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第六話 戦い終えて

第六話  戦い終えて




 目が覚めると朝だった。

 ………たぶん、朝、だと思う。

――――――――よくわからないけど。

空気が朝独特の澄んだものだし、目の前の小枝で作った焚き火の火はくすぶって白い煙をわずかにあげている。

 シュウはちょうど正面にある樹に背を預けて、何かの布を自分の身体にまきつけて寝てるし。

「ただの子供にしか見えねえ………」

 目を覚まして正面にあるその光景を見て、まず最初にそう思う。

 朝ではないかと認識したのは、その後。

「ええと………」

 何がどうなっているのかわからない。

 記憶がすっぽり抜け落ちていて。

 視線をめぐらすと右側、少し離れた先に焼け焦げた大木の根っこだけ残っていて、それが魔界の植物だと知る。神気の炎に焼かれたヤツだ。

 炎。

 そう!それだ!

ようやく自分が魔獣の放った炎球を受けて意識を失ったことを思いだし、自分にかけてあった布を払いのけて右腕を見やる。

 ぐるぐる巻きにされた包帯を上から軽く触ってみると、ぶよぶよと表現するのが最も適してるような妙な感触。

「なっ!?」

 痛みはない。だがその妙な感触に焦って声を上げると、正面から冷静な声が零れた。

「昨日、足にしてたのと同じジェル状のが包帯の下に張ってあるだけ」

ハッと息を飲んで顔をあげると、さっきと同じ姿勢のまま、冷静な視線を向けてくるシュウの姿があった。

「皮膚が大分やられてたから、暫く入浴禁止。水浴びするときもそこは濡れないようにすること。化膿止めの薬は1日2回。ただし空腹時は絶対飲んじゃ駄目。結構強い薬だから」

言いながら立ち上がり、自分の躰に巻きつけていた布をパンッと振った。

 それでようやく全体が見えて、シュウの外套だとわかる。マントにもコートなるそれは旅の必需品。真夏こそ、暑いだけだが、春秋冬大抵、必要になる。よく見れば自分に被せられてるのも自分の外套だった。

「治療、してくたのか?」

「……………………」

 返される声はない。シュウはただ黙々と自分の周囲を片付けている。

だが、腕の包帯とさっきの言葉が、如実にそれを肯定していて。

「……また貸し一つ、だな」

 溜息つきながら、背中預けてた樹から身体を起こす。その言葉に焚き火に火を戻そうとしていたシュウが不思議そうに見てきた。

 その視線には笑みを返す。

「別にいいよ」

 無関心にそう言って、術で火を起こす。

 昨日も思ったが、えらく野営になれている。

「お前、一人で旅してるのか?」

「そうだけど」

「困らない?」

 端的な問い。

 でも、それはちゃんと通じた様だった。

「………………」

その証拠に、シュウが黙る。弱音を言うのは嫌だから。

 なんだろう。何故だかわかる。

 言いたいのは魔族だからとかでなく、子供の姿をしているから。人間と会えばこんな子供の一人旅が不審がられない筈がない。その度に何かしらの手段で誤魔化してきてるのだろうけど、めんどくさがりやらしいシュウがそれを好ましく思ってるはずもなく。

 ちょっと待てよ、お前、何言おうとしてんだよって声が、頭の中のどこかで聞こえた。

「俺も旅に同行しようか?」

―――ほらやっぱり呆れた顔されたし。

 自分でも呆れてるし。

「……………正気?」

「保護者役がいたら便利だろ?邪魔になったら置いていけばいい」

「俺が何かするとは思わないの?」

「二度も命救われてるお礼。それにお前は俺に危害加えたりしないよ」

 確信した口調。

「なんでそういうこと言うの?」

聞き様によっては妙な問い。

 言葉が足りないのはお互い様だ。

「面白そうだから。大体お前、なんで神気使えるんだよ?」

 人間との混ざりモノで、邪気が薄れたカイリでさえ使えない神気を。

「…………」

「って聞いたって答えやしないだろ?だから、一緒にいればその理由がわかるかと思ったのも理由」

 まだ返事がない。だから白状する。

「知りてえんだよ。俺のオヤジが、人間に惚れたわけってのを。俺のオフクロが魔族に惚れたわけってのを。お前が俺に関わって、なんでかわからないけど助けてくれて、俺がお前を同類だと思うわけってのを」

 理由はそれだけ。

 それは自分が最初に旅に出た時に決めた旅の目的だった。魔族との混ざりモノである自分を産んだ母は村でも厭われていた。だが、村外れで慎ましやかに生活し、それでも笑みを絶やさなかった。

 母の死後、村を出て旅を始める時に自分に定めた目的。

 旅を続けて数年過ごして、かすりもしなかったその疑問への問いは、この目の前の子供の姿の魔族が持っていると、そう感じた。

「俺をつれてけよ」

その疑問の答えまで。

「………………………自分から厄介事に関わろうなんて物好きな」

 呆れ返った声。溜息。人間くさいその仕草。

「でも………そんな人間を昔、知っていたよ…」

 静かな声に驚いて、まじまじと見る。驚愕したのはその言葉の内容でなく、優しいとすら言えるその声。表情は全く変わらない無表情だったけど。

 絶句してるカイリを数秒見詰めて、くるりとシュウが背をむけた。

「…………好きにすれば」

 会話に飽きた様にぽんっと放り出す返答。

 その言葉にゆっくりと破顔する。




「おうっ!よろしくな!シュウ」


 背中にかけた声に、やっぱり返事はこないけど、そんなの気にはならなくて。



―――――――――その日から奇妙な二人旅が始まった。






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