SCENE 44 * RIAN * With Rena
ライアンは腕を組んでベッドの上に立ち、足の踏み場がほとんどなくなった自室の床を見下ろしていた。
さて。いよいよどうしようもなくなってきた。片づけは苦手だ。普段はだいたいの位置が決まっているのでそれほど散らかりはしないものの(というか自分的には散らかっていない)、いざ片づけるとなると、捨てる捨てないの基準がいまいちわからない。ひとまず十八禁の雑誌類はすべて捨てた。それはいいのだが、引き出しだの棚だのをひっくり返していたら、すごいことになってしまった。今日寝られるのかどうかも微妙だ。
と、ベッドヘッドに置いていた携帯電話が鳴った。電話だ。誰かとゆっくり会話できる状態ではないのだが、一応相手を確認する。──レナだった。この忙しい時になんだあと思いながらもそれに応じた。
「なに?」
「うちが使える」と、レナは唐突に切りだした。
ライアンは当然意味がわからない。「は?」
「だからね、うち、夜中に忍び込んでもいいのよ。ドアの音にさえ気をつけてれば、あとリビングやキッチンの扉が開かないように気をつけつつ、レオが寝てからなら、家に忍び込んでいいって」
彼女は説明しているつもりなのかもしれないが、彼にはなにを言っているのかさっぱりわからない。「意味わかんねえんだけど」
「だから、夜中ならあんた、家に来られるって言ってるの」
なにを言っているのかはどうにかわかったものの、彼はぽかんとした。「お前、わざわざそれ、訊いたの?」
「うん。ママに」
「アホだろお前。忍び込めって言われて忍び込めるほど神経図太くねえよ」と、ライアンは全力でつっこんだ。
レナは素直だった。「あ、そうか。じゃあだめか。ごめん」
彼は呆れる。「お前、また酒でも飲んだの? っていうか酒チョコでも食べたの?」
「ううん、今はちょっと、別のことでテンションが高いだけ」
相変わらず意味がわからない。「つまりお前は、夜中の二時や三時に、オレに家に忍び込んでほしいわけ?」
彼女のテンションは一気に下がった。「──だって、お金かかるじゃない」
だが呆れからはまだ抜け出せない。「すげえ恥ずかしいこと訊いた気がするけど、そこはいいのかよ」
「私はべつに──ママも二人だけの秘密だって言ってくれたから。ママたちは二階にはめったにあがってこないし、レオに見つかってもいいなら朝まででも昼まででもいればいいって。言われれば朝食でも昼食でも余分に用意するし、あんたが帰る時、わざわざ挨拶しろなんてことも言わないって」
彼は衝撃を受けていた。どこまで突っ込んだ話をしているのだ。いや、自分もたいして変わらない気はするが。
「勇者だな。二度とお前のおふくろの顔見えねえわ」
「え」
笑える。「うちは家使えないぶん臨時の金もそれなりにもらえるから、焦ってそこまでする必要ないんだけどな」
「え」
どうやらライアンは彼女に話していなかったようなのだが、メグのことを考えて家が使えない代わりに、ホテル代をくれと素直にハリーに言えば、わりと普通にもらえる。ただの小遣い目当てで嘘をつけばなぜか見抜かれるし、頻繁すぎるというのは無理だけれど。
「まあいいや」と、彼は少々物が乗って狭くなってしまっているベッドに寝転んだ。「ホテル行くよりは夜中のバス使ってタクシーで帰るほうがはるかに安いし? お前がそこまで言うなら行くけど。つまりオレは、お前がヤりたくなったら、夜中でも起きて行かなきゃいけないわけだ」
今度はレナの声、低くなった。「──なんでそういう言いかたしかできないわけ?」
「怒んなよ。オレはジャックみたいに“会いたくなったら”なんて言葉は使わない。忍び込んでお前が拒否しない限りは、なにもしないなんてのももう無理だから。お前が純粋に会いたいだけで夜中に電話してきても一緒。拒否られたらしないけど、オレがお前に拒否されるわけないし」
「──ムカつく」
「勝手にムカついとけ。んじゃ明日はどうすんの?」
「今日こんな話したばっかりなんだから、できるわけないじゃない。だから明日は普通にホテル行く」
「だな。お前が勇者すぎるから、早めにホテル入るか。うち出て直接でもいいけど」
「うん。でも拒否してやる」
「できるもんならしてみろ。お前がヤりたくてしかたなくなった状態でオレが拒否してやる」
「は? あんたなんでそんなに意地悪いの? ああ言えばこう言うみたいな」
口が減らないと言いたいのか。「お前じゃ一生オレには勝てねえ」今度はテーブルの上で固定電話の子機が鳴った。内線だ。「おふくろが呼んでるから切る。明日な」
「ん」
レナとの通話を終えると、彼は身体を起こして子機からの呼び出しに応じた。
「なに?」
「パパが帰ってきたわよ」
「パパ言うな。だからなんだよ」
「もう遅い」部屋のドアが開き、スーザンが顔を出した。散らかった部屋を見やり、顔をしかめる。「うわ、あんた散らかしてるの? なんか意味あんの?」なぜか子機を耳にあてたままだ。
「黙れ。なに?」
ドアを開け放つと、彼女は腕を組んで戸口にもたれ、微笑んだ。
「ガレージ作るわよ」
「は? ガレージ?」
「うん。車庫」
「へー。だからなに?」
「二階建て。一階は車庫。二階はあんたの夜の部屋」
彼はぽかんとした。「は?」
「だから、女の子を連れ込むための部屋よ。っていうか、レディ・レナ以外許可するつもりはないけどね」
なにを言っているのだろう。「いや、意味わかんねえ。なんのジョーク?」
スーザンが顔をしかめる。「なんでいつも、私の言うことを信じてくれないわけ?」
彼は即答した。「いつもふざけてるからだろ」
今度はつんとして返す。「あっそ。じゃあハリーに聞きなさいよ。ホントだったら明日の朝食、あんたが作ってね。私はメグと遊んでくるから」




