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第一話 魔族と破魔士

以前に別ジャンルで書いたものをリサイクルです。

時間つぶしにでも楽しんでいただけると嬉しいです。

「くっそー…カンが鈍ったかなぁ…」

 喉の奥で唸るように呟いた声が不気味な森に消えていった。

 溜息をついて天をあおぐとそこにあるのは、生い茂った木々。空すら見えはしない。最も見えたところで、どんよりと曇った夜の空だが。

 先ほどまでズクンズクンと響いていた熱い痛みは今、凍えるような冷たさを残して感覚がなくなった。

―――やべえな。

 ぞくりと全身に走った悪寒に唇を噛む。

 辺りは真っ暗になってきている。どうにかして、火を起こすくらいしとかないと、狙ってる獲物どころか、普通の獣の餌食だ。

 ちらっと足に視線を向けて、獲物の反撃で斬りつけられた傷を見る。

 右の袋はぎから、足首にかけての数十センチ。

「……う、…えぐ」

 自分の足に向かって言うのも何だが、青黒くぶっくりと腫れあがった傷口とその回りをこれまた黒っぽく濁らせる血の痕はあまりにグロテスクだ。

「くそ……ここんとこ本職なかったもんなぁ……」

 ぽつりと呟く、彼の名をカイリ=クラウという。

年齢26歳、職業、破魔士。

 破魔士というのは、人間に害する魔族を狩る異能者のことだ。



 この世は大きく分けて三つの世界がある。 

 一つは天使と呼ばれる有翼の人種が住まう天界。白い羽毛の羽根はその天使の特殊な能力の強さに応じ、大きさが違う。より強い力を持つ者は大きく美しい羽根を持つ。

 もう一つが魔族と呼ばれる同じく有翼の人種が住まう魔界。黒い蝙蝠のような翼を持つ魔族も同様に特殊な能力を持ち、その強さに応じて大きさが違う。

 この二つの種族の大きく違う点は、そのエネルギー源である。

 天使は善なる心や、清浄なもの象徴たる神気を。

 魔族は悪なる心や、不浄なるものの象徴たる邪気を。

それぞれ正反対の物をエネルギーとする。

 そして第三の世界、地界に住むのが人間である。

 人間は翼を持たず、特殊な能力もない。天使や魔族よりも劣った種であるという認識はどの種族も持っている。人間ですら、そう認識しているのだ。

 天使は神の使いとして敬い、魔族は邪の象徴として恐れる。それが当然だ。

 天使は時折地に下りては、人々を聖へ導き、魔族は時折地に上っては人々の負の感情を得る為に人々を惑わす。


 その魔族を狩る破魔士はとても数が少ない。だからあっちこっちと引っ張りだこなのかと言うと、そうでもない。

 魔族は人間よりも企みに長けている。魔族だと気付かれることなく、人々を弄び、負の気である邪気を得、ついでに人の命を弄び消える。魔族が現われて、破魔士に退治を依頼する間もなく、コトが終わっているのがほとんどだ。

 そのせいで、いつも本業である破魔士の仕事は少なく、普段は傭兵として世界を渡り歩く。彼、カイリもそういう一人であった。

 ただし、今回の仕事に限り、本業の方だったのだが。

「………せめて村に戻らねえと…っぐぅ!」

 無理にでも立ちあがろうとした瞬間、激痛が走る。

「……ちっくしょ……こんなトコで犬死にかよ…っ」

 唇を噛む。

 この傷のせいで身動きができない。

 魔獣にやられた傷のせいで。

 通りすがりに寄った村で受けた久々の本業は、山に現れる魔獣を倒してほしいということだった。

 魔獣とは、魔族によって邪気を与えられ凶暴化した、いわゆる眷属のことを言う。その魔獣がいるせいで、近辺の村に被害者が出ていた。快く引き受けて、装備を整え、山に入ったのだが……。

「三匹もいるなんて聞いてねぇぞ、おい…」

 遭遇した魔獣は二匹だった。苦戦したがなんとか倒して、油断をした瞬間、背後から飛び出してきたもう一匹。

 かろうじて生きていただけでも自分を誉めてやりたい。

 とはいえ………。

「この状況じゃなぁ……」

 魔獣あるところに魔族あり。

 自分の気はただでさえも目立つのだ。こんなところで無防備に転がってて、魔族に見つかろうものなら……。



 そんなコトを考えた瞬間だった。

 近付く邪気を感じたのは。

「……っ!」

 その邪気の濃度。

 とても人間には持ち得ないその独特の気配に緊張が走り、側にあった剣を引き寄せる。

 邪気と反対属性の神気によって破魔刀に鍛えられた愛剣の柄を片手で握りながら、もう片方は同じく神気で清められた銃を手にする。

 近づいてくる邪気。その強さに肌に鳥肌が立つ。

 こんな銃ごときじゃきかない。破魔刀ならなんとか……。しかし動けない。

 じんわりと浮かぶ冷や汗。



―――ここで死ぬのか?


 こんなところで?




 カサリ、と木々をかきわける音がした。

 その足音は思った以上に軽い。

近付く音。そして。



ガサッ!!と少し離れた先の草むらを掻き分けてその魔族が現われた。



「え……?」

 咄嗟にそんな声が零れる。

「………妙なのがいると思ったら」

 その声は少し甲高い、子供の声だった。身長もカイリのふとももくらいだろうか。

 大きな薄金の瞳、それより少しだけ濃い金色の髪。感情を思わせない口調。カイリが想像した魔族像よりもずいぶんとかけ離れた可愛い姿の少年がそこにいた。

 呆然と見るカイリの前で、その少年はもの珍しそうにまじまじとカイリを見て。



「………混ざりモノ?」



「……っ!」

その声にどきっと心臓が跳ねた。頭から冷水をかけられたような感覚。

 手にした銃の撃鉄を起こす。

「……そんなの効かないよ。そっちの破魔刀使えば………ああ、怪我してるのか」

 淡々と事実だけを述べる口調。相手の考えがわからない。わかるのはその邪気の濃さ、強さ。姿は子供でも、その能力は強い魔族。それに、魔族は姿なんていかようにでも変えられる。人間より遥か長い年月を生きる生き物なのだから。

「それより、質問してるんだけど?混ざりモノかって」

 混ざりモノ。

 その言葉をどれだけの相対した魔族に言われただろうか。侮蔑の声で。

「………だったら、なんだってんだ」

喉の奥で唸るように答える。できるだけ反抗したような声で答えたにも関わらず、少年の様子に変化はない。

「父親と母親、どっち?」

 関係ないだろと言おうかと一瞬迷う。それでも何故か素直に答えていた。

「…………………親父」

「ふぅん」

そんな心の葛藤を知ってか知らずか無感動に呟いて、まじまじと見物される。その視線が居心地悪い。

「こんなところで何をしてるの?」

「………何って。魔族が、お前が作った魔獣を……」

「魔獣?」

「あ?」

てっきりこの魔族によって作られた魔獣だったと思っての発言に、訝しげな声が返された。

「魔獣なんかいるの?ココ。………ああ、そりゃそうだよね」

 深々と溜息なんかつきやがるその少年。

「お前の、じゃないのか?」

「違うよ。そんなめんどくさいことしない。何、全部倒したの?」

「いや、一匹取り逃がした」

「倒しに行かないの?……ってそっか。その足か」

「あ、ああ」

「それ治療したら倒しに行く?」

「そりゃあ、行くけど……」

「じゃあ、治してあげる」

無造作にそう言って、すたすたと近づいてくる少年の姿に思わず焦る。

「お、おいっ!」

「いいからじっとして。……派手にやったね」

 銃の照準は当てたままなのには全く頓着せずに傷口の側にしゃがみこむ。そして、背負っていた小さなリュックを側に下ろした。

敵意も殺意も全く感じない様子に、いきなり斬りつけることもできず、困惑する。

「お前一体何なんだ?」

 思わず零れた問いに一瞬だけ視線を上げる。

「シュウ」

「あ?」

「名前」

「…………いや名前とかじゃなくて」

 どこまでもマイペースに問答無用に会話を断ちきって。

 すくっと急に立ちあがるシュウとやらに面食らって、ただ呆然と見上げる。

「暗すぎる。治療できない。お湯もいるし。野営準備するから。そのまま転がってて」

「………あ、ああ」

 そのまま俺には目もくれずに、枯れ木を集めてきては焚き火の用意をし、術を使って火を灯す。そうして準備を整えていく姿はあまりに手馴れていて、なんだか現実味がなかった。

「あ、そうだ」

 半分麻痺したような頭で、ふと気付いて呟くと、一応俺の方を見て、目でなんだと問いかける。

それに困ったような戸惑ったような複雑な表情で見返して。

「俺は、カイリ=クラウだ」

「ふうん」

 また無感動な呟き。




 それが変わり者の魔族、シュウとの出会いだった。





読んでいただきありがとうございます。

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