SCENE 23 * JENNIE * With Jack With Rian
二月九日、火曜日のランチ後。
最近のこの時間は、よく体育館に集まって遊ぶのが、今日のジェニーはジャックと一緒に、校舎の三階にある旧図書室に来た。
窓際、前方からふたつめの席。この旧図書室に来ると、彼女たちはいつもここに座る。ジャックが窓際で、ジェニーがその隣だ。恋人になってから三ヶ月と少し、毎日ではないものの、ふたりはここで、いろいろな話をした。
ジャックはジェニーのほうを向いていた。高さ約四十センチの古い木製の椅子に座って脚のあいだで両手をつき、彼女に真剣な表情を向けている。
「まだだめ?」
いつものことだが、こうしてふたりきりでいると、彼に触れたい衝動に駆られる。学校なのだからと、ジェニーは自分に言い聞かせるのに必死だ。
「だめ」と、彼女もやはり真剣な表情で答える。
「早いほうがいいと思うんだけど」
「だめよ、絶対だめ。ちゃんと待たなきゃだめ」
「でも、忘れたら困るし」
「忘れないから、だめ」
「というか、どっちから?」
「あなたからでしょ」
「僕? でも変じゃない?」
「私からでもいいけど、でも、なんか悪い気がする」
「それはわかるけど、でも、こっちからっていうのも、ちょっと──」
「あなたからって話じゃなかった?」
「そうだけど、なんか考えたら──」
「いつまで続けんだよそのやりとり」
突然自分たち以外の声がしたので、彼女たちは前方戸口のほうを振り返った。ライアンが戸口に立っている。ふたりの会話が止まったのを確認したからか、彼も図書室に足を踏み入れ彼女たちのほうへと歩いた。
ジャックは呆れた顔を彼に返す。「なに、またノゾキ?」
ジェニーは、自分たちが“ピアス”という単語を使っていないか、もしも言ってしまっていたとすれば、それをライアンに聞かれていないかというのを気にしている。「ハイ、ライアン。どうしたの?」
「いやいや、どうしたのじゃなくて」彼は六人から八人用としてある古い木製の机の、彼女たちの向かいに立った。机に両手をついて身を乗り出し、顔をしかめる。「学校でそういう話をあからさまにするのは、どうかと思うぞ?」
意味がわからず、ジェニーはぽかんとした。
「アホ。勘違い」と、ジャック。「で、なに」
「なにじゃねえ。今日は体育館でドッジするって言ったはずだけど」
彼女の脳が反応した。
ジャックがすかさず答える。「今日はしないって言ったはずだけど」
「無理。来週は三日も体育館が使えないんだぞ。今のうちに遊んどかねーとどうすんだっていう」
来週は入試がある。レオたち中学三年生の受験だ。
「そうだけど。僕らには関係ない話なわけで」
“ら”。
「んじゃジェニーに決めてもらうか」ライアンがにやついて彼女に言う。「どうする? ジェニー。今、マシューとギャヴィンがベラを引きずり出しに行ってる。一部の女共は、ベラが来て、あいつと一緒のチームになれるなら、レナたちは、ジェニーが来たら一緒にやるって言ってる」
ジェニーの脳がまたも反応した。ベラが来る。彼女が来ると、ドッジボールが格段に楽しくなる。突然特殊なルールを提案し、あっというまにみんなの了承を得てしまう。それが楽しくて、せめて放課後まではずっとドッジボールをしていたいような気にさせてくれる。そのうえ、彼女はドッジボールがとても強い。
だがジャックはまたも呆れた。「お前ね。そういうやりかたは──」
いつもジャックを振りまわしている気がすると、ジェニーは感じている。「じゃあ行く」
彼はきょとんとした。「え」
ライアンは勝ち誇ったような表情で両手を腰にあてた。
「よし、決まり。今日のチーム分けはカップルが敵ってやつな。ジェニーとギャヴィンはオレのチーム。あとアニタ。ジャックとマリーとレナは、マシューのチーム。他の奴らも適当にバラけて、ベラはジャンケンで取り合うか、あいつの気まぐれにまかせる」
いつかはちゃんと話さなければいけないと、ジェニーはわかっている。それでも彼女はそんな考えをおくびにも出さず、笑顔を見せた。
「楽しそう!」
「いや、どうかと──」
躊躇するジャックに彼女が言う。「行きたくない?」
彼は自分のことを、理解してくれている。
ジャックは不満そうだ。「──敵だよ?」
好きすぎてどうにかなってしまいそうだ。
ジェニーは笑った。「大丈夫。あなたは絶対、私にボールを当てないって信じてる」
「オレも信じてるぞ、ジャック」ライアンが言う。「お前はそんなひどいことはしない」
ジャックは唖然とし、彼女と彼を交互に見やった。
「いや、それはそうだけど──」
「大丈夫よ、ジャック」ジェニーは彼の両手に手を添えた。「私も、あなたには当てない」
ライアンが口をはさむ。「いやいや。そこは当てろ」
だがジャックは無視し、真剣な表情で彼女に訊き返した。「絶対?」
「絶対。約束する。そんなことしない」こういう時は、彼にキスをしたくなる。「あなたは敵チームにいても敵じゃない」
ライアンは完全に呆れていた。「いや、イチャつかなくていいから。時間もったいねえから。ベラが来てたら地獄だぞ。待たせたらキレられるの、オレらなんだからな」
ジェニーとライアンの言葉に、ジャックは笑った。
「わかった。行く」
ごめんね、と、ジェニーは心の中で彼にあやまった。




