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第五話 神気

第五話 神気



 シュウはその樹の目の前に立ち尽くして、意識の集中を始めた。

 この樹を燃やす術を使う為だ。

邪気のかたまりである樹を燃やすのに、魔族であるシュウの得意とする邪気の術では意味をなさない。それではない特別な術を使わなければならないから、シュウは幼さの残る声で呪を唱え始めた。



「果ての世にありし、紅蓮の劫火よ」



呪は力の道標。

力を導くもの。

イメージするのは白いけがれなき炎。

邪気を焼き尽くす。

邪気を使った普通の術なら呪など使わない。

難しい術を使う時に使われる。


シュウの場合は特に。


「この内なる半身の声に応え、疾く来たれ」


白き炎のイメージは樹の根元に。

邪気を払う力を持つ唯一の力、神気を源に。

天敵である天使が持つ、魔族であるシュウとは正反対の属性の。


白く清らかなる、力。


「歪みし邪樹を焼き尽くせ」


呟くようなその言葉が術の発現を促す。

辺りに白い閃光が走る。

その白い閃光の中、樹の根元に純粋な神気の炎が燃えあがる。



 心のどこかで、背後の彼、カイリ=クラウが驚くだろうなと呟いて。




 正面に相対する敵が行動に移ってくるのを緊張して見詰めていた時、背後で不思議な気配がした。

カイリの常識から考えて有り得ない気配。

―――神気っ!?

 咄嗟に思ったのは、神気異能者の同業者か、天使が邪気排除に現われたのかということ。

だが、振り返ったそこには先ほどと変わらず、魔族であるシュウがいるのみ。

 魔獣のことを意識せずに振り向いてしまったカイリだったが、そのスキを狙われることはなかった。

気配を察して振り返った数秒後、白い光の爆発が起きる。

 閃光。

 それがまたたいて。




 魔獣がその光を受けて、悲鳴のような咆哮を上げる。

それが正気に返らせてくれた。

今、自分がなすべきことは。この魔獣達を倒すこと。


 カイリは素早く自らの銃に手を伸ばす。

 カイリの使う銃は、さほど威力は大きくない。使う人間にも向き不向きがあるせいだ。カイリは能力的に剣の方があっている為、剣の性能の方を重視する。その為、ただでさえも高価な清めた武器では、それしか手にいれることが出来なかったのだ。

その銃は、強い魔族には深手を追わせるのが難しい。

だが、羽根を持つ魔獣や羽根を出した魔族。それらをこの地面に引き摺り降ろすという目的の時、それは最大限の効果を発揮する。

 樹の根元に燃えあがった神気の炎のおかげで、敵は浮き足立っている。その隙を見逃す手はなかった。

 無作為に空を舞っていた魔獣の内の片方。

 狙うのは羽根の付け根。

 狙いを定めて。


――――――撃つ。


「ッよしっ!!」

弾は狙い通りの箇所を撃ち抜く

奇声をあげて墜落してくる魔獣を見て、2匹同時に落とすより、確実に一匹ずつ仕留めることを選ぶ。

銃をひとまず腰のホルスターへ戻し、代わりに剣を引き抜いて。

 地面を蹴って接近する。

 羽根の片方を打ち抜いたとはいえ、もう片方の羽根も鋭い爪も無事。油断は禁物。

地面でばたばたとがむしゃらに暴れる魔獣を仕留める。

 ラスト一匹。

 さっきと方法は同じ。

 剣を左手で逆手に持ちなおし、右手で銃を引き抜こうと腰に伸ばしながら。

 見据える。

―――あ、やばい。仲間殺られて、気、たってる。

今度は無作為に飛んでるだけじゃない。明らかにこちらを狙って。

 急降下。

 銃じゃ駄目だと思った瞬間、逆手に持ったままの剣を目の前に持って来る。


 ギィンっ!!


 鋭い金属音が鼓膜を震わす。

 かろうじて受け止めた剣。

 衝撃の強さにもう片方の手も添えて。


 すぐ目の前にある魔獣の目とばっちり視線が重なった時、自分がシュウに言った言葉が頭をよぎった。


『個体によっては簡単な術やら知能やらを持ってる』


 中でも、知能が比較的高い動物が魔獣化すると特に起きる現象だ。

鳥類ではもっとも鴉がそういう変異を起こしやすい。

 知ってたのに、その瞬間忘れてて。

 思い出した理由は、ソレが嘴を大きく開いて、そこに紅い火が灯るのが見えたから。

「っっ!!」

本能的な危機感。

 乱暴に左腕の剣を振って、振り払う。

 少しその勢いに負けて離れた魔獣、宙にホバリングして、大人の拳大に大きくなった炎の塊を放つ。

ムリヤリに躰を低くして、右側に斜めに傾けて。

その下をくぐり抜ける。

―――ダメだっ!

 よけきれない。

 右腕に衝撃。

 熱さは感じない。

でも、足は止めない。

 二撃目は打たせない。


 何も考えずに振るった左腕。

 その先の剣が正確に魔獣を捉えて。

 耳をつんざく断末魔。

 それが最後の記憶で。


――――――意識が闇に落ちる。



そして、懐かしい夢を見る。




『母さんは後悔してないの?』

 いつだったろう?そう母親に問い掛けたのは。

芯の強さをあらわすようなストレートの黒髪の母。彼女はその問いに柔らかく微笑んで。

『していないわ。だって愛してるもの』

『逢いに来てもくれないのに?』

 魔族の男を愛した人間の女。

『逢いに来ないのは、私達に魔族の気を移したくないだけ。いつだって見守ってくれていると知っているもの』

『いつだって?』

『ええ。今この瞬間も』

『逢えなくても寂しくない?』

首を傾げて見上げる。

『寂しくないわ』

『どうして?』

『わかるもの。彼が私を愛していることを』

『魔族なのに?』

魔のイキモノ。

魔族。

愛を知らぬイキモノ。

 そう言った村の司祭。

『魔族だって人を愛するのよ』

 くすっと微笑んで言った母。

その、幸せそうな笑顔。




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