SCENE 21 * JACK * With Jennie
何日も手元に置いておきたくないという理由から、金曜に配達されるよう指定した避妊具の注文が終わり、よくわからないアドバイスをいくつかしてくれたギャヴィンが帰ったあと。
ジャックは、バレンタインに旅行に行くという話を両親から聞いた。それも、土曜の朝に家を出て、月曜の夜まで帰ってこない予定だという。土日は彼の元恋人、レイシー一家と会うらしい。
先日ライアンに言われるまで忘れていたものの、以前から予想はしていた。忘れていたものの、バレンタイン旅行のことはわかりきっていたことなので、妙にそわそわするのもおかしく、勘づかれたくもないので、勘ぐられたくもないので、週末の計画を顔に出さないよう、ジャックは必死だった。
自室のドアを開けたところで暗闇の中、テーブルの上に置いていた携帯電話が鳴っていることに気づいた。ジャックは明かりもつけずそれを手に取り、画面を確認した。ジェニーだ。
「はい」三人掛けのソファに腰をおろす。「どうかした?」
彼女が切りだす。「あのね、変な意味じゃなくて、ちょっと気になって」
「うん」
「──なんか、今日、夕方から、元気がなかった気がしたから」
いつのことを言われているのか、ジャックにはすぐにわかった。夕方、ギャヴィンから電話があったあとだ。そんなつもりはなかったのだが。
「ごめん、顔に出てた?」
「違うわ、あやまることじゃないの。ただ、大丈夫かなと思って」
ある意味では、大丈夫ではなかった。「大丈夫。ただ、あの瞬間はほんとに、君にキスしたかったなと思って」今日は一段と大胆だ。
電話越しにジェニーが笑う。
「そうね。たぶんあの瞬間は、今日の幸せレベルが最高だったもの」
そのとおりだ。「電源、切っておけばよかった」
そう言いながら、ジャックはソファに寝転んだ。
「大切な電話だと困るもの。そういうのは言っちゃだめ」
彼女はやさしい。確かに大切な電話だった。ある意味では。「うん。ごめん」
「ん──あのね」
「うん」
「たぶん、明日から、週末が近づくにつれて、もしかしたら、うまく話せなくなるかもしれない。今日以上にきっと、ドキドキがすごく大きくなっていくと思うの」
それは、自分も同じだ。「僕も、うまく話せないかもしれない。今も、こうして君の声を聞いてるだけで、すごくドキドキしてる。でも、気まずくなんてなりたくない」
「うん。私も、気まずくなんてなりたくない。だから、もし私の態度が変でも、気にしないでほしいの。やめようかなんて言わないで。これは嬉しいドキドキで、嬉しい緊張だから。それで、あなたがもし、私と同じように緊張しててくれるなら、その状態を無理やりどうにかしようとしたりも、してほしくない。私も、しないから。ふたりで一緒に緊張して、なに話せばいいかわからなくなって、笑って、そうやって、週末を迎えたい。そういう時間も、ちゃんと覚えておきたいの」
ジャックは目を閉じて、彼女の言葉を聞いていた。素直に、とても嬉しい。
「──うん、わかった。言わない」彼女の気持ちが、すごく嬉しい。「もしかしたら、かなりアホっぽいとこ、見せちゃうかもしれないけど」好きすぎて、どうにかなりそうだ。
ジェニーはまた笑う。「それは、私も同じ。──あなたにね、伝えたいことが、たくさんあるの。溢れるくらい、たくさん。たくさんすぎて、伝えきれるかどうかはわからない。それでも、伝えたい。すごく好き。あなたのことが、本当に好き」
いい意味で、嬉しい意味で胸が締めつけられる思いがし、彼は左手で、胸の上のスウェットを掴んだ。
「僕も、伝えたい」
やはり、そうだ。
「もしかしたら、どれだけ時間をかけても、すべてを伝えるには足りないかもしれないけど、それでも、伝えたい」
これは、好きのレベルではない。
「僕も、すごく好きだ。君のことが、ほんとに、すごく好きだ」
これはもう、愛の領域だ。




