SCENE 14 * MARY * With Gavin
マリーとギャヴィンは手をつないで早々にカフェをあとにし、ボードウォークへと向かった。橋の下だ。友人であるリタと最後に電話した場所ではないし、そこに嫌な思い出があるわけではないが、打ち合わせることもなく、ふたりの足は自然とそこへ向かっていた。おそらくどちらも考えたことは同じだった。少しでも、ふたりきりの気分が味わいたかった。
“約束しない? 今までにないくらいの、大きな勇気を出すの”
橋の下に着いたところですぐ、マリーは行動に出た。右手につないだギャヴィンの手を引いて自分のほうを向くよう促し、そのまま勢いで彼の背中に両手をまわして、彼に抱きついた。もう、なにも考えていなかった。
「──先に、されたし」
彼女はぽかんとしてギャヴィンを見上げた。
「先に?」
「いや、なんでもない」
そう笑って、彼もマリーを抱きしめた。
そしてまた、キスをする。最初は、いつもどおりのフレンチキスだった。そして何度目かで、いつもとは少し違うキスを──フレンチプラスアルファ、といったものでもなく、もっと深いキスを、何度も何度も、何度もした。
マリーには改めて、ジェニーの気持ちがわかった気がした。
“もっともっと知りたくて、もっと伝えたくて、抱きしめてキスして、言葉で伝えて、それでも、自分の気持ちには、足りない気がする”
彼女も今、まさにこの瞬間、そう思っていた。どうすればこのドキドキを、とてもとても好きな気持ちを、彼にわかってもらえるのだろう。
そう考えると、単純なマリーが行き着く答えは、ひとつしかない。
ジェニーは、自分やレナと違って経験がない。おそらく彼女は、とても怖いだろう。なのに彼女は、おそらくいちばんに、そこにつながるかもしれない約束を、それ以上のことを、実行した。本当に、彼女はすごい。
何度目かのキスで、マリーの唇から彼の唇が離れた。それでもまだ足りないと、彼女は感じていた。
ギャヴィンは彼女と額を合わせ、目を閉じた。
「──来週の、土曜」
マリーも目を閉じる。ドキドキがおさまらない。「うん」
「──から、次の日の日曜」
彼女は笑った。「うん」
「一緒に、いてくれる?」
大きく心臓が揺れ、彼女は目を開けた。──“から”。つまり。
ギャヴィンが言う。「無理やり、そうなろうとは思わない。これは断ってくれていい。さすがにクソ女とアホ男の思い出を塗りつぶすために、その目的だけでホテルに行こうなんてことは思わない」
“クソ女”、という言葉には、鈍感なマリーも反応した。以前つきあっていた恋人のことなのか。鈍感な彼女にもわかるほど、憎悪と嫌悪を感じた。──気がした。
彼は続けた。「ただ、土曜の朝から日曜の夜までって言えるくらいの長い時間、君と一緒にいたい。普通に話して、なんならゲームして、歌聴いて、そういうのでもいい。それ以上のことは、なにもしなくていい。行ったことないホテルでも、家族とはちあわせてもいいって言ってくれるんなら、俺の部屋でも、どこでもいい。どこでもいいから、いつもよりもずっと長い時間、君と一緒にいたい」
彼も、同じことを考えてくれていた。ギャヴィンは、嘘でそんなことを言う人ではない。自分がそう言えば、本当に、彼はなにもしないだろう。
マリーは顔を上げ、彼の視線を受け止めた。
「いる。ずっと、一緒にいる」
その答えに、彼は照れたように微笑んだ。彼女は彼の首に手をまわし、また、キスをした。
何度も、何度も、何度も、気持ちを伝えたい一心で、キスをした。




