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EVERY STEP  作者: awa
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SCENE 12 * RIAN * With Reo With Rena And Slipped Away

 ベネフィット・アイランド・シティへと帰るのに乗った電車内も、やはりひと気はなかった。たった二両しかない車両でそれなのだから、ベネフィット・アイランドの田舎度は本当に半端ではない。

 行き道と違うことと言えば、レオ、ライアン、レナと、三人並んで座っていたことか。ライアン的にはどうも自由がないような気がするのであいだにはさまれて座るのは好きではないし、彼の右隣にいるレナはやはり相変わらず目を閉じ、ヘッドフォンで歌を聴いている。

 「ところでこいつ、なに訊いてんの?」ライアンはレオに訊いた。

 「あー、“Slipped Away”っていう、なんかすごく暗い内容の歌。いや、ロックバラード? なんだけど。プレーヤー、俺のなのに」

 「へー」

 なにを思ったか、ライアンはレナの頭からヘッドフォンを奪った。

 当然彼女は怒って彼を睨む。「なにすんのよ」

 「黙れアホ」

 ヘッドフォンを自分の頭につける。大音量すぎだ。コードについているコントローラーでボリュームを下げ、曲を巻き戻して再生した。

 流れてきたのは、いかにも暗そうな音楽だった。



  ねえ聞こえてる?

  あなたを呼んでいるの

  今とても後悔してる

  でももうあやまることすらできない


  あなたならきっと赦してくれるなんて

  そう思ったのが間違い


  あなたは真夜中にそっと姿を消した

  わかっていたの

  その時なにかが私を目覚めさせたから


  あなたの最後の言葉をまだ覚えてる

  私があなたの手に触れた時

  すべてを終わらせたいと

  あなたは静かにそう言った


  あなたの痛みを知ろうともせず

  私が与えていたのは空っぽの言葉


  あなたは真夜中にそっと姿を消した

  わかっていたの

  だけど私はあなたに会いに行かなかった


  深く暗い場所で

  あなたはずっとひとりで戦ってきた

  そんなこと望んでいなかったのにね

  さよならを告げることもなく

  空へと昇っていったあなた

  赤い花が咲く頃


  あなたが恋しい

  あなたが恋しい

  もう会えない

  もう会えない

  あなたは二度と戻ってこない

  あなたが必要

  あなたが必要

  もう聞けない

  もう聞けない

  本当のことを教えて 私を愛してた?


  あなたは真夜中にそっと姿を消した

  わかっていたの

  だからこそ最後の別れを言うべきだった


  あなたは真夜中にそっと姿を消した

  わかっていたの

  それがあなたに会える最後のチャンスだった


  ごめんなさい



 ライアンは唖然としていた。音的には問題がないのだが、詞の内容の暗さが衝撃だった。どこまで重なっているのかはわからないが、こんな曲をよく見つけたなとも思った。

 コントローラーで音楽を停めると、コードを頼り、レナのコートのポケットからCDプレーヤーを引きずりだした。ヘッドフォンと一緒にレオに渡す。

 「ほれ、返す」

 だがレナはやはり怒った。「なにすんのよバカ」

 「うるさい黙れ」

 とは言ったものの、ライアンにも、気持ちがわからないわけではなかった。というより、そうなってしまうのがわかる、というべきか。右足を左脚の上に乗せると、彼は右手でレナの左手を探し、見つけた彼女の指を適当に握った。レオに訊く。

 「お前、チャリ好きだよな」

 彼はコートのポケットにプレーヤーを入れ、ヘッドフォンを首にかけている。

 「チャリが好きっていうか、バスが嫌いなだけだけど。なんなら車がいちばん好きだけど」

 「オレもだけど。昼飯食ったらセンター街のどっかでチャリ買うから、お前もつきあえ」

 「いいけど、誰のチャリ?」

 「レナのチャリ。鍵借りるのにお前がゲームソフト買えとか言うから」

 彼は笑った。「一回しか言ってないし。あの電話、聞いてたの?」

 「聞こえてたんだよ。このアホが電話切らずにお前と話すから。おかげでオレ、十二月ぶんの電話代がやばくて、いくらか金とられたし」

 これはライアン自身が悪い。今も以前もレナに電話をすることはそうなく、十二月といえば、ジャックやマリー、その他を相手に少々の長電話をしていた。

 そしてレナが反論するものだと思っていたのだが、そんなことにはならず、代わりに指先だけをつないでいた手が、普通に握られた。

 レオが言う。「ライアン、電話ばっかだもん。俺がメールしてもたいてい電話だし。なんのためにメール機能あるんだっていう」

 「メール、面倒だろ。なにが哀しくてあんな無数のボタンを何回も押しまくって、長ったらしく煩わしい文章作らなきゃいけないわけ? 電話っていう単純明快な素晴らしい機能があるのに」

 彼はまた笑った。「無数のボタンじゃないし。どんな携帯電話だよ。ああでも、今のいいな。そういうののほうがモテるわけだ。よし。高校入ったらそれ使う。女の子に」

 「アホだろ。それよりお前、わりと遊びほうけてるけど、高校受かるわけ?」

 自転車を買うのにつきあえと言ったライアンのセリフではない。

 「俺は姉ちゃんより頭いいもん。余裕。バレンタインも女の子たちと遊ぶし。男もいるけど。そんで親戚の集まりも行って、普通に試験受けるし。で、高校でモテモテライフをはじめる」

 本気でアホだ。「まだ女を部屋に連れ込むだけで誰にも手出せてない奴がなにほざいてんだ」

 そう言うと次の瞬間、ライアンの右手がやたらと強く握られた。レナが怒っている。

 「ライアンが言ったんじゃん。部屋に連れ込めばヤりたい女かどうかわかるって。軽い女かどうかも、相手の気持ちもわかるって」

 確かに言った。「で、けっきょく? いないわけ?」

 「いない。っていうか考えたら、いくらつきあってるっつっても、家についてくる時点でもう、軽い女なわけじゃん。CD貸すとかマンガ貸すとかっていう言葉を信じるわけだから。軽いかただのバカか」

 またも右手がやたら強く握られた。今度は爪が立てられている。少々痛い。

 だがそんなことには気づかずレオが続ける。「だから連れ込んだはいいものの、こっちが引いちゃって。とりあえず今は高校入ることだけ考えて、そこでまた考えようかなと」

 ライアンは納得した。「オレがいい反面教師になったわけだ」

 「あれ、ビビりとかヘタレとか言われると思ったのに」

 以前なら思ったし、思ったこともある。「言わね。お前は、ホントに好きな女とだけヤれ。一生かけてとまでは言わないけど、せめてその時は本気で好きになった奴とだけ。オレみたいになると、あとから後悔する。かもよ」自分で言って驚いた。後悔しているのだったか。後悔しているのか。

 レオはやはりにやついた。「へー。で?」

 続きを求める意味がわからない。「黙れアホ。ガキ。昼飯おごらねえぞアホ」

 「うそ、ごめん。マジごめん」

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