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EVERY STEP  作者: awa
42/68

SCENE 41 * Harry * With Joshua

 残業を含む仕事と、その後の同僚たちとの食事が終わったあと、ハリーは自宅のあるウェルス・パディを通り過ぎ、ハーバー・パディのコーストへと向かった。

 かつてハーバー・パディにあった海岸は何十年もまえに埋め立てられ、今は木工業地帯となっている。そこに、高校時代を共に過ごした友人の会社がある。ハリーは昼間に職場から、ここ何年も会っていなかったジョシュアに事情を説明し、ひさしぶりに顔を見ようかと、この約束をとりつけた。食事が終わって電話すると、友人はまだ仕事を終えられないとのことなので、ここまでやってきた。

 コースト・グリーン・パークという、元は砂浜だったらしい公園の前に、その友人のものと思われる白いセダン車を見つけると、少し間隔をあけて、ハリーはそのうしろに車を停めた。トラックが多く通ることもあり、通りは広い四車線になっているものの、すでに夜の九時になろうとしているせいか、ひと気はない。

 車を降りたジョシュアは、ハリーの車の助手席のドアを開け、乗り込んだ。

 「やあ、ハリー。久しぶり」ドアを閉め、ホットのブラック缶コーヒーを彼に差し出す。「悪いね、まだ仕事中なんだ。あとちょっとだけど」

 ハリーは受け取った缶のプルトップを開け、さっそく一口飲んだ。

 「気にするな。俺も話がついたらさっさと帰ってこいって言われてる」

 すでに缶コーヒーを開けていたジョシュアが笑う。

 「ガキだのなんだの言ってた彼女にそこまで尻に敷かれてるのか?」

 「まさか。基本的には従順だよ。俺のすることに文句を言うわけじゃない。ただこの話は、娘が生まれた時から言ってたことだったからな」

 「なるほどね。で、そうなったきっかけは?」

 その質問に、ハリーは肩をすくませた。

 「息子が自分のダチの娘とつきあいはじめたからだと」

 一瞬あっけにとられたジョシュアだったが、すぐにけらけらと笑った。

 「さすがスーザン! 相変わらずの天真爛漫っぷりだな。やっぱりあれか? 昔とぜんぜん変わらないか?」

 ハリーも苦笑う。「ああ、変わらない。ガキのまま大人になったような女だ」

 「ま、お前が一度も浮気しないでつきあえたのって、スーザンだけだもんな。離婚しないってのもうなずけるよ」

 ハリーは片眉を上げた。「相変わらず失礼なこと言う奴だな」

 彼は笑う。「事実だ。そういえば知ってるか? お前が結婚式に顔出さなかった奴らのほとんどは、けっきょく離婚してってるらしいよ」

 「へえ。定年までまだ二十年はあるだろうに」

 近年は、夫の定年を気に離婚するケースが増えているという。

 ジョシュアは残り少ないコーヒーを一気に喉に流し込んだ。

 「それまで待てないってことじゃないか? 結婚式へのお前の出欠に気づいた一部の奴らは、お前を伝説呼ばわりしてるよ。お前をちゃんと説得してればとかって。なにが基準だったんだ? 仲がいいとか悪いとかの問題でもないよな」

 ハリーは鼻で笑った。

 「どれだけ仲良くやってたとしても、結婚してうまくいくかどうかは、見ればわかったからな。たとえ二十年後だろうと、将来的に祝儀が無駄になるような式には行く必要ないだろ」

 「それだよ」と、彼は天を仰いだ。「おかげでこっちはあれだけ苦労した祝儀が無駄になったっていう」

 「お前は苦労してないだろ。苦労してたら、大学卒業してすぐ結婚なんてしねえよ」

 「まあね。実家の会社に入ることは決まってたから、特に不安もなかったし。というかお前、パーティーはしたものの、ちゃんとした結婚式はけっきょくしなかったな。もうするつもりないのか? なにげに今でも待ってるんだが」

 「するわけないだろ。俺にタキシードなんて似合うと思うか?」

 「思わないけど、スーザンは? 彼女はウェディングドレス、着たかったんじゃ?」

 「あいつは普通じゃないからな。自分がドレスを着ることよりも、オレにタキシードを着せたくない気持ちのほうが強いんだよ」

 ジョシュアはまたも笑った。「さすがだ。あ、そうそう、聞いたか? ひとつ下の靴屋のマイク。嫁が妊娠したよ。ついにマイクも父親だ」

 「ほんとか。四十三で父親デビュー? 結婚式に行った中で、あの夫婦がいちばんわからなかったんだ。マイクはともかく、嫁がどう出るかってのが。まさか離婚してないとは」

 「なんたって十二の歳の差だからな。僕は家族ぐるみで今もよく会ってるけど、嫁もいい子だよ。娘も、歳の離れた姉のように慕ってる」

 「へえ。そういえばお前んとこの娘、うちのと同じ歳だったよな。どこの高校行った?」

 「ミュニシパルの二年だよ。そっちは?」

 「うちも同じ」

 「ほんとか。じゃあ知ってるかもな」ジョシュアの表情が瞬時に悩ましげなものに変わった。「まさか娘に出来た彼氏、お前の息子じゃないよな?」

 「あ? まさか。嫁のダチは俺も知ってる。お前の嫁じゃない」

 彼はほっとした。「ああ、なんだ、よかった」

 「よかったってなんだ」

 「深い意味はない。よし、じゃあこの件、結婚式の祝儀代わりにうんと安くしとくよ。仕事の予定を確認して、今度改めて連絡する。来週中には必ず。スーザンも含めて、一緒にプランを考えよう」

 「ああ、頼む」

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