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お隣さん2

作者: 羽柴 千笑



 目覚まし時計の音にまぎれて、インターフォンが鳴っている。

昨日のことがあってなかなか寝付けなかった私は、最悪の目覚めだった。

時計を掴んで目覚ましを止めて、急いで玄関へ向かう。

「…はい、どちらさまですか…」

≪あの、すみません!昨日隣に越してきたものなんですけど、電子レンジ貸して貰えませんか!?≫

「……。」

なんとも非常識な人間が移り住んで来たものだ。

私はため息をつきながらも、そいつがどんなヤツなのか確認するためにのぞき穴に目を近づけた。


「……う、うそ」

 穴から見えたのはボリュームのある栗色の髪の毛。手には私の家にあるのと同じラッピング用紙。

私は急いでドアを開けた。

「…・・あ、お姉さんは!」

彼は驚きながらも笑顔だった。私は驚きとときめきとでドキドキしていた。

「と、隣に引っ越してきたって…」

「すごい偶然ですね。隣に越してきたアカホシです、よろしくお願いします!」

「あ…どうも…」

今さら自己紹介をしあって、そうだ、とチョコの存在を思い出す。

「レンジ貸してくれって、もしかしてそれを温めるため?」

「そうです!貸してもらえますか?おれんちレンジなくって」


とりあえず彼を玄関に招き入れる。

「わー。同じ部屋のはずなのに全然違う部屋に見える。オシャレですねー」

「引っ越してきたばっかりだとそうなるよね」

つい彼の親しみやすい雰囲気に影響されてタメ口になってしまって、そういえばいくつなんだろうと思った。

「アカホシさんっていくつなんですか?」

「えっと、18です」

「若っ!え、なにしてるの?」

「んーー、仕事探し中です」


玄関じゃなんだからとりあえず部屋に入ってもらった。

話を聞くと、高校はまだ卒業していないが、ほとんど学校に行かなくて良い時期らしく、

家を何も言わずに出てきてしまったらしい。やりたいことがあって、ガマンできなかったとか。

「大丈夫なの?ちゃんと卒業できるの?」

「たぶん。卒業式にはちゃんと出ますから!」

笑顔で言うけど、そういう問題なのか…?それに、一人暮らしなのに、保護者の同意とか…

「こっちに来れたのはじいちゃんが手助けしてくれたからなんですけど、これからはそうもいかないし、ちゃんとバイトしてお金貯めなきゃいけないんです」

「就職はしないの?」

「就職しちゃうと、出来なくなるんですよ。やりたいことが」

「…やりたいことって?」

「……秘密です」

笑顔ではぐらかされてしまった。そうこうしてるうちに、レンジがチン、という音を鳴らして、彼が

「温まりましたねー!食べましょう!」

なんていうから、続きは聞けなかった。

温まったフォンダンショコラと一緒にコーヒーを出してやると、嬉しそうに口を付けた。

「お姉さんは、いくつですか?」

「21。まだ大学行ってる」

「へえ。大学楽しいですか?」

「…普通?勉強するために行ってるんだしね。就活真っ最中だし」

「一緒ですね!おれはバイト探しですけど」

ニコニコしながら話す彼。こちらまで笑顔になってしまって、くだらないことを色々話してしまった。


「もうこんな時間だ!お姉さん学校は?」

「今日はお昼からだから平気。ねえお姉さんはやめてよ、そんなに年離れてないんだし」

私が不満そうにそういうと、無邪気な笑顔で彼は言う。

「おれお姉ちゃん欲しかったんですよ。ダメですか?」

何がダメですか?なのか、いいとかダメとかの問題じゃないと思うんだけど…

「…別にいいけどさあ」

なんだかこの笑顔には負けてしまう。

「ありがとう!チョコも美味しかったし、コーヒーもごちそうさまでした」

「いいえ。ま…」

また来てね、と言いそうになって、すぐ隣に住んでるのにそれも変かな、と思ってやめた。

でも彼と、アカホシくんとまた話したかった。

私はこの時点で、彼に恋というか、一目ぼれしていたのかもしれない。


「またくるね。レンジ借りに!」

そう言って笑顔で、彼は扉を閉めた。

そしてすぐに、隣の部屋の扉が開いて、すぐ閉まる音がした。

「…本当にお隣さんなんだ」

なんだか少しおかしくて、笑ってしまった。



 男にふられたばかりなのに、そんなこと全く気にする暇もないのは、

新しく来たお隣さんのことが、もうすでに気になっているから。

そんな微かな恋に気付きもせずに、私は、またスイーツでも作ろうかな、と考えていた。



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