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第22話【絶望】「僕は…この日をずっと…」 時空世界をまたぎ相対する、かつての仲間に奥義をぶつける悲しき運命

 静寂は、一瞬で爆ぜた。


 草薙の蒼炎と有栖の氷刃が、アークライトタワー最上階の空気を焼き、凍らせながら、一点に立つ漆黒の勇者へと殺到する。  明智は腰に帯びた漆黒の長剣を抜くと、空間を切り裂くような鋭い斬撃でそれらを受け止めた。


 ドォォォォォォォンッ!!


 衝撃波が最上階を揺らし、草薙の炎と有栖の氷が火花となって散る。    足場は崩れ、下の階に落ちては更に襲い掛かる明智の連撃。  その繰り返しでタワーの各階層を崩しながら、草薙と有栖はどんどん落ち続ける。


(くそ……!? 陽菜は? それに崩れながら落ちたあのフロアにはまだ二階堂が!)


 その心配する刹那すら許さないほど、明智の迎撃は繰り出される。  迎え撃つ草薙と有栖も、その波状攻撃に圧倒的に圧されていた。


「ははは! 届きませんよ、そんな鈍い一撃では!」


 明智が嘲笑と共に漆黒の剣を払う。その一振りで大気が歪み、草薙は後方へ弾き飛ばされた。


「黙れッ! お前のその余裕、根元から叩き折ってやる!」


 草薙は空中で体勢を立て直し、再び蒼炎を纏って肉薄する。  だが、明智の剣はさらに加速し、草薙の障壁を紙のように切り裂いていく。


「草薙に触れさせはせぬ! この不届き者がッ!!」


 有栖が鋭い氷の礫を弾幕として放つ。  しかし明智はそれらすべてを最小限の動きで叩き落とし、不気味な笑みを深めた。


「無駄ですよ大聖女様! 全て僕の糧になるだけだ!」


 明智は冷徹な視線を、懸命に氷を紡ぐ有栖へと向けた。


「可哀想に。自我を持たされた人形が、自分を人間だと勘違いして、ありもしない絆のために朽ち果てる……。実に滑稽な喜劇ですよ、魔王の娘」


「うるさーーい! まだまだこれからじゃッ!!」


 有栖は叫び、魔力回路が焼き切れるほどの出力で氷結の波動を放ち続ける。


「喰らえ! 蒼炎の連撃ィ!!」


 草薙もまた、魂を削るような速度で連撃を繰り出した。  ただその心境は穏やかではなかった。


(…くっ…デタラメだ。異世界のソラより確実に強い……! 男の腕力、研ぎ澄まされた闇の鋭利さ、さらにはあのブースト技で完全に削ってきやがる。


 異世界に居た頃は、俺の支援魔法だったあの技効果を…今は独力で完全に会得しているのか……。どれだけ修行を重ねてきたんだ。やはり勇者は強い、だからこそ『勇者』と呼ばれる……。くそ、当たり前だが、ここまで歴然かよ……ッ!)


 防ぐだけで数百づつ、いやそれ以上に、まるで滝のようにMPが削り取られていく。  有栖は二階堂が繋いでくれた好機を逃すまいと全開の魔力を放ち続けたが――。


「んぐっ!? ……ぁ、ぁぁ……っ!!」


 明智の重圧に押し切られ、ついに膝をついた。


「……はぁ、……っ、あ、ありす……⁉」


 そこには持てる力のすべてを放出し、ついに動けなくなった魔王の娘の姿があった。    そして草薙ですら、さきほどまであれだけあったMPがついに(1000…100…10…)そして「1」に……さらに、たった今……「0」になった。


 すでにタワーの上層階から何度も崩れ落ち落下し続け、草薙と有栖はついに地表に叩きつけられた。  周りはここまですでに倒壊したタワーの瓦礫で埋め尽くされている。


(……! ガン子は?! ……くそっ!)


 もはや他のメンバーの安否も知れぬ中、明智と戦えるのは草薙1人である現実が、重くのしかかってきた。


 ここからは生命力を直接MPへと変換する寿命ブースト。  だが、それすらも激しい損耗により、今はもう風前の灯火だ。


「いいだろう。……お前のその歪んだ願い、俺が全部受け取ってやるよ」


 草薙は咆哮し、自らの胸元を強く掴んだ。一瞬、世界から音が消え、静かな自問自答が始まる。


(……ソラ。あの日、魔王城の玉座の間で見たお前の背中を、俺は今でも覚えている。誰よりも勇者であろうと足掻いて、誰よりも強烈な奥義を喰らわせた。あのお前の一撃があったから、魔王をあの状態にまでできたんだぞ……。


 俺の力なんかじゃないのに……バカが。不器用で真っ直ぐな、俺の最高の戦友。そして、俺のあこがれ。あの日、俺が放った炎が、お前を暗闇に突き落としたのなら。今度は俺の命で、その闇を焼き尽くしてやるよ。それが、俺にできる唯一の償いだ)


「……俺の命、全部くれてやる……だから目を覚ませ、ソラァァッ!!」


 ――フェニックス・レゾルーション!!!


 草薙の身体が猛烈な蒼炎に包まれる。  一度、その肉体は炎の中で完全に真っ黒に焼けただれ、崩壊のシルエットを晒した。  だが、その死の深淵から、神々しい再生の光が溢れ出す。


 現れたのは、大聖女だけが許された聖紋が刻まれた蒼い衣。  さらに背中にはフェニックスの翼のような炎がなびく、超越的な再生ブースト形態。


 その姿を見た明智は目を見開き、明らかに声にならない言葉を漏らした。  そしてその顔には、どこか、この時を待ちわびていたかのようなまなざしを浮かべた。


 そしてその刹那! 俺はこの全ての決着をつける渾身の魔法を放った!


「よく見ろぉ! これが最後だ……喰らい……やがれぇぇぇぇぇッ!! 『勇者薙ぎ』……ッ!!」


 空間そのものが浄化の白光で塗りつぶされた。  辺り一面が、夜空の中で蒼く輝く超新星のように爆ぜ、すべてを白く染め上げる。


 ンドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!


 耳をつんざく業火の爆発音。


   ◇


 訪れたのは、長い、長い静寂だった。    燃え上がる蒼炎の残火が舞い散る中、後味の悪い勝利の結末を、草薙は感じ……ながら、力なく膝をつく。


 ドサッ。


 もはや、指一本動かす余力さえ残っていない。


「……おわった……、す……すまなぃ……ソラ……。ぉ、おれは……っくっ……」


 草薙の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。救済の完了。その切なくも美しい余韻。


 ……だが。    爆煙の向こうから、あり得ない音が響き始めた。


「……ク……クク……フ、フハ……フハハハハハ!!!!!!」


 忍び笑いは、一瞬で狂乱の絶叫へと変わった。  煙の中から現れたのは……返り血一つ、焦げ目一つない、完全なる無傷の……明智が立っていた。


「……!!??」


 絶句する草薙。


「……な、ぜ、だ……直撃、した……はず、だ……」


 驚愕から絶望へとみるみる変わる草薙の表情を、明智はその眼で舐めるように見つめながら、そして叫んだ。


「計画通り……っ!!! 驚いたかい? 僕の究極奥義『暗黒聖女薙ぎ』は!? 


 あの日からずっと、計算して、計算して、イメージして、イメージして……計算してイメージしてっ! そして今こうして君と相対していた間も! ずっと君のMPを感じながら、計算修正を加えて……! ずっっっと準備してきたんだぁっ!! んぎゃははははは!」


 狂喜に酔いしれ、明智は頭をのけぞらせて嘲笑の極みに没入している。


「絶対君は、僕にあの最終奥義を繰り出してくるって思ってたんだよ! わかりやすすぎる! だから、この漆黒の剣に、君が放つとわかっていた最後の『薙ぎ』と同等量以上のマナを纏わせ、それを逆位相でぶつける!


 ……ずっと計算していたんだよ、君のその技を! 魔王と戦っていたときに見せられてからね! まさに計画通り……っ! いや、いまは『解釈一致』と言えばいいのかなっ!? んぎゃははははははっ!!!」


「ぁ、あの日から……準備してきた……だと? あの時、ソラ、お前は見ていたのか……?」


「そうさっ! そうだよっ!!! そしてずっとこの日、この瞬間を夢見ていたんだ!


 僕に最大の屈辱を与えた、君が最後に放ったあの技。あの技を僕の力で封じ込めて、そして君は膝をつき、僕がその君を見下ろしている……この瞬間をねっ!! あぁ、なんて日だ! まさに、夢見心地だぁっ!!」


「ギャハハハハハッツ! ……ふ、ぁぁああ、そうだ。そんな絶望の顔を見せてくれたお礼に、ついでもっといいものを君にも見せてあげよう! 僕の、僕だけの真の劇場の幕開けをっ!」


 明智が漆黒の剣を床に突き立てた瞬間、アークライトタワーのまだ崩れていなかった全階層の外装が、大気を震わせる重低音と共に激しく爆砕した。


 ッバッキィィィン! ヅドォッゴォォォン!!!


 アークライトタワーの外壁がすべてパージされた。  するとその剥き出しになった芯から姿を現したのは、天を衝く漆黒のモノリス――超巨大な一枚鏡だった。


「これは『魔界鏡』。現世と魔界を完全につなぐゲートだ! これからこの鏡を通じて、無尽蔵の妖魔が現世へ襲来する! そうなった世界ではもはや、人々は僕だけを救世主として崇めるのさ!!」


「⁉……こんな、ものを……このでっけー、ビルに……隠し……て……」


 草薙は、膝をついたまま見上げた。その巨大な鏡面には、今にも溢れ出さんとする異世界の魔気が渦巻いている。


「隠していただなんて、心外だね。これはこの街の『心臓』であり、僕の正義を証明するための『祭壇』だよ。君たちが平和という名の微睡まどろみに浸っている間も、ずっと僕だけが孤独にこの日を準備し続けてきたんだ」


「そんなことのために……お前は……」


 絶句する草薙。その憐れむような視線に触れた瞬間、明智の表情から一気に笑みが消え、冷酷な怒りが顔を出した。


「……その目だ。ずっとさっきから、君が僕に向けるその眼差し……。見ていて違和感しかなかったんだよ。この僕に説教するつもりかい? 全ての人々の憧れの象徴であり、世界の中心である『勇者』の、この僕に」


 明智はゆっくりと歩み寄り、地面に這いつくばる草薙の顔を覗き込む。


「回復がお仕事のイチ僧侶ごときが。いい加減に気づけよ草薙……いや、リノア。君は、ちょっと勘違いしているんじゃないか?」


 明智は愉悦と狂気が混ざり合った咆哮を上げ、漆黒の剣を高く掲げた。


「僧侶が勇者に勝てるワケないだろがぁぁぁぁぁ!! ぎゃははははははッ!!」


 明智の嘲笑が、草薙の脳内で鈍く響く。


(勇者に、僧侶が勝てるわけない……か。……ああ、その通りだ。お前の言う通りだよ、ソラ。お前は勇者で、俺は所詮ヒーラー、ただの僧侶だ……)


 悔しくも、その言葉の意味を納得してしまう。だが、ふと、その言葉の意味を「俯瞰」して見つめ直したとき。草薙はあることに気がついた。


(……待てよ。『勇者に、僧侶は勝てない』。魔王もいないこの世界で……それならこの場でお前に対抗できるのは……俺じゃない。僧侶じゃない……それなら………っ!?)


 草薙は、明智の漆黒の剣に纏わりつく莫大なマナの瞬きに一瞥をくれ、そして――。


「……さすがだ、明智。……いや、ソラ。……お前の、勝ちだよ……そして…おれの、負けだ……」


 その草薙の言葉に、明智はまた目を見開き激しく食いついてきた。


「な? なにぃ? なんて、なんてぇ!? ぎゃはは! その言葉! ずっと聞きたかったよ! もう一度きかせてくれよぉ! ええ? なんてなんてぇぇ??」


「……お前の……勝ちだ……」


「あぁ……っ! 素晴らしい! 草薙……、ぃやリノア、君が僕の靴を舐めるような、その屈辱の顔!! ぎゃははははははははは!」


「……負けた……最後の、俺の願いだ。……もう、その剣で……おれを、突き刺してくれ……」


「そうかそうか、わかった。きみの遺言だな、かなえてやるよ!! んぎゃはははははははっ!」


 最高の承認欲求を手に入れ、完全に警戒心を失った明智が、神速で草薙を貫く。


「あえてもう一度、僕に言わせてくれ! リノア! 僕のぉ勝ちだっ!」


 ドスッ、という嫌な音が響き、漆黒の刃が草薙の胸を貫いた。


…。


現在のMP残高:0P (寿命ブースト終了)


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