表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVERY STEP  作者: awa
31/68

SCENE 30 * JACK * With Jennie With Rian

 ジャックはウェスト・ランドにある図書館にいた。

 ジェニーが本を探す傍らで、彼は“フェイト”という題名の本を見つけ、手にとってぱらぱらとめくった。プロローグと適当に開いたページを読んだ限りではあるものの、内容はほとんど知らないものの、おそらく間違いないと思った。昔、ライアンがドラマで観たものだ。“運命”をテーマにした、ライアンがそれを信じるきっかけになったドラマ。

 ジャックはジェニーと交際するまで、文字ばかりの本をまともに読んだことがなかった。今は彼女につきあってよく本を手にとるが、それでも最後まで読みきったものはない。けれど、これなら読めるかもしれない、と彼は思った。そしてそれを借りた。

 本を借りたふたりは、外に出て懐かしい場所に腰をおろした。去年、交際がはじまるまえ、はじめて学校外でひとりでいるジェニーを見つけ、ジャックが声をかけた場所だ。寒いのを承知でそこへ向かったのは、ライアンやギャヴィンから電話があるからかもしれない、という理由からだった。

 あとで適当に答えておく、とジャックは言ったのだが、もし電話があればちゃんとあやまりたいと言ってジェニーが折れなかった。彼は巻き込んだことを後悔した。自分と違って、ジェニーは芯からいい人間だ。嘘をついたことで、きっと罪悪感を感じている。よく考えもせずに嘘につきあわせたことを、彼は申し訳なく思った。

 腰をおろした場所で背後にあるイチョウの木にもたれ、脚を立てて借りた本を開く。ラブロマンスの本を借りたジェニーも同じ体勢だった。

 ジャックはもう一度、プロローグから読むことにした。まずはセリフだけではじまる。

 夢を叶え、三年後に再会──運命で繋がっている。

 ライアンの信じる“運命”が、ここにある。

 本編に入ると、読んでいる行を指で確かめながら、ジャックはゆっくりと読み進めていった。

 プロローグは、“イヴ”がみた夢だった。過去の幸せ。終わった恋。娼婦。ボーイ。──遊郭。こういうものは、想像力が必要になる。ジャックにはそれほどなかった。それは彼自身も自覚している。──これは、また過去? 帰郷の連絡。性犯罪の増加──遊郭が国の支え?

 気づけば彼は、食い入るように読んでいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 突然本の前にジェニーの顔が現れ、ジャックははっとした。

 彼が我に返ったことに気づき、彼女は苦笑いながら顔をひっこめた。

 「真剣すぎ」

 本の世界に入っていた彼の脳内は、一気にジェニー色に染まった。「ごめん。呼んだ?」

 彼女はいつのまにか、木にもたれているのではなく、両脚を寝かせて彼のほうを向いている。「ええ。五回は呼んだし、三回は腕をつついたと思う。でも気づかなかった」

 最悪だ。「ごめん」

 ジェニーは笑った。「私はいいんだけど。今は鳴り止んでるけど、電話が鳴ってたの。──ほら。また」

 彼のジーンズのポケットの中で携帯電話が鳴っている。まったく気づかなかった。それを出し、画面を確認した。

 「ライアンだ。きた」

 そして開いたままの本をカバンの上に伏せた。

 「きた」と言った彼女は彼に寄り添うよう座りなおした。いつも以上に近い距離だ。腕が、脚が触れている。「スピーカーフォンにできる?」

 ジャックはバカになっている。「できなかったら、この状態でいてくれる?」

 彼女が照れ笑う。「できてもできなくても、この状態でいるから。本が読みにくくなければ」

 バカが暴走をはじめた。「キスしていい?」

 「したい。でも、すぐに電話に出なきゃだめよ」

 「わかってる」

 携帯電話を左手に持ち替え、ジャックはジェニーにキスをした。

 先週日曜の夜、彼女に電話をもらってから、正直なところ、週末が待ち遠しくてしかたなかった。あれだけ大きかった不安や恐怖が、もちろん消え去ったわけではないのだが、それよりも、ずっと一緒にいたいという気持ちのほうが、どんどん大きくなっている。おそらく彼女も不安を感じているだろうものの、それでも、同じように思ってくれている気がする。と、ジャックは思っていた。

 唇が離れる。ジェニーの頬は、ピンクに染まっていた。

 「──電話。出て」

 「ん」

 彼は右手で、彼女の手を握った。スピーカーフォンになるようにして電話に応じ、携帯電話を立てた右脚で支える。

 第一声から、ライアンは怒っていた。「遅いわ!」

 彼らは思わず顔を見合わせ、苦笑った。

 ジャックが言う。「ごめん。どうした?」

 「どうした? じゃねえから。あのピアスはなに? なんのおせっかい? 裏側のあれ、オレの頭文字のつもりじゃねえだろ。絶対違うだろ」

 どうやらばれたしい。「気づいてくれて嬉しい。レナと見せ合いっこした?」

 ライアンは不機嫌だ。「は? してないわ。さっきまで一緒にいたけど、そん時は忘れてて、電話して訊いたの。けどあいつには言ってない。電話切ってすぐお前に電話したから」

 レナの誕生日当日だというのに、その帰宅の早さにジャックは驚いた。

 「ごめんね、ライアン」ジェニーが言った。「嘘ついてごめんなさい。でも、どうしてもふたりにつけてほしかったの。お願い、はずさないで。レナにも明日、ちゃんと言うから」

 「──はずしはしないけどさ。面倒だし。でもあれ、なんなの?」

 「私たちね、ピアスを買ったの。あなたたちと色違いで。それをふたりで分けた。それであなたたちと、マリーとギャヴィンにも渡そうかって。裏の“R”もそうだけど、表にも好きな言葉を入れられるってお店の人に言われて。それで、言葉を入れてもらった。読みかたはわからないけど、どこかの国の象形文字だって」

 「──なに、入れたの?」

 おそらくわかっているな、とジャックは思った。「お前が好きな言葉。お前の信条」

 「アホ!」

 大声でそう言うと、ライアンは一方的に電話を切った。ジャックと顔を見合わせると、ジェニーは不安そうな顔をした。

 「大丈夫かな」

 「大丈夫。あれは照れてるだけだから。素直なんだか素直じゃないんだか、よくわかんない奴なんだ。照れた時は特に、とりあえず怒ればいいと思ってる(バカだから)」

 彼女が苦笑う。「明日はずしてたら、怒ろうね」

 「うん」ジェニーも関わっているのでおそらく、それはしないと思うが。そしてこっちのバカの暴走も止まらない。「もう一回、キスしていい?」

 ジェニーはやはり、頬を染めて微笑んだ。「もちろん」

 そしてふたりはまた、キスをした。

 バカは、欲張る。

 「──提案が、あるんだけど」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ