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第七話 砂漠の旅路

第七話 砂漠の旅路



「あっちー」

「……………」

心の底からの思いを口にするカイリを無視して、シュウはさくさくと音を立てる砂を踏みしめる。

「だーーっ!焼け死ぬーー。焦げるー……」

「……………」

シュウは先刻からやむことのない彼の不平の声を、聞かないようにすることに集中しているようだ。だがカイリの不平は、それがわかるからこそのちょっとした嫌がらせ。

「なぁ、なぁお前暑くねーの?」

延々と繰り返される言葉を全く意識に乗せず、無視しつづけられるだけの忍耐力は不足だったらしく。

「なぁ、シュウ~。お前さ…」

「――うるさい」

 とうとう返された返答にぷっと吹き出す。流石に我慢できなくなったらしい。

すると、カイリの吹き出した気配に腹を立てたらしい。歩くスピードが早くなる。

「わー。怒んなって!悪かったから」

 目の前を歩くシュウの身長は彼の太ももくらいまでしかない。コンパスの差から言ってシュウがカイリを引き離すことは無理なのだが、背中から感じる怒りの気配に焦って謝る。


 旅を共にするようになって三週間。

それでもシュウがカイリに心を許す気配はない。

それでも、一人置いて行こうとすることもなく、邪魔だと言うこともない。

やはり、一見は可愛い幼子の姿で、その実、魔族というとんでもないシュウが何を考えているのか、側に居てもわからなかった。シュウにとって本当に歓迎すべき事なのかどうかさえ。

だが、強行に引き離そうとするわけでもないので、一緒にくっついている、というのが現状だ。

目の前にはフードに隠れた後頭部。

小さくてまるっとしてるそれは無意識に手を引き寄せて。

 子供にするようにぽんっと優しく触れてしまってから、はっと凍りついた。

「あ」

「……………」

ぴたりと足を止めたシュウは振り返ることすらせずに動かないから、怒らせてしまったか?と思う。やばいと思う心のままに思わず数歩後ずさり、本気で焦った声を出す。

「わ、わり。つい、な。目の前にあるもんだから無意識に手が伸びて。いや、別に他意があるわけじゃねえから!」

数秒動きを止めていたシュウは、ふぅっと溜息をついて、ようやく振り返った。

「暑いのが嫌なら帰ればいい。このファドス砂漠に入る前にも同じコトを言った筈だ」

「お断りだね。この砂漠に入る前にも同じコトを言っただろ」

きっぱりと即答するカイリにシュウが溜息をつく。

困ったような呆れたような苛立っているような複雑な表情。

その表情の意味は、やはりよくわからなかったが、三週間という時間の中でもしかしたらと思うようになった。

―――もしかして、どういう表情をしていいのか、わからないだけなんじゃないか?

 他人と接することに馴れてなくて、どういう反応を返していいのかわからず、困っているのではないかと。

そう、思うようになった。

だとしたら。

「…………………………結構可愛いじゃねーか」

 片手で口を押さえて苦笑を噛み殺す。この呟きと笑いに気付いたら、また気を悪くするのは間違いない。

無言で背を向け歩き出していたシュウが、くるっとふいに振り返る。

「何か言った?」

 砂嵐や強い日光から身を守るシュウの防塵服もずいぶんくたびれてきたなぁと思いつつ、飄々と答える。

「いや、目的地とやらはまだ遠いのかと思ってな?」

 その言葉にシュウは正面を向き、遥か遠くを見据えるように目を細めた。

「もうすぐ、だよ」

 二人が目指している目的地は、シュウだけが知っている。

 地図にも載っていないそこの名前を『太陽の神殿』という。




 砂漠の夜は厳しい。

昼間の熱気が嘘の様に、急激に辺りが冷える。

普通、砂漠での旅で必要になる装備は、水と食料、砂嵐や強烈な日差しを遮る頭からすっぽり覆うローブ状の防塵服。そして、夜の為のテントに火を起こす為の着火剤に薪に油、またそれらのモノを運ばせる駱駝などだ。これらの不足は即ち死を意味する。

 砂漠に入る前にある街でこれらを整えなければ、砂漠への旅は無謀である筈なのだが、シュウはこれら全てを購入することをしなかった。

 その理由はすぐに知れることとなる。

 水、食料、薪、油の四つは、以前シュウが邪気の樹の実を収納した異空間の『倉庫』に収納された。着火剤はシュウが指を鳴らして術を使い、火を起こす為、元から必要なかったし、野営時は二人を囲む様に結界を張った。

 シュウの張ったその結界は、風や砂を遮断し中央で起こした焚き火のぬくもりを閉じこめ、それでいて、酸欠になる様子もないというすぐれもの。小さな親指大の水晶に封じられている術らしく、カイリですら、それを発動させることができた。

 ただ一つの欠点といえば、翌朝目が覚めると結界ごと砂に埋まってしまって真っ暗になっていたりもするところか。

しかしそれも、術を放って風を起こしはじき飛ばす為、さしたる苦でもなく。

 砂漠で過ごす五日目の夜には。

「あれも慣れると面白いよな」

などと言う余裕すらあった。

「面白がらせる為にしているわけじゃない」

 砂漠の強い日差しに曝されてなお白い、華奢な腕を伸ばして防塵服のフードを下ろすシュウ。感情を思わせない口調でぽつりと呟くシュウににやりと笑いかける。

「人生、何事も楽しんどかなきゃ損だぜ」

 焚き火で炙っていた干し肉が香ばしい香りを漂わせ、食べごろになってきたのを見計らって、一本をシュウに手渡す。それを大人しく受けとったのを確認して、自分の分の肉も手に取る。

「俺なんかはお前ら魔族と違って、はかない命の人間だからな」

軽く笑って肉に豪快にかぶりつく。そんなカイリを見て、シュウが動きを止めた。手にした肉に視線を落とすことすらせずに、じっと見詰めるシュウに気付いてカイリが声をかける。

「…………おい、シュウ?」

「……混ざりモノならなおさら?」

「ッ!」

 その言葉に緊張が走った。





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