第16話【急転】アークライトタワー陥落!? 奪われた妹と、明かされる「孤独な魔導師」の正体
数ある作品の中から目に留めていただき、ありがとうございます。
本作は1月31日に【完全完結】いたします。 完結までの全24話、毎日21:00に予約投稿済みですので、安心してお楽しみください。
異世界から帰ってきた最強の聖女(34歳・男)が、現代の澱みを指先ひとつで「再起動」していく物語。 最後まで、皆様を最高の法悦(昇天)へとお連れすることを約束します。
東京の夜空を貫くアークライトタワー。 その白亜の巨塔は、今や日本中の希望の象徴となっていた。
『人々の心に溜まったストレス、不安、怒り――。 そんな「負のエネルギー」をタワーが吸引し、都市を動かすクリーンなエネルギーへと変換する。 世界で初めて「負」を「正」に変える、夢のクリーン・マナ発電。 アークライトタワーがある限り、この街は精神的な淀みから解放されます!』
次世代エネルギーとして称賛を浴びるタワー。 SNSでは「明智社長」が妖魔を瞬殺する切り抜き動画が、眩い光と共に踊っている。
『【神回】明智様、巨大妖魔を3秒で瞬殺してみたwww』 『これもう現代の神だろ……アケチ社長、マジで一生ついていくわ』 『あけちせんせーありがとぉー♪』
高齢者から幼児まで、あらゆる世代が明智を褒めたたえていた。 映像の中の明智は、カメラに向かって非の打ち所がない微笑みを向ける。
「皆さん、安心してください。私がいる限り、この街から澱みは消え去ります」
人々はスマホを掲げ、魂を削るような熱狂の中で「いいね」を連打し続けていた。 それは、異世界で活躍した「勇者」を称賛する人々の姿を、現世という歪んだ鏡に反射させた、あまりにも空虚で、美しい虚像だった。
◇
「……嘘だ。これ、浄化なんかじゃありません」
魔法整体院の薄暗い施術室で、二階堂が震える指先でタブレットを操作していた。
「タワーが実際にやっているのは、人間の中にある生命力……『マナ』そのものの強制回収です。 そして、その奪ったエネルギーを燃料にして、彼は自分専用の雑魚妖魔を召喚している。それを人々の前で倒して、さらに称賛とマナを稼ぐ……。自分を神に見せるための、究極の自作自演ですよ!」
二階堂が戦慄の事実を突きつけていた、その時だった。
「……あ、有栖ちゃん……っ!?」
駆け寄ったガン子の前で、有栖が膝をつき、激しく肩で息をしていた。 その輪郭は陽炎のようにゆらゆらと透け始めている。
「……草薙……妾の中身が、外へ漏れ出しておる。……止まらぬ、これでは……塵になって消えてしまう……」
タワーの強力な吸引に、魔族である彼女の命の灯が耐えきれなくなっていた。 草薙は有栖を抱きかかえ、その背中に掌を当てる。
「じっとしていろ、有栖! 今、MPを注ぐ……っ!」
自身のMPを流し込み、崩壊を食い止める。 だが、その瞬間、草薙の全身に刺すような悪寒が走り抜けた。
(有栖がこれほどの影響を受けているなら……病室の陽菜はどうなっている……!?)
「……二階堂、車を出してくれ! 病院だ、陽菜の元へ急ぐぞ!!」
◇
不気味な熱狂を孕んだ夜の街を、車が切り裂いていく。
「先生、タワーの吸引が限界を超えています! 周辺のマナが完全に横取りされている。……これじゃ、妖魔を倒しても還元される前に吸い込まれる、一方的な消耗です!」
夜道には次々と雑魚妖魔たちが湧き出しては進路を塞ぐ。 それらを掃討するたび、草薙のMPは回復することなく削られ続け、数値だけが加速的に減少を続けていた。
「たのむ、まにあってくれ……!」
◇
同じ頃、異世界と現世の狭間――。
「はぁ……はぁ……っ、く……っ!」
境界に立つゼノスは、紫電を纏わせた杖を支えにして跪いていた。 明智がこじ開けたゲートから押し寄せる妖魔の大群を、たった一人で受け止め続けていた。
草薙からのMP補充が間に合わない。 防波堤が、音を立てて砕け散った。
薄れゆく意識の中、ゼノスは現世の出口を見つめ、掠れた声で呟く。
「……遅いんだから……もぅ……ダメみたい……ごめん、ね……お、お兄ちゃん……」
◇
草薙は、文字通り命からがら病室のドアを蹴破った。 だが、そこに広がっていたのは、最悪の光景だった。
既に陽菜の身体を無造作に抱え上げた明智が、窓際に立っている。
「陽菜……ッ! おぃ!! 離せ!!」 「おやっと。彼女はもう、空っぽなんだ」
明智は、まるで戦利品を見せびらかすように、陽菜の顔を草薙へ向けた。
「ほんと君はおめでたいヤツだ。君はずっと自分が妹を守っていると思っていたようだけど……それは逆だ。このゼノス……君の妹が、ずっと君を守っていたんだよ」
「…っ!? …何だと?」
「彼女は君を現世へ逃がした後、ずっとこの境界に立ち続け、僕が召喚する妖魔を防いでくれていたんだ。……実に、困った人だったよ」
草薙は愕然と立ち尽くした。
「陽菜が……ゼノス……?」
「わからないかい? 異世界側から妖魔を送り込んでいた僕にとっては、彼女の『顔』は嫌というほど見慣れた障害物だったのさ」
明智は、絶望に凍りつく草薙を嘲笑うように、闇へと溶け出していく。
「紫電の大魔導師……ふ、君の妹の弱点は、休まない、周りを頼らない、そういう老害ジジィのような頑固さなんだよ!」
◇
刹那、明智が消えた直後、草薙は床に膝をつき、拳を叩きつけた。
(……くそ……こんな状況、昔もあったな……)
フラッシュバックしたのは、異世界での記憶。 MPを使い果たしたゼノスとリノアが、泥に塗れて死を覚悟したあの日。
シュキーーーーッン!
金色の一閃が煌めき、絶望を裂いて彼女が現れた。
『大丈夫!、ここは私が守るよ。二人は、休んでて』
圧倒的な力で敵を殲滅し、眩しい太陽のような笑顔を見せた女勇者・ソラ。
「……クソ……っ。最後は頼りにしちまう……。……ここにソラさえいてくれたら……! 頼む、俺たちを導いてくれよ……ソラ!」
◇
「……先生! ぐずぐずしてられません。明智の行き先、タワーの最上階です!」
殺気をみなぎらせたガン子が、ランニングウェアに着替えて立っていた。
「……っ、ひどいです……! ワタシもいきますっ! ……絶対に、絶対に許せません……!」
草薙は、ゆっくりと眼鏡を直し、白衣を翻して立ち上がった。 その瞳には、澱みをすべて焼き尽くす、リノアとしての冷徹な炎が宿っていた。
「……案内してくれ、二階堂。有栖、まだ行けるか? そしてガン子、頼む、この現世では俺の背中を預ける。……待ってろよ、この『澱み(コリ)』、根元からブチ抜いてやる」
【本日の魔法整体収支状況】
■獲得MP:0P(タワーによるマナ強制回収のため)
■使用MP:-58,115P(有栖の維持、および激しい戦闘消費)
■現在のMP残高:1P




