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EVERY STEP  作者: awa
35/68

SCENE 34 * GAVIN * With Marie

 サイラスの店を出たあと、ギャヴィンはレモンティーを、マリーはチョコレートのクレープを買い、ボードウォークへと向かった。ファイブ・クラウドとウェスト・アーケードの境にあるボードウォーク広場だ。

 並んでステップに腰をおろすと、さっそくクレープを一口食べ、マリーがつぶやいた。

 「やっぱり、あなたたちってすごい」

 ギャヴィンはきょとんとした。「なにが?」

 「だって、友達の親戚の人まで知ってるわけでしょ? そこまでのつきあい、私にはないもの」

 「いや、あれはジャックの身内が特殊なだけだよ。俺だってタイラーとかマシューの親と会っても、挨拶交わす程度だもん。ジャックはあんななのに、周りの大人はなぜかフレンドリーなのが多いんだよね。エレンなんか強烈」

 彼女がすかさず反応する。「強烈!?」

 「そ。あ、そーいえば。このあいだ会った時、エレンが君とジェニーとレナを家に連れてこいって言ってた。で、娘が三人できたみたいに料理するんだって」

 「え。私、料理できないんですけど」

 「あ、そんな気はしてた」と、ギャヴィンはかなり失礼な言葉を返した。

 当然マリーは顔をしかめる。「どうせ、料理本を見ながら作ってもなんかおかしくなるし」

 笑える。「それはすごい。でも大丈夫。俺なんかしようとも思わない」

 「フォローになってないわよ」

 「だよね。ごめん。あ、でも、ミートスパゲティだけは作れる」

 「ほんとに?」

 「ライアン直伝。っていうかまえにジャックの家に泊まった時、作るのを手伝わされたんだよね。ジャックは絶対しないの。ライアンのエプロン姿が似合わなさすぎて笑えるんだけど」

 彼女は天を仰いで笑った。

 「ああ、そういえば、クリスマスの時もしてた気がする。っていうか、あなたもエプロンしたの?」

 「させられたよ。幸い黒だったけど。でもライアンは強烈だったな。派手な赤い花柄のエプロン。エレンのを普通に使うらしい。しかもそれをもう慣れた、みたいに普通につけるから、マジで笑える」

 彼女は笑いが止まらない。

 「やだ、もう、笑わせないで。でもクリスマスに泊まった時は、黒だったわよね?」

 「ああ、たぶんあれがあれだよ。俺がまえにつけさせられたやつ。他の派手なのは、レナとジェニーがつけてたわけだけど」よく覚えていない。「二人がつけてたようなのを、ライアンが普通につけるの」

 「じゃあ今度、そのエプロン姿を見ることがあったら、お願い、写真撮って見せて」

 「いいよ。なんならポーズもつけろって言ってみる」

 ギャヴィンはもう、マリーの気持ちがライアンに向いているかもとなどとは、思っていない。ただ、彼女の口からライアンの名前が出ると、やはりまだ切なくなる時はある。くだらない嫉妬だ。変な意味ではないが、自分の知らない彼女の姿を、ライアンは知っているのだという事実──どうしようもない過去に対する嫉妬。

 マリーが続ける。「お願い。あとできれば、あなたのも」

 彼はかたまった。「それはちょっと──」いやだ。

 「ああ、わかった。じゃああなたの誕生日には、エプロンをプレゼントする。ちゃんとメンズで」

 「頼むからやめて。っていうか、十七歳やそこらの男がマイエプロンを持つって、どんな? たぶん俺が知ってる中でライアンだけだよ」

 真剣な表情で彼女が訊く。「持ってるの? ライアン」

 「うん、ごめん、知らない」

 彼女はまた笑う。「じゃあ、彼の誕生日にもエプロンね。ふたりでうんと派手なの選ぶの。なんならレディースで。」

 「叩きつけられそうだな。いるかこんなの! みたいな」その光景は、容易に想像できる。

 「されたら泣く。レナたちにも頼んで、みんなで説得するの。それでサンドウィッチを作って! みたいな」

 「そこはクッキーとかにしようよ。もっと女っぽいものを作らせる。それを写真に撮って、高校の卒業アルバムに載せてもらう。一生の記念」吉と出るか凶と出るか。

 マリーはまたも天を仰いで笑った。

 「いいわね、最高。夢にまで出てきそう」

 「それはヤだな。なにが哀しくて夢でまであいつに会わなきゃならないんだ」

 「あら、哀しい夢よりいいわよ。──あ。チョコ、食べられる?」

 「食べられないことはないけど。食べないだけで」自分でも呆れるほど素直すぎる回答だった。そしてすぐ、彼女がバレンタインのことを言っているのだとわかった。

 「あんまり甘いもの、食べないわよね。食べられるものってなに?」

 「んー。それほど好き嫌いがあるわけじゃないから──なんでも」

 彼女はまた顔をしかめる。「それ、いちばん困る答え」

 「君の想像と勘に任せる。君がくれるものならなんでもいい。キライなものでも、君がくれるなら食べるし」

 マリーの頬が赤くなる。だが、すぐになにかを考えるような表情に変わった。「じゃあ、甘くなさそうなチョコにする」

 「うん」

 「それでね、明日は放課後、アニタとセンター街に行く約束、してるの」

 「じゃあ明日は学校だけだ」

 「ごめんね」

 「いや、俺も用があるから」とギャヴィン。マリーを送ったあとにと思っていたが、なんなら学校から直接、ジャックの家に行けばいい。彼も直帰するはずだ。「また家に帰って、暇になったらメールして。そしたら土曜、どうするか決めよ」

 「うん」

 ふいに、マリーが右耳に髪をかけた。

 ギャヴィンが反応する。「ちょ、それ。ピアス。赤いの」

 「うん? ああ、ジェニーがね、くれたの。なぜかひとつだけ。裏にあなたの名前の頭文字が入ってる」

 ジェニー。赤。ジャック。頭文字。ひとつだけ。ジェニー。ジャック。赤。ひとつだけ。ひとつだけ。

 そういうことか。そう思った次の瞬間、ギャヴィンは彼女から顔をそむけ、笑った。

 当然彼女はぽかんとする。「ええ? なに?」

 「ああ、ごめん。違う。そうじゃなくて」彼はカバンを探って小さな白い袋を出した。彼女に言う。「手、出して」

 「うん?」

 マリーが出した右手に、袋の中の赤いピアスを落とした。

 「俺も今日、ジャックとジェニーにもらった。もう塞ごうかと思ってたんだけど」すっかり忘れていたのだが、このピアスもあのクソ女に触られている。「それ、裏側に“M”の文字が入ってる。マリーの“M”だって言ってた。ひとつはどっかに落としたっぽいとかって」

 彼女はピアスと彼の顔を交互に見やった。

 「ほんと? これ、ペアなの?」

 「うん、たぶん。なんかよくわかんないけど、もともとはひとつのセットだったんだと思う」あのふたりが考えそうなことだ。

 「──つけて、くれる?」

 可愛い。「うん、つける。なんなら君がつけてくれてもいいけど」

 「それは怖いから遠慮しておきます」

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