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道化の造った英雄譚  作者: えそら
道化の遺産
6/11

5話 シアフィール

 シアフィールは自分が不運な方だと言う認識はあった。

 だから何か不幸が訪れた所で今更だと、普段はさして感慨を抱かない。

 だが今回ばかりは強くこの身の不幸を呪う。



 思えば生まれた時点で既に幸運とは言い難かった。


 古い歴史を持つ王国メズラドル。その辺境にある村の長の家筋にシアフィールは生まれる。

 そこは寂れた村で、田も畑も数が少なく、村人も数が少なく、いつも飢えや魔物に怯える日々だった。

 そんな村でも廃村にならなかったのは、魔国との国境にある浸魔の森に面していた所為だろう。同時にここまで廃れた原因でもある。

 数多くの魔物が生息する森だ。その森に面しているとなると誰も村に住もうとは思わない。だがだからこそその村が防波堤にならなければ安心できない。そんな理由から作られた、罪人たちが送られる村だ。

 要は半ば流刑所で、事実村人の大半は罪人だったのだ。


 両親は罪人という訳ではないみたいだった。だが貧乏くじを引かされた人間ではあった。シアフィールには事情を知らされなかったが、国の偉い人に目を付けられたのが運の尽きだったと言う話を噂で聞いた。

 その所為か父親はこの現状よく苛立って自暴自棄になっていたし、母親はシアフィールが物心付いた頃には既に心を病んでいた。


 シア、と呼ぶ両親の声には親愛の他にも疑念疑心があったことを、子供ながらに感じていた。

 今思えば、この娘は本当に自分たちの子供なのかと疑われていたのかもしれない。村人は罪人が多く、男女比では男が多く、荒くれ者だって多い。

 つまりは襲われたり知らない人の子が出来たりなど、そういうこともまぁよくあると言うことだ。捨てられなかっただけで本当に幸運なのだろう。


 ただ村長と言う両親の立場は不運と言えたかもしれない。

 村にはお金がなく、貧困は村を荒れさせる。ただでさえ罪人が多いのだから他の町村よりも酷い有様だったのは明白だ。

 加え村の長と言う目立つ立場は時に不満のはけ口になることもある。実際に振るわれてきた暴力は数多い。


 ただシアフィールの場合は固有能力を持っていた。

 傷が出来てもすぐに治る。

 力も魔力も目に見えて強力になって行く。

 本当に幼い時分は何の抵抗もできなかったのだろうが、少し大きくなれば大人の暴力にも抵抗できるようになった。物心付く頃には大抵の大人に力で勝てるようになった。九歳にもなるとその村なら大抵の人を倒せるようになった。

 それはメズラドル国が人族の国であったことも大きいのかもしれない。さすがに異種族も交えると当時のシアフィールではそう容易くは行かない筈だ。

 ともかく暴力に怯えなくても良くなったことは気持ちを楽にさせた。それゆえに他者はシアフィールの固有能力を毛嫌いしていたが、本人は強く感謝していた。


 だがその能力故に、お金を稼いで来いと言う父親に軍へと放り込まれた。


 名を神託兵団と呼ぶ、特殊な兵団だった。

 主な活動任務は魔物の撲滅、魔族の撲殺、異種族の排斥。人間こそが神の造りし至高であり、他種は忌まわしい侵略者である。そんな教導を実践する国家宗教の最暗部の部隊である。

 当時九歳であったシアフィールがいきなりそんな場所へ入れられたのは、稀有な能力持ちであったことが由来だ。


 まず直属の上司として付けられたのが、黒い指輪が目に付く三十代後半程度の男性。その男は自分をアドリスと名乗った。

 入団に当たって契約と称する魔術を施される。

 内容としては契約者であるアドリスが神託兵団の一員として動く限りにおいて、その命令には絶対服従。奴隷契約ではないため自由意思は認められるが、戦場に置いて上官の命令は絶対である。

 要はアドリスの命令を強制させられるということだ。

 後になって知ったが、アドリスは契約、強制、過去視等と言った思念に干渉する魔術が得意なのだと言う。


 そして初陣。百を超える魔物の群れに短剣だけ持って一人で突っ込む羽目になった。

 突っ込んでいきなり魔物の大群に踏み潰され致命傷を負った。常人なら七回は死んだ。一度も振るうことなく短剣はどこかに打ち捨てられた。それでも戦えと後方で眺めるアドリスに命令されるから、致命傷を再生させて我武者羅に殴ったり蹴ったりした。


 すぐに致命傷を負った。再生した。

 魔物を殴る。また致命傷を負った。再生した。

 魔物を蹴る。延々と、延々と、痛みで発狂しそうなのに命令されるから戦い続けた。

 致命傷でもすぐに治るから動き続けられてしまった。

 力一杯殴って、蹴って、傷など無視して戦い続けて、その内に全ての魔物を撲殺していた。


 素晴らしいと、君ほど優れた兵器も珍しいと、アドリスは褒め称える。

 そんな言葉よりもシアフィールは疲れ切っていて、精神が擦り切れていて、反応することさえ出来なかった。

 あまりの様にアドリスは精神安定の魔術を掛ける。それで気が幾分か楽になった。


 それからさほど間を置かずに次の任務だ。

 同じく魔物の大群の撲滅だ。

 傷ついては再生して戦い続ける。

 事が終われば精神安定の魔術をアドリスに掛けて貰う。


 任務が幾度か続けば、慣れが生じて来る。

 アドリスの精神安定の魔術が無くても大丈夫になった。

 始めは致命傷を受ける度に気が狂いそうだったが、ただ痛いとだけとしか思わず心が揺るがなくなる。

 戦い慣れもしてきて、より容易く敵を殺せるようになった。

 時には複数の魔族と戦い、幾人かの異種族と戦い、これら全てを殺してきた。


 幸いにも給金は良かった。

 九割五分は父に言われるがまま渡していたが、五分程度でも十分な額のお金が手元に残った。それだけで以前は考えられない様な生活が出来た。


 そんな生活を三年ほど続けたある日。

 いつもより長期の任務をこなしてあの村に帰ると、村が残骸に変わっていた。生きている村人は一人もおらず、シアフィールの家族も例外に漏らさず、人と呼ぶにはあまりに歪な死骸を晒していた。


 調査団の人が村にテントを張っていた。

 シルヴァ国から来たと言うその人たちに、道化がこの村の住人を使って人体実験したのだと言う話を聞く。


 どうやらメズラドル国は本格的にこの村を見ていないらしい。

 村が壊滅したという事実が発覚したのは一週間近く経ってからだと言うし、シルヴァ国から調査団が来たにも関わらずメズラドル国の人間は誰も来ていない。

 所詮はただの防波堤であり、その役割がないなら元流刑所と言うただの汚点でしかないのかもしれない。シアフィールとしてもそこは全面的に同意するが、なんだかやる瀬なくなった。

 ただ村が滅んで両親まで死んだにも関わらず悲しいかと問われると否だ。

 この村には良い記憶があまりない。そもそも良い記憶自体があまりないが、ともかく大した情愛は浮かんでこなかった。


 金髪碧眼の柔和そうな女性であるアーシェと会ったのはそんな折だ。

 調査団の一人だが、村唯一の生き残りと言うことでシアフィールは目を掛けられた。仲良くなった訳ではないが、珍しく人当りの良い人物と出会っただけに悪印象はさほど持たなかった。

 そして家を失ったシアフィールに良い孤児院を知っていると勧められ、言われるがままその孤児院に行くこととなった。


 神託兵団の退団は難しい。

 団員のほとんどが稀有な才能の持ち主であるため、そう簡単には手放そうとしないのだ。

 居なくなってもわざわざ捜索しようとまでは思わないだろう。しかし見つかれば以前より悪い待遇で連れて帰られる筈だ。


 そんな予想は立つが、気にせず退団表名もせずにアーシェに着いて行った。

 今よりはマシな場所かもしれないとは思いつつも、究極的にはどうなっても良かったのだ。

 まさかアーシェもたかが十二歳の少女が神託兵団なぞに入隊しているとは思わない。こうして誰にも止められず人知れず、シアフィールはメズラドル国を去る。


 そして孤児院での生活が始まったが、よくわからなかった。

 ジョシュアと言う孤児院の主はこの家の者皆が子供だと言う。仲の良い者同士だと兄弟、姉妹の様に振る舞う人たちもいた。少なくとも孤児院の住人は大抵が皆仲間だと思っている人物が多い。

 正直に言ってシアフィールには理解できない。


 このシアフィールの状態は少々解り辛いが人間不信のそれだ。今までの人生が人生だっただけに仕方がないのだろう。

 無論 孤児院に来る者の中にはシアフィール同様に人間不信の者も居るし、より重度の症状に陥っている者も居た。

 そんな者達も少しずつ前を向いて進める様になる人は少なくなかったが、ただシアフィールの不幸を上げるなら、一人でも生きるだけの強さを持ってしまっていたことだろう。

 一人で立たないといけないと言うのは、メズラドル国に居た頃からの習慣である。そして周りに頼るほどに困った経験もほとんどなかった。だから人に頼る必要性と言うのが欠如したままになったのだ。


 致命的だったのは竜人族のイグルが絡んで来た時だろうか。

 彼としては優しさから絡んだのだろうが、ジョーク染みたナンパの軽口で絡んだのは失敗だったのだろう。鬱陶しくなってしまったシアフィールは殴った。複雑骨折の大惨事になった。

 シアフィールは幾度となく魔物の群れを撲滅して来た歴戦の戦士である。少しの力加減のミスがこんな事態に繋がるのだ。

 それ以来、周りもかなり及び腰になった。


 そして孤児院で二年ほどを過ごす。

 相変わらず周りとは微妙な間柄だが、あまりにも平穏無事で妙な気分になる。

 お金も村唯一の生き残りと言うことで、家族の遺産だけでなく他にも色々と貰ったため結構有り余っている。

 どんな環境でも生きていけるようにと体術は磨いているが、正直言って使い所がない。

 挙句にサイカと言う少年が何か妙な感じになって帰って来た。

 そんなよく分からない生活だが、あの村に居た頃よりはマシの様な気はした。


 などと考えた矢先、元の上官であるアドリスと再開する。

 上官の命令は絶対である、その契約は無論残っている。

 あまり気乗りはしないが見つかった以上、神託兵団に戻るしかない。諦めを付けるのに葛藤はいらなかった。そこまで執着する物はなかったからだ。


 その後は道化の残した山の麓にある石造りの小屋を見つける。アドリスの過去視の魔術で様々なことがわかった。

 その中でも特に注目すべきは二つ。

 一つ目は、サイカが道化の造り上げた人形であること。国に持ち帰れば道化の調査としてはかなりの成果であろう。

 二つ目は、魔力を含んだ石造りの小屋はカモフラージュであり、その本命は小屋の地盤に刻まれた魔物召喚陣。それも龍脈から魔力を汲み取り発動する特大の召喚術式だ。召喚された魔物は道化の人形を追い求めるよう設定されている。

 幸いにも何らかの原因で起動条件が合わず不発に終わったようだが、この術式が発動すればどんな怪物が出てくるかわからない。シア自身は再生能力があるため何が出て来ようとそう死なないとは思うが、さすがにこの規模の召喚陣ともなると不発に終わるに越したことはないと思った。


 すぐに道化の遺産であるサイカの捕縛は決定した。

 最高峰の魔術師が残した遺産だ。メズラドル国としては是非とも欲しい実験体だろう。

 サイカを手に入れたなら、国の研究者がこぞって解剖して実験する。そんな風に生きる位なら、サイカとしてはいっそ死んでおいた方が楽なのかもしれないが。その辺りは運が悪かったと諦めて貰おう。


 孤児院とサイカの家の区間内でも特に人気の少ない通り、深夜に魔法陣を刻み罠を張る。

 朝になれば抵抗すらできず捕縛されることだろう。

 サイカの回避能力は高いみたいだが、それでも普通は逃れようがない。


 道化の遺産がサイカであったこと。

 その運の悪さに少し同情するが、所詮はその程度の感慨だった。






 その結末としてアドリスはサイカの抜き手で首を貫かれ、あっさりと死に逝き死骸を晒している。

 サイカにユリスは意識を失い倒れ伏している。

 シアはその光景に身動きさえ取れなくなった。


 まず初めにシアは驚き、そして歓喜が湧き上がる。

 アドリスが死んだことで上官は絶対であると言う強制の魔術が解けたと実感したからだ。

 どうやら自分で考える以上にメズラドル国へ戻りたくないと言う想いは強いらしい。


 なら今すぐここから逃げなければならない。

 道化の残した魔物召喚陣が発動した以上、サイカの居るこの街は壊滅してもおかしくない。その程度の魔物が召喚されても不思議ではないだけの魔力が今まさに山の小屋から噴出し、此処からでも目視できてしまう。


 囮に使うのが良い。

 召喚された魔物は道化の遺産を標的としている。ならば気絶して動かないサイカは囮に最適だ。

 それが魔物を避けて通る最善で、それほどに召喚された魔物と出会いたくないと怖がった。けれど同時に囮として使うと言う発想があまりに後ろめたくもある。

 気絶している以上サイカは何の抵抗も出来ず死ぬ。その事実が頭から離れず酷く苛まれる。

 そんな感情が湧き上がったことに、シアは愕然とした。


「…………嘘でしょ」


 顔を蒼白にしながら呆然と呟く。

 気付けば手が小刻みに震えていた。


 シアフィールと言う人間はこんな風に魔物を怖がったりしない。

 誰かを死なせることとなる選択にも、殊勝に罪悪感を抱くような人間じゃなかった。

 これはあまりにもおかしい。まるで何かされたかのようだ。いやむしろ今まで何かされていて、アドリスの死によって魔術が解けたのか。


 憶測にも関わらずそれが正しいと直感してしまったことに歯噛みする。

 だとしたらサイカは本当に余計なことをしてくれた。

 今までのシアフィールが良かった。恐怖も他人も生死さえ無頓着でいられたのに、こんな余分な感慨は今更過ぎて不要なのに。


「そりゃ多分に自業自得だろうけどね……恨まずにはいられない」


 憎悪さえサイカに抱いた。

 彼に近づき、サイカを軽々と掴み上げ雑に肩に担ぐ。

 ついでにユリスも掴む。彼女に関しては本当に巻き込んでしまっただけだ。せめて孤児院までは運ぼう。


 シアは煉瓦の地面を全力で蹴り、孤児院へ一直線に駆け出した。

 二人分の人間を抱えてなお風の如く駆け抜ける。その化物染みた速度による走行により、徒歩で十分掛かる距離を三十秒足らずで踏破する。孤児院の敷地内に跳び込んだ。


 孤児院の庭には数人の子供達が外へ出ていて、いきなり凄い速度で帰ったシアに視線が集まる。

 元は山の麓から発生した魔力噴出に惹かれて外に出たのだろう。丁度良い。ユリスを地面に下す。あとは彼らが勝手に介抱する筈だ。


 すぐに踵を返し、サイカを担いだまま山の方向へと駆け出した。

 孤児院の三メートル近い塀を、跳躍して容易く飛び越える。

 とにかく最短距離で山を目指す。

 途中で建物があってもそのまま勢い任せに壁を駆け上り屋根まで辿り着く。更に屋根の上を走り時に他の屋根へと飛び移りながら疾走する。


 人間一人担いで駆けているためにどうしても人目を集めるが、そんな些事は一切無視した。

 早くしなければならない。

 既に山の麓に見えていた魔力の噴出は収まっている。即ちそれは魔物がもう召喚されたと言うことだ。当然サイカを目指して来る。その前にサイカをこの街から連れ出さなければ間違いなく大惨事だ。


 それがどうした、と切り捨てられないことが異様に辛い。

 本当にどうかしている。頭がどうにかなってしまっている。

 こんな罪悪感を持て余し、その挙句に感情で突き動かされるなど馬鹿げている。


 街を飛び出し、舗装された道をより速く走り抜ける。

 すぐに森に踏み入れた。


 この場でサイカを捨て置いて、そして早く逃げよう。最低限の義理は果たしたのだから、もう何も気にする必要はない。

 そう考えるのに、体は森の奥へと走り続けていた。


 泣きたくなる程に正気じゃない。

 サイカとの間には、確かに多少の親しみはあったのかもしれない。そんな程度でもシアの人生から見れば希少であるのかもしれない。けれどこれほど危険な事柄まで付き合う義理などない筈だ。

 しかも今では恨みさえある。無頓着でいられなくなった所為でこんな場所まで来る羽目になっている。本当にどうしてくれるのだ。



「GRAaaaaaaaaaaaaa――――!」



 突如として異様に大きな獣の咆哮が森全土に響き渡る。

 獲物であるサイカを視認したがための雄叫だ。

 シアは即座に足を止める。音源に視線を向けると遠目ながらに、赤い眼光以外の全てがひたすらに黒い狼が見えた。それも普通の狼よりも数倍は大きい体躯を誇っている。


 黒い狼は獲物に照準を合わせ、化物染みた疾走を開始した。

 大地を力強く蹴り抜いた黒い狼は初速から音速近い速度域にまで達し、直線状にある木々の悉くを塵屑のように打ち砕きながら一直線に向かっていく。砲弾と呼ぶにも生易しい一つの凶弾と成ってすぐに獲物の元まで駆け抜けた。

 その間際でシアが咄嗟に全力で横へ跳ぶ。先ほどまで居た場所を黒い狼の巨体が通り抜け、すぐ後に激しい暴風と木々の破片が吹き荒れた。


 獲物を仕留め損なったことで黒い狼は急ブレーキをかける。それでも速度が凄まじかっただけに、停止までに結構な距離が開いた。

 全長5メートル程もあるその黒い巨体は、あれだけの木々を打ち砕き続けたと言うのに傷一つない。赤く鋭い眼光は理性を宿さず、知性を根こそぎ奪われた操り人形と化している。

 シアは黒い狼を改めて見て、強く歯噛みした。

 ヘルハウンド。災害級(Bクラス)の魔物内でも上位に座す灼熱地獄の魔物である。


 ヘルハウンドが口を開き凶暴な牙を覗かせる。その口より魔力が急激に収束し、空気が歪む程の熱量が排出される。

 シアの総身に怖気が走った。途方もない攻撃が来ると本能が警鐘を鳴らしている。


 そしてヘルハウンドの口内より紅蓮色に染まった熱線が放たれる。

 瞬時にシアはサイカを投げ飛ばし、自らも回避行動に移った。紅蓮の熱線がシアの左肩を僅かに掠めていく。それだけで左肩が消し飛び、熱波が全身を焦がす。

 その絶望的なまでの苦痛に意識が弾けそうになった。致命的なことに、シアは痛みにまで弱くなってしまっていた。

 そして紅蓮の熱線は直線状にある万象を溶かし尽くし、射線上に存在した木々は跡形も消失した。その周囲は熱波だけで木々を黒炭にし、フィリアス山の体表をすら溶解させる。そのまま空へと突き進んだ熱線は白く分厚い雲を穿ち、青い空が見えるほどに吹き飛ばした。


 形を変えた山と燃える森を背景にヘルハウンドは堂々と大地に立つ。



「GRAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」



 災害とまで称される等級の紛れもない怪物が、大地震わす咆哮を轟かせた。






 シアについては本当はもう少し先でやるつもりだったんですけどね。予想以上にアドリスがあっさりと、というか一章のボスだった筈が中ボスになってしまったために前倒しになりました。

 何はともあれ次回は一章のクライマックスである本格的なボス戦です。

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