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第15話【抱擁】不死鳥の炎で包み込め! 絶望に沈む母娘に、聖女が贈る「魔法整体・再生のララバイ」


 魔王最終決戦。


 すでに金閃の勇者ソラ、紅蓮の狂戦士ヴォルグ、紫電の大魔道士ゼノス……  史上最強の3人による全生命を注いだ最終奥義は放たれ……


 しかし……


 魔王は完全に膝をついたが、その命は消えていなかった。


(……これでも…倒れない!?)


 絶望的な沈黙の中、俺もすでに満身創痍だった。  ソラや仲間たちは、すでに力を使い果たし、魔王城の床に沈んでいた。


 俺は、覚悟を決めた。  俺の最終奥義……ここで出さずに、いつ出すというんだ……


 俺は最期の呪文を唱える。  すると聖なる蒼い炎が自らの身を焼き始めた。


「フェニックス・レゾルーション……!」


 蒼炎が衣装を焼き尽くし、露わになった肌をなぞるように光の粒子が爆発する。  それは不死鳥が自らを焼いて再誕するように、肉体の限界をリセットして全魔力を瞬発的なブーストへ変換する「再誕」の魔法。


 まばゆい光の中で一瞬、黒いシルエットとなって焼け落ちた肉体が、蒼炎の翼を広げた神々しい姿へと再構成される。  蒼炎の翼を広げ、俺は魔王へ向かって突進した。


「……魔王よ…もう、終わりにしましょう…」


 俺は静かに、けれど強く慈悲を込めて本当に最期で最後の渾身の魔法を詠唱した。


「あなたのすべて受け取ります……! だから……喰らいぃ! やがりなさぁぁぁい!」


 最大奥義「魔王薙ぎ」の猛火が、魔王へ体ごと飛び込む俺の肢体と共に燃え上がる。  俺は燃え盛る浄化の業火の中で、焼け落ちていく魔王の体を、その苦しみを分かち合うように指に力を入れ…強く掴み……抱きしめた。


 その瞬間、魔王の記憶……  現世での宇佐美幸子の凄惨な光景の数々、息子への狂おしいまでの愛、そのすべてが俺の中に流れ込み、俺は確信した。


(……やはり。あなたも……あなたもだったのか。この魔王も、元は現世からきた転生者……)


「……やっと、終わる……。やっと、死ねるのね……」


 業火の中で、魔王(幸子)の理性が、女性としての…母親の顔を取り戻す。  彼女は俺の正体に気づき、最期の力を振り絞って縋り付いてきた。


「…あなたも、なのね…それなら……現世から転生してきたあなたなら…わかってくれるはず……。おねがい……どうか……私の娘だけは……殺さないで。あの子の人生が、優しい誰かの声で満たされるように……。お願い……あの子を、助けて……」


 世界を破滅させようとした怪物の正体は、今。  己の娘の幸せだけを願う…そぅ、ただの「母親」だった。


 俺は燃え盛る浄化の業火の中で、彼女の祈りを受け取り、その想いごと、魔王という苦しみから彼女を解放した。


   ◇


 現実のアパート。  記憶から戻った有栖は、古びた鏡台の前で膝をつき、子供のように泣きじゃくった。


「う……うああああああん!! 父様……母様ぁぁ!!」


 魔王となった母は、かつて守れなかった息子への愛を、異世界で自らの体より産み分けたわらわに注いでくれていた。  自分はただのスペアではなかった。


「ぁ、あの時の……我が父・魔王の『殺さないで…』という言葉の意味は……っ!」


「そうだ。自分のことじゃない。………有栖。お前に対してお願いされた言葉だったんだよ…。」


さらに「ぅわーあぁぁぁぁん!」と子供のように泣き崩れる有栖。


ただ。頭を撫でる草薙。



草薙がこの呪われた部屋を守り続けていた理由を知り、有栖の心の棘は完全に溶け去った。


   ◇


 そして俺にはこうして有栖に直接伝えたことにより、今にして思えば合点がいくことも多かった。


 有栖の言う「年齢2000歳」も、幸子は、魔界という弱肉強食の世界で、実年齢はまだ幼い有栖を守るために「2000歳の魔王の娘」という虚飾の鎧を着せたのだ。


 有栖が今もそれを疑わず、誇らしげに語るたびに、俺の胸には微かな痛みが走る。


 さらに、 「……そうか。だからお前は、氷を受け継いで……」


 俺は、氷属性を持つコイツを当初冷房代わりに酷使した自分を恥じた。  幸子が死の間際に息子と願った「涼しさ」を、俺はただの便利な道具として消費していたのだ。


   ◇


 翌朝。整体院の開店準備をしながら、有栖は熱心に床を磨いていた。


「……し、心配するな。前から言っておろう、わらわは記憶力はよいのじゃ。……母様の想い、お主との約束……二度とは忘れぬわ!」


 有栖はプイと横を向いた。その頬は、少しだけ赤く染まっている。  本当の意味で、俺たちの絆が結ばれたらしい。


 だが。その様子を、アークライトタワーの最上階で明智は感じ取っていた。


「……絆、か。美しいね、大聖女さん。だが、光が強まれば影も深くなる」


 明智が、チェスの駒を一つ倒す。


「そろそろ僕の『光』で、君たちの脆い幸せを照らしてあげようか。……お掃除の時間だ」



【本日の業務日報:魔法整体】

■対象:有栖アリス

■症状:アイデンティティ・クライシス、根深い復讐心

■施術:過去の記憶の共有シンパシー、魂のカウンセリング

■獲得MP:+500P(魂の根源的な浄化による還元)

■使用MP:-0P

■前回繰越:57,616P


現在のMP残高:58,116P


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