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第7話【衝撃】社畜ゾンビが街に溢れる地獄絵図! 街を覆う「負の連鎖」を魔法整体で強制シャットダウンせよ

 都内某所、高層ビルの最上階にある執務室。


 明智は手にしたワイングラス――中身は濃厚なトマトジュース――を揺らしながら、眼下の街を見下ろしていた。  彼の指先からは、目に見えない赤黒い粒子がさらさらと零れ落ち、地図上の一点へと吸い込まれていく。


「フッ……認めてやりたいものですね」


 明智は嗜虐的な笑みを浮かべた。


「現代人のカルマとも言える、この飽くなき承認欲求ゆえの過ちというものを」


 彼が放ったのは、人の心の闇を増幅させる「妖魔」の種子。  それは風に乗り、とある整体院の周辺にたむろする疲れ果てたサラリーマンたち、そして一人の少女へと降り注いだ。


「さあ、見せてもらいましょうか。君たち魔法整体のチームワークとやらを」


   ◇


「たのもーっ!」


 整体院のドアが、バーン! と派手な音を立てて開け放たれた。


 現れたのは、頭に巨大なリボンを付けた少女だ。その顔を見た瞬間、たまたま受付にいた(というかもうかなり入り浸っている)二階堂が息を呑んだ。


「う、嘘でしょ!? あなた、フォロワー数500万人越えの超カリスマインフルエンサー、ハルピじゃない!」 「あら、知ってるの? 当然ね」


 ハルピはふんぞり返ったが、その姿勢は異様だった。  首が90度近く前に折れ曲がり、顔が胸元のスマホ画面に張り付きそうになっているのだ。


 彼女は首を曲げたまま、器用に室内を見渡して言い放った。


「ただのフォロワーには興味ありません! この中に石油王、トップ芸能人、青バッジ持ちがいたら、あたしのDMに来なさい! 以上!」


「……重症みたいですね」


 ガン子が呆れたように呟く(ちなみにガン子も最近は前にもまして入り浸っている)。


「というか、なにこの子。首、もう完全に折れてないですか?」 「ぃや、重度の『スマホストレートネック』だ」


 草薙が淡々と診断を下す。


「常にスマホの画面――つまり自分への評価いいねを確認し続けた結果、頸椎が自意識の重さに耐えきれなくなっているな」


 その言葉に、ハルピはカッと目を見開いた。


「失礼ね! 私が下を向いてるんじゃないわ。世界が私の下にあるのよ!」


 その時だ。先刻、明智の放った種子が芽吹いたのは。


 ガシャァァァン!!


 路面に面した窓ガラスが粉々に砕け散った。  侵入してきたのは、ドス黒い瘴気を纏ったサラリーマンの群れだった。


 だが、ただの人間ではない。明智の妖魔に取り憑かれ、理性を失った「社畜ゾンビ」と化しているのだ。


『ズルい……ズルいぞぉぉ……』 『俺たちは働いてるのに……楽して稼ぎやがってぇぇ……』


 彼らの虚ろな瞳が、きらびやかなハルピを捉える。


「ひっ!? な、なにこいつら!?」


 ハルピが悲鳴を上げ、助けを求めようとスマホを見る。しかし画面には無情な「圏外」の文字。


「うそ!? 映えない! 電波が繋がらない世界なんて、存在する意味なくない!?」


 絶望するハルピの狂ったほどの「承認欲求」と、ゾンビたちの渦巻く「嫉妬心」。  相反する二つの欲望が、妖魔の力によって化学反応バズを起こした。


『ウオオオオオ!!』


 ゾンビたちがハルピに雪崩れ込み、ドロドロとした黒い泥となって彼女を飲み込んでいく。


『マズい! 承認欲求と嫉妬が融合してる! 来るわよっ!』


 草薙たちが常時装着している骨伝導インカムから、二階堂の焦った警告音が飛び込んだ。 (っておぃ? いつのまに俺の耳にこんなものつけたんだアイツ⁉、って今はそれどころではない)


 草薙がひとりごちした次の瞬間、黒い泥は一気に膨れ上がり、天井を突き破らんばかりの巨体へと変貌した。


 全身に無数の「いいね!」アイコンがフジツボのように張り付き、顔には巨大な一つ目がギョロリと光る。  承認欲求モンスター、『バズハザード巨人兵』の誕生だった。


『謝罪シロ……謝罪シロォォ……!!』


 巨人が咆哮と共に、一つ目から赤黒い光線を放った。強制的に相手を屈服させる「炎上謝罪ビーム」だ。


「させないッ!」


 ガン子が瞬時に前に飛び出した。武器はない。彼女にあるのは鍛え上げられた肉体のみ。  ガン子は両腕をクロスさせ、身一つで破壊光線を受け止める。


「くっ……!」


 ジュワアアア! と凄まじい音が響き、ガン子の足が床を削る。


「やだ、何これ……体が勝手に……土下座しそうになっちゃう……!」 「ガン子、どくのじゃ!」


 有栖がハンマーを振るい、氷のつぶてを巨人の右腕に叩き込む。


 ドガァン! と右腕が吹き飛ぶが、次の瞬間、無数の「いいね!」アイコンが傷口に殺到した。  ブワッと光が溢れると、吹き飛んだはずの右腕が、一瞬で元通りに再生する。


「なっ……!?」 「再生しただと……?」 「何度やっても同じだ! アンチを論破しても次が湧いてくるように、キリがないぞ!」


 草薙は冷静に巨人を観察していた。  倒しても倒しても、SNSのタイムラインのように次々と再生する肉体。


 だが、そのエネルギー供給源があるはずだ。  草薙の目が、巨人の首の後ろ――うなじの部分で、Wi-Fiルーターのように黄色く明滅する突起を捉えた。


「二階堂、解析は」


 草薙が耳元のインカムに指を添えて問う。  ノイズの向こうで、二階堂がキーボードを叩く音が響いた。


『……弱点特定! 首の後ろの『承認受容体』よ!』 『先生、ここから指揮かわります。……サービス、サービスぅ!』


 変なテンションになった二階堂の声色が、キリッとした冷徹な指揮官のものに切り替わる。


『総員、傾注! 目標を完全に沈黙させるには、三人同時の攻撃ユニゾンで、一気に叩くしかないわ!』 『タイミングを合わせなさい! 60秒でケリをつけるわよ!』


「了解だ」 「いくぞ!」


 草薙の号令と共に、三人は一列に並んで駆け出した。


 先頭にガン子、中央に有栖、最後尾に草薙。  あたかもジェット気流のような陣形で、巨人の懐へと突っ込んでいく。


『オオオオ……!』


 巨人が腕を振り上げる。誰を狙えばいいか迷う一瞬の隙。


「散開ッ!」


 その声と共に、三つの影が花火のように散った。


「わらわの出番じゃ! 『絶対零度・爆凍結タイムライン・フリーズ』!」


 有栖がハンマーを振ると、巨人の足元から氷柱が一気に走り、その動きを完全に固定した。  さらに追撃の魔法弾を連続詠唱する。


 動けなくなった巨人の膝へ、ガン子が突進する。  彼女は強靭な脚力で巨人の膝を蹴りつけ、それを足場にして高く跳躍した。


「私がアンタを踏み台にしてッ!」


 ガン子は空中で体を捻り、巨人の脳天めがけて踵落としの体勢に入る。  同時に、草薙が死角である背後へと回り込む。


『接触まで3、2、1……今ッ!!』


 カウントゼロと同時に、三つの衝撃が重なった。


 ガン子の踵落としが脳天を砕き、  有栖の魔法弾が背中の動きを封じ、  そして草薙の手刀が、弱点であるうなじを正確に貫いた。


「『強制ログアウト(整体)』ォォッ!!!」


 バキィィィン!!


 硬質な破砕音が響き渡り、巨人の動きがピタリと止まる。  次の瞬間、うなじの突起が弾け飛び、中からスポーン! とハルピが強制排出された。


 同時に、巨人の体を構成していた黒い泥が弾け飛び、飲み込まれていたサラリーマンたちがバラバラと床に放り出される。


「はっ……俺は一体……?」 「いかん、会社に戻らねば……」


 憑き物が落ちた彼らは、夢遊病者のようにふらふらと立ち上がると、壊れた窓から無意識レベルの中、そそくさと退散していった。


(日本のサラリーマンはマジメだな…)  草薙が体についたほこりを払いながらまたひとりごちる。


 静寂が戻った施術室。  巨人が消滅したあとには、キラキラと輝く光の粒子――膨大な量の「いいね」のエネルギーが漂っていた。


 草薙は空中に向かって右手を掲げ、指を鳴らした。


昇天回収コレクト


 すると、草薙のペンダントに向かい、粒子は渦を巻き、排水溝に吸い込まれる水のように回収されていった。


 《 +50,000 》


「ふぅ……掃除が完了した」


 床に転がっていたハルピは、しばし呆然としていたが、やがてハッとしたように自分の首をさすった。


「……あれ?」


 直角に曲がっていた首が、嘘のように真っ直ぐ伸びている。  視界が高い。世界が広く見える。  だが、彼女はすぐに自分のスマホを取り出した。画面には圏外の表示。


「なによここ! Wi-Fi飛んでないじゃん! こんなシケた場所、秒で帰るわ!」


 礼の一つも言わず、ハルピは嵐のように店を飛び出していった。  残されたのは、またも粉々になった窓ガラスとボロボロの診療所、疲労したチーム魔法整体の面々。


「……もう! お礼もなしかーい!」


 ガン子がプンプンと頬を膨らませる。


「この修理代はどうなるのよ! まさかタダで施術受けて帰ったの!?」 「まあまあ、待つんじゃガン子」


 有栖がケタケタと笑いながらガン子の肩を叩く。


「草薙を見よ」


 視線の先で、草薙は回収したMP残高を確認しながら、キラリと眼鏡を光らせた。


「心配ない。施術中に、彼女のスマホから電子決済で治療代は請求済みだ」 「えっ、いつの間に!?」 「それに……とんでもないものも盗んでおいた」 「とんでもないもの?」


 ガン子が首を傾げると、草薙はニヤリと口角を上げた。


「彼女のアカウントの『ログインパスワード』だ。……しばらくSNSはお預けだな」 「ぇぇぇぇ? それ犯罪⁉ てか、先生が一番エグいよぉ!!」


 ガン子の悲鳴を背に、草薙は回収できた桁違いのMP値を見つめ、目を細めた。


「いやはや、なんと気持ちのいい連中だったんだろうw」


   ◇


 その日の夜。  草薙は、いつもの病室で妹の手を握りしめていた。  MPを注いだ数値が、ゆっくりと変動する。


 《 -100 》


「…よしっ。これで、一ヶ月はもつだろう」


 草薙は愛おしそうに妹の前髪を撫でると、静かに病室を後にした。


   ◇


 騒動の一部始終をモニター越しに見届けた明智は、満足げに頷いた。


「見事だ。だが、承認欲求はまだ『人』を相手にしているだけマシというもの……」


 彼は手元のタブレットを操作し、地図上の新たなポイントにマーカーを付けた。  そこは、古びた神社――都内有数の人気パワースポット、『二階堂神社』の場所だった。


「次は……自らの人生さえも排出率レートに委ねる、『運命のガチャ依存症』。その信仰心を試させてもらおうか」


 明智の瞳が、次なる実験への期待に妖しく光った。


【本日の業務日報:魔法整体】

■対象:インフルエンサー・ハルピ(&社畜ゾンビ群)

■症状:重度スマホ首、および承認欲求の暴走

■施術:三位一体・強制ログアウト整体

■獲得MP:+50,000

■経費:0(※修理代等は請求済み)

■妹へ送念:-100

■前回繰越:16 現在のMP残高:49,916


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