏に家がなく、横も通りに面しているが。いろいろな意味ですごい。いろいろな意味でさすがだ。「で、それを建てるのがジェニーのお父さんの会社ってこと? っていうかハリーと知り合い? 同級生?」
「だってさ。お前が電話に出ないからジェニーに電話しようかと思ったけど、とりあえずお前に先に言うことにした。心境は?」
心境と聞かれても、理解はしても話が唐突すぎて、いまいちピンとこない。「とりあえずムカつく」とジャックは答えた。なんだかムカつく。なぜお前ばかりと思う。
ライアンが笑う。「だろ。どうなの? さすがにジェニーに、ホテル代わりでーなんてことは言えないわけだけど。親父いわく、名目は物置兼作業部屋らしいけど。ジェニーにもそう話が伝わるはずってことだけど。とりあえず、オレはなんも言わないほうがいい?」
そんなことを訊かれても。「したいようにすればいいだろ。ただ、できれば今日と週末はやめてくれ。もうそれどころじゃないんだよ。本気で」
「わかってるよ。嫌味じゃねえよ。けどオレが先に言っとかないと、ジェニーからいきなり聞くの、なんかイヤじゃね? ジェニーと気まずい雰囲気になるかもしれねえし、もしかしたら今日じゃなくて明日言われるかもしれねえし、それだって初の泊まりでオレとか親のこと持ち出されたら、萎えるだろ」
確かに萎える。気持ちが萎える。親だけならともかくライアンが絡むとなると、邪魔されたような気分になるに違いない。「だろうな。今なんか、すでに軽くへこんでるし」
「いや、へこむとこじゃねえから。悪かったって。んじゃオレも、レナには言わないほうがいいの? つってもジェニーからそのうち話がいくと思うけど」
これには少し悩む。「話すテンションしだいではいい気はしないかもな。今みたいにノリノリで話されたら、さすがにな。レナだって週末は楽しみにしてるだろうし」
「悪かったって。やっと親父とおふくろの再会から結婚に至るまでの話聞けたこともあって、ちょっとテンション高かったんだよ」
「あのあやふやな部分?」
「そう。しかも親父から聞いた。久々に長話。それは今度話す」
ジャックは髪をかきあげながら溜め息をついた。
「お前、一度に話題持ってきすぎだから。どれだけヒトの頭かき回すんだよ」頭の中がショートしそうだ。
ライアンが苦笑う。「だから悪かったって。オレもわけわかんねえよ。しかも今、昨日よりよけいに部屋がえらいことになってるし。なのに親父と話しすぎたりでぜんぜん片づかないし」
ライアンは昨日から突然、部屋の整理をはじめたらしい。なんとなく。片づけは下手なのに。
「お前はモノ持ちすぎ。捨てるもんは捨てろよ。昔の彼女にもらった手紙だのプレゼントだのなんだのかんだの」
「うるせえよ。だからそれを捨てようとしてんだよ。けどどこにあるかわかんなくて部屋ひっくり返してるうちにえらいことになってんだよ。もう諦めて寝ようかと思ってる」
つまりはレナのためか。「おいおい。というか明日、どうするか決まった?」
「ああ。親父もおふくろも仕事だし、メグも昼頃から遊びに行くっつってたからレナ呼んだ。あいつに手伝わせようかと思って」
ジャックは呆れる。「お前それ、最悪じゃないの?」
「今日改めて気づいたんだけどさ、オレやっぱり、おもしろいくらい親父の性格受け継いでんだわ。Sなんだよ。けどアメとムチ使えるから、あいつに手伝わせてもなんも問題ない。はず」
意味がわからない。「あんまめちゃくちゃするなよ。ジェニーの親とのことを話すにしても、タイミング間違ったら最悪になるだけだぞ。こっちは親切なお前が先に教えてくれたから自分でなんとかするし、ジェニーもレナに話すタイミングを間違ったりしないと思うけど、レナがどういう反応示すかは、僕にもさっぱりわからない」
「ああ、なんでこんなおもしろい話なのにこんな面倒事みたいになってんだろ。病む」
ライアンが天を仰ぐ姿が目に浮かんだ。だがそれはこちらのセリフだ。「ま、深く考えないことにする。親が知り合いだろうが友達だろうが、ジェニーがお前に運命感じることはないはずだから」
そしてジャックは思い出した。“Fate”を読まなければいけない。
「お、強気だな」とライアン。「オレらのアドバイスはちゃんと受け取れよ。恥かかせようとして変なこと言ったりとかしてないんだから。信じるか信じないかはお前しだいだけど」
彼とギャヴィンは今日の帰り、またもわけのわからないアドバイスを残していった。ジャックにはもうどうでもよかった。なるようになれだ。
「うるさいよ。とりあえずジェニーからメールきてるかもしれないから切る。話はまた今度、日曜の夜か月曜な」
「ん、じゃーな」
「ん」




