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EVERY STEP  作者: awa
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SCENE 01 * JENNIE * Girls Talk

 二月六日、土曜日の午後──ベネフィット・アイランド・シティのショッピングの中心地、センター街。

 ジェニーは、グランド・フラックス・エリアにあるカラオケボックスの個室にいた。小学校からの親友で、高校でも同じクラスのレナ、そしてクラスは違うが去年末からよく一緒に遊ぶようになったマリーが一緒にいる。三人が今日集まったのは、一緒に遊ぶためというより、来週に控えたレナの誕生日プレゼント候補を探すため、そして、一週間と一日後にあるバレンタインの相談をするためだ。バレンタインは一緒に、チョコを手作りしてそれぞれの恋人に渡してみようかという話になった。

 彼女たちはランチをとったあと、本屋でチョコレート作りに関する雑誌を一冊ずつ買った。今現在、カラオケボックスの個室でそれを広げて読んでいる。ここに入ったのは歌をうたうためではなく、静かに話せる場所が欲しかったからだ。

 案内されたそこは、縦長の小さな部屋だった。ドアを入ってすぐ左側にカラオケ機材が置かれ、部屋の半分を使って白い壁に沿うよう淡いピンク色のソファがU字になるよう置かれている。そして中央にはテーブル。それぞれがそこに一冊ずつ雑誌を広げ、食い入るように見入っていた。

 「やっぱり面倒なの、イヤよね」奥のソファ、注文したフライドポテトを食べながら雑誌をめくっていたレナが言った。

 マリーはドアのほうに顔をそむけ、遠い目をする。

 「っていうか二人は料理できるみたいだけど、私はできないし──」

 ジェニーは彼女の向かい、ドアからいちばん近い席に座っている。「私もチョコは苦手。一度中学の時、レナと作ろうとして失敗したし」

 レナは笑った。

 「あったあった。トリュフだっけ? ぜんぜん固まらなかったのよね。なにがどうなったのかよくわからなくて、他の無難なのを作ろうとしたけど、チョコ溶かしてまた固めるだけなんて意味ないじゃない! とか言って」

 彼女も笑いながらうなずいた。

 「そうそう。けっきょく残った板チョコ、レナの弟と三人で食べたの」

 マリーも笑う。「わかる。バレンタインは手作りチョコ! みたいに息巻くけど、たいていは溶かして固めるだけだもんね。なんか作った! みたいな感じになるけど、形変えただけじゃない? みたいな」

 「そうそう。それでけっきょく、クッキーを作って友達に配ったの。それからはもう、チョコには手をつけてない」

 「私もそう」とレナ。「じゃあもうクッキーにする?」

 「でもレナ、ウィスキーボンボン、作りたいんじゃなかったの?」マリーが訊いた。

 「だって難しい」レナはソファに背をあずけ、投げやりに脚と腕を組んだ。「っていうか、あいつにバレンタインなんてイベントは似合わないと思うのよ」

 「それを言っちゃったら、バレンタインっていうイベントが似合うのなんて、ジャックだけなんじゃ──」

 ジェニーが苦笑う。「似合うって、よくわからないんだけど」

 「ギャヴィンに聞いたんだけど」腕を脚で支え、マリーはジェニーに向かって身を乗り出した。「冬休み、ピクニックに行ったでしょ? あれでライアンに誘われた時、ライアンがジャックのこと、“聖剣士”って言ってたらしいの」

 「聖剣士!?」すかさず声をあげ、レナは大笑いした。

 苦笑ったものの、ジェニーにはよくわからない。「ごめん、ぜんぜんわからない」

 「私はわかる」とレナが言う。「聖なるって感じ。邪な気持ちがないっていうか」

 マリーも笑う。「そう! そんな感じ!」

 そう言われれば、なんとなく意味はわかった。だがまた、最近自分の頭の中にまとわりついている疑問がジェニーの脳内をよぎる。もう、訊いてしまったほうが早いのかもしれない。

 「ねえ、二人──って──」

 よく考えもせず、彼女は切りだした。言ったとたん、後悔した。レナとマリーが笑いを止めて自分を見ている。彼女は躊躇し、言いよどんだ。

 「ええと──」

 ジェニーの顔は真っ赤になっている。顔だけでなく、全身が火照るように熱い。

 脚に肘をついて手に頬を乗せ、レナが彼女に微笑む。

 「寝たのかってこと?」

 そのとおりだったが、うなずけるはずなどなく、ジェニーは首を横に振った。

 「ごめん、忘れて」

 マリーが苦笑う。「ギャヴィンとはまだ。家が反対方向だし、泊まったりってこともしないな。普通にデートして、たまに夕飯を一緒に食べてバイバイ、みたいな。いつも送るって言ってくれるんだけど、なんか悪いし。だから夜の八時くらいには解散」

 ジェニーも似たようなものだ。ただジャックはいつも、通り道だからといって送ってくれる。厳密に言えば通り道ではないのに。

 「私はした」レナが答えた。「つきあいはじめてすぐ。わかってると思うけど、ピクニックの日」

 一月の五日のことだ。レナはその日、ライアンとつきあうことになった。そしてピクニックの帰り道、ふたりは途中でバスを降りた。まだ帰りたくなくて、ふたりきりになりたいだけだとジェニーは思っていたのだが。

 ジェニーが質問を返す。「早く、ない?」

 「んー。早い気はした。っていうか早すぎ。それはわかってる。でもなんか、つきあってなかった年末年始、普通じゃ考えられないほどキスはしてたし、どっちもはじめてじゃないし」言葉を切ってレナが苦笑う。「ただもう、どれだけ知らない部分があったんだろうって思ってて。もっと知りたい一心で。あいつはあれでも気を遣っててくれたみたいで、ホテルに入っても、最初はしようとしなかったんだけど」

 もっと知りたい一心──その気持ちは、ジェニーにもわかった。

 マリーが言う。「っていうか、やっぱり、ジェニーって──」

 彼女はうつむき、両手で顔を伏せた。

 「ぜんぜん」

 「だよね。ごめん」

 首を横に振った。あやまられることではない。

 「違うの。ジャックが考えてることはわかる。みんなに対する嫌味じゃなくて、私たちはまだ高校生だし、早いってわかってる。このままでも、じゅうぶん幸せ。ただ──」

 ジェニーは言葉を切ったが、レナは続きを促した。

 「ただ?」

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