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第二話 親切な悪夢



 目が覚めると、昨夜のことが嘘のようによい天気だった。

まるで昨日のことが悪い夢だった様に。

 だが夢でない証拠が。



 目の前をぽてぽて歩いている。




 パチパチと木がはぜる音。

その最中でその作業は始まった。

 シュウのリュックからは、出て来たのは驚いたことに銀色の医療器具だった。そしてそれを煮沸消毒して治療を開始する。

 傷口に入った小枝などの除去、その傷口の消毒。そしてなんだかよくわからない粉。

「なんだよ、それ」

「コレを極少量の水に解かして、ジェル状にするの。それを傷の上に約5ミリ程度の厚みで塗ると、傷から移った邪気と、傷から来る熱を吸い上げ、細胞の状態をよりよく戻し、それと同時進行で術の応用で内部の死滅してる細胞を………」

 つらつらと話しながら顔をあげて、初めてみる秘境の食い物を食べたような顔をしているカイリを見て、数秒沈黙した。

「…………腫れを冷やす薬」

「あ、ああ」

ようやく口の中の物を飲みこめたような顔をする。妙なものを使われるのはごめんだと思っての質問だったのだが、妙なものだとしてもわかりようがないらしい。

 溜息が零れる。

その時のカイリにできるのは、されるがままになることだけだった。





 シュウの治療の結果はたった一晩で劇的なものだった。

「……しっかしすげえもんだな」

 怪我してるほうの足で、たんたんっと軽く片足跳びしてみるが、痛みはない。流石に傷はまだ残っているが。

 例の粉を解かしたぶよぶよの物体は朝になって真っ黒になっていたから、違うものに取り替え、今も貼っている。だが腫れはずいぶん引いていた。最初は水色だったものが真っ黒になっていたのを見て焦ったが、シュウは平然と『穢れを吸い上げただけ』と言っていた。やはりよくわからない。

「お前一体何者だよ」

「だから、シュウだって」

「いや、だから名前じゃなくて……」

 常時この様子で会話もなかなか成立しない。

 ただわかるのは、この少年の姿をした魔族が行ったのは真っ当な医者ができるような治療じゃないということ。

 この魔族はこの山に何かを探しにきているということ。

 そして、魔獣が邪魔だと感じ、倒させようとしていること。

「なぁ」

「………」

「お前、あの魔獣を作った魔族を知ってるのか?」

「……魔族は知らないけど、あの魔獣が産まれた原因はわかる」

「なんだよ、それ」

 意味深な表現。それが引っかかって問いかけると、シュウが沈黙した。

「俺を利用する気なんだろ。足、治してもらったし、ヤツを倒すのはやるが、わけもわからずじゃ、気分わりぃんだよ」

 沈黙したまま歩き続けていた背中を見ながら言い、立ち止まる。そうするとその気配に、しかたなさそうにシュウが立ち止まった。

 くるりとコチラを振り返る時に、薄金の髪が陽の光を受けて、きらきらする。それを少し眩しげに見て。

シュウは軽く溜息をつく。

「…………魔獣がどういう生き物だか知ってる?」

「どういうって……?」

「知ってる限り、あげてみて?」

 ぶっきらぼうにそう言うシュウ。だが、説明し様としてくれていることは通じるから、大人しく口を開いた。

「魔族が作るんだろ。ええと、通常の獣よりも邪気が多くて、凶暴性が増してて、個体によっては簡単な術やら知能やらを持ってる、だっけか」

「そう。どうやって作るかは?」

「知らねえけど、邪気を注ぎこむんじゃないのか?」

「そんな面倒なことはいらない。注ぎこまなくても、邪気を受けてるだけで、魔獣化するから。つまり、魔界の植物とかの側にいても、魔獣になるんだ」

 シュウの言葉に寒気が走ったのは、たぶん嫌な可能性に気付いたからだ。

「で、今回の場合は、その魔界の植物だってのか?」

「そういうこと。俺が用があるのがその魔界の植物の果実。何らかの原因で種子が地界に流れ付いたんだろうね」

「…………なぁ、つまり今の話からすると」

「ん?」

「………残りの魔獣一体とは限らないってコト、か?」

 背筋を伝う冷や汗。

 それを知ってか知らずか、シュウは無表情で答えた。

「そうだよ」

「ええと……倒すの手伝う、よな?」

「それは貴方の仕事」

「ちょっと待てって!!おいっ!二匹でも大変だったんだぞ」

「その為に治したんだから」

―――だからかっ!!

 内心でそんな言葉がよぎる。

何か裏があると思ったんだ。ああ、思ってたともさ。

ここまで嫌な裏だとは思ってなかったけどなっ!

「お前、そんなナリでも魔族だろ!俺より邪気とか強いじゃねーか。出し惜しみしないで手伝えよっ!」

「出し惜しみとかそういうことじゃない」

「じゃあ、なんだよっ」

 なんとかその気にさせようとくいさがるカイリの目の前で、シュウはきっぱりはっきり言いきった。

「めんどくさいから嫌なだけ」

「………………」

 あまりにも強くきっぱりと、これはきっとなんの裏もなく本心なんだろうなぁと思わせる口調で宣うシュウを目の前に嫌な沈黙が落ちる。

 その沈黙を破ったのは近付く邪気の気配と、さらりと告げたシュウの一言。

「仕事だよ」

「ちっくしょーーっ!」





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