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第1話【悲報】編集者の肩、締め切りの悪魔が憑いていたので「聖炎」で物理的に焼却してみた

こちらAmazon電子書籍で有料だったものを【特別無料公開】にしたものです。

カクヨムサイトでも公開中!


本作は1月30日に【完全完結】いたします。 完結までの全24話、毎日21:00に予約投稿済みですので、安心してお楽しみください。


異世界から帰ってきた最強の聖女(34歳・男)が、現代の澱みを指先ひとつで「再起動リブート」していく物語。 最後まで、皆様を最高の法悦(昇天)へとお連れすることを約束します。

「……力を抜いてください。それでは、入れますね」


「えっ?? 入れるって……え、ちょ、ちょっと待ってください! さ、さすがに心の準備が!」


「安心してください。すぐ終わりますから……それっ、入れます!」


「ヒャッ!? ま、まって!!?ぃやっ!」


深夜の整体院。

診察台に仰向けになった女性――後に常連となる二階堂は、覆いかぶさる俺を見上げて頬を真っ赤に染め、身をよじらせた。

だが、俺――草薙療くさなぎ りょうに、邪な気持ちは微塵もない。

俺は彼女の鎖骨のあたりに右手をかざし、集束させた魔力を一気に解放して叫んだ。


「――『聖炎昇天セント・アセンション』ッ!!!」


「って! なんじゃそりゃっ!? 魔法の呪文かぁい!? しかも中二病みたいな技名!? ……ん?、ふぁわぁ……!」


ドォォォォォンッ!!

二階堂の胸元から、鮮やかな「青い炎」がキャンプファイヤーのごとく燃え上がった。


「んぎゃーーー!? ってこらーーっ!! あごの下で!! 私の体から、も、もえてるぅぅーー!!?」


視界いっぱいに広がる蒼炎を見て、二階堂がパニックになって暴れる。

俺は冷静に彼女の肩を押さえ、炎をコントロールする。


「静かにしてください。今、あなたの不調の原因である『締め切り催促の妖魔』を、浄化の炎で焼き払っていますから」


「え……妖魔……? 締め切り……?」


俺の目にははっきりと見えていた。

彼女の首筋に巻き付き、どす黒い怨念を撒き散らしていた『古時計と原稿用紙が融合したような小鬼』が。

(……こいつは酷いな。この形状、おそらくマスコミか出版関係の編集者か?)


俺は燃え盛る青い炎の中に手を突っ込み、ちょうどワイシャツのボタンのラインに沿って、肌には触れないギリギリの距離で指先を滑らせていく。


「……っ、ぁ……!」


物理的には触れていない。

だが、その指先から放たれる「聖なる熱」が、彼女の胸骨を貫き、芯にある「穢れ(けがれ)」を溶かしていく。

暴れていた二階堂の動きが止まる。

眼前の炎に焼かれ、妖魔がジジジと音を立てて金色の粒子へと変わっていく光景に、彼女は目を奪われていた。


「……あれ? なんか痛みはあるけど、熱くない……え、なにこれ?」


「はい、もう少しですよ。そこに溜まっていた『呪い』、全部出しますね」


俺は脳内でパイプオルガンの荘厳な音色を再生しながら、最後の一押しを加える。

指先をスッと、喉元から鳩尾みぞおちへ向かって流す。


「ぇ、なんだろ……だんだん痛みが取れてきた……っていうか、あったかぁぁい……」

「我慢しなくていいですよ。楽にしてください」

「はぁ……気持ちいい……ぁ、なんかすごく快感が体の奥から湧いてくる……! 重いのが、抜けていくぅ……!」

「さあ、逝きなさい」

「あ、あ、……ああああ! し、昇天!!」


ドクン、と二階堂の身体が大きく跳ねる。

青い炎が最後に一際大きく輝き、弾けた。

彼女はカッと目を見開き、そのまま脱力して診察台に沈み込んだ。

焦点の合わない瞳で天井を見つめ、口元からはとろりと安堵の吐息が漏れている。


俺は残心を行い、空中に霧散した妖魔の残滓に向かって、聖女時代からの手癖で十字を切った。


「――穢れは祓われた。……祝福ブレス、あれ。」


宙に漂う光の粒子――浄化によって還元されたマナが、俺の胸元のペンダントに吸い込まれていく。

【MP回収:+12】

(……ふぅ。これで今夜の分は確保できたか)


                ◇


「――とまあ、一見すると怪しい店に見えるだろうが、これは立派な『医療行為』だ」


俺の名前は草薙療、34歳。しがない整体師だ。


だが、少し前まで俺は……異世界で『聖女』をやっていた。



現世に帰ってきた俺を待っていたのは、マナのない枯渇した日本と、ストレスという名の『呪い』に塗れた社会だった。

この世界では、呼吸をするだけじゃMPは回復しない。

だから俺は、こうして人の身体に巣食う『妖魔』を浄化し、そのエネルギーを還元・吸収することで、かろうじて生きている。


……そう、すべては。

俺が稼ぐこのMPいのちは、あいつのためにある。


                ◇


しばらくして、二階堂がフラフラと上半身を起こした。

髪は乱れ、頬は上気しているが、その顔色は憑き物が落ちたように晴れやかだ。


「ほ、ほんと……なんて言ったらいいか……ぇ、えっと……その、ありがとうございます! もう今もめちゃくちゃ楽になって、さっきまでが嘘みたいに気持ちいいです!」


「そりゃよかった。まぁでもね、お客さん。少し働きすぎですよ。背中に『なるはや』って叫ぶ妖魔が三匹もぶら下がってましたから」


俺はカルテを書きながら淡々と告げる。

二階堂は自分の身体をペタペタと触りながら、不思議そうに首をかしげた。


「あの……さっきの炎とか、呪文みたいなのって……マジックですか? それとも最新のプロジェクションマッピング的な?」


ああ、またか。

俺は小さく溜息をつく。

普通の反応だ。だが、いちいち誤魔化すのも面倒臭い。

俺はペンを置き、あえて「痛い奴」を演じて、真実を話すことにした。


「いいえ、本物の魔法ですよ」

「え?」

「俺、実は三年前まで異世界に行ってたんです。向こうでは『僧侶』やってましてね。……あ、性別は女だったんで、実際には『聖女』ってやつですね」

「……は?」

「結構スキルも最後はカンストしてたんで、あっちでは『蒼炎の大聖女』なんて呼ばれて崇められてましたっけ(笑)。あ、これ一応自慢です」

「……はぁ??」

「信じられないでしょうが、この日本の空気中にはマナがないんです。あ、マナってのは簡単に言えば『MPの素』のことですね。だから俺は、こうして患者さんのストレスを燃やして、そのエネルギーを吸って生きているんです」


俺はスラスラといつもの説明を並べた。

これで彼女も「ヤバい整体師だ」と引いて、二度と来なくなるはずだ。

そう思った矢先だった。


ガタッ!

二階堂が食い気味に診察台から立ち上がり、目を血走らせて身を乗り出してきた。


「それって……『転移モノ』ですか!? それとも『憑依モノ』ですか!?」

「……はい?」

「私、こう見えても学生時代からラノベ読み漁ってるんです! え、嘘、本物の帰還者リターナー!? 聖女ってことは、性転換TSギミック付き!? とうとッ……!!」


……予想外の反応に、俺の方が言葉を失った。

どうやらこの女、見た目はバリキャリの編集者だが、中身は筋金入りの「ガチ勢」だったらしい。


「あの! 私、二階堂っていいます! ぜひもっと詳しく――」


パリーンッ!!!


二階堂が名刺を取り出そうとした瞬間、部屋の隅にある大きな姿見が、甲高い音を立てて砕け散った。

いや、ただ割れたのではない。

鏡面が真っ白に凍りつき、内側からの衝撃で弾け飛んだのだ。


「んきゃーーー!? 今度はなにぃーー???」


俺はとっさに、この時点でテンションが上がりまくってちょっとおかしくなっている二階堂を体で庇い、割れた鏡へと視線を向ける。

舞い散る氷の結晶とガラス片の向こうから、ひとりの少女が飛び出してきた。


赤と黒のゴシックドレス。銀色のツインテール。

そして頭部には、湾曲した二本の「角」。

少女は着地と同時に、身の丈ほどもある巨大な氷のハンマーを構え、俺を睨みつけた。


「……見つけたぞ。この不快な聖気マナの臭い……間違いない」


少女の赤い瞳が、憎悪に燃えている。


「出てこい聖女リオナ! 我が父上の……魔王の仇、このアリスが討ち取ってくれるわ!!」


その姿に、俺は息を呑んだ。

コイツは、魔王の娘……。

だが、俺の口から出た言葉は、感動の再会とは程遠いものだった。


「あぁぁぁぁぁっ!!??  ウチのイタリア製の鏡がぁぁぁ!!!」


俺は頭を抱えて絶叫した。

清水の舞台から飛び降りるつもりで奮発した、アンティーク調の高級姿見(三十万円・ローン残あり)。


それが、コイツの派手で無茶苦茶な登場により、見るも無残な氷のつぶてと化している。

俺の悲痛な叫びを聞き、少女――アリスは、不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。


「こら! どこを見ておる! もっと驚け! わらわが来たのじゃぞ!」


アリスはふんぞり返り、勝ち誇ったようにハンマーを掲げた。

後ろで二階堂が「えっ、えっ、魔王? 娘? しかもロリ? 設定過多じゃない!?」と混乱している。

俺は二階堂の手前、まずは穏便に済ませようと、震える声で話しかけた。


「あ、あのですね……とりあえず武器を――」

「問答無用! わらわの力、その身に刻むがよい! それならこれはどうじゃ!」


ドォォォォンッ!!

アリスがハンマーを一振りすると、猛烈な冷気が部屋中を駆け巡った。

一瞬にして壁も床も、俺の商売道具である施術ベッドまでもが、分厚い氷に覆われていく。


「さぁどうじゃ! 恐怖に震えて命乞いをするがよ――」

「……」


俺は無言で距離を詰めた。

そして、高笑いするアリスの広いおでこに、魔力を込めた指先を添え――。


デコピンッ。


「ぐはぁっ!!」


乾いた音が響き、アリスがマンガのように吹っ飛んだ。

壁に激突し、ズサーッと床を滑って気絶……いや、目を回してのたうち回っている。


「あ、あれ……? わらわの絶対防御が……? 一撃……?」


アリスは涙目で震えながら、俺を見上げた。

さっきまでの威厳はどこへやら、その姿は完全に「叱られた子供」そのものだ。


俺は仁王立ちで彼女を見下ろす。

怒りが頂点に達していた。


「おい」

「ひぃっ!?」

「人の店をいきなり氷漬けにして、高級な鏡を割って、何様のつもりだ?」

「す、すいませんでしたぁ!!」


アリスは即座に見事な土下座を披露した。

あまりの早変わりっぷりに、後ろで二階堂が「ちょ、チョロインんんん!?」とツッコミを入れている。


「も、申し訳ないのじゃ……ついカッとなって……。そ、そんなに怒るでない。た、たかが部屋が氷漬けになったくらいで……」

「たかがだと? この氷溶かすのにどんだけ手間がかかると思ってんだ」

「あ、あの、そんなに鏡も必要なら、ほれ、妾の術ですぐ作ってやれるぞい!?」


アリスがおずおずと指を立てる。


「見ておれ、この程度なら妾は小指一本でも作れるからの……『氷鏡壁アイス・ミラー』!」


パキパキパキッ!

アリスが魔法を放つと、割れた鏡のあった場所に、巨大な氷の板が出現した。

見た目は確かに鏡のように反射している。

だが、その代償として――部屋の温度がさらに急降下し、極寒の冷凍庫と化した。


「……さっぶ!!!」

「ほれ! どうじゃ! 完璧じゃろ!」


ドヤ顔で胸を張るアリス。

俺の堪忍袋の緒が、完全に切れた。


「……あのなぁ!」

「ひゃいっ!」


ゴツンッ!

俺は本日二度目の制裁(拳骨)をアリスの脳天に落とした。


「氷で鏡作ったり、部屋を無茶苦茶にしたり、いい加減にしろ! この部屋を南極にする気か!」

「ふえぇぇぇん! よかれと思ったのにぃぃぃ!」


「いいか? お前のその術、もう二度と使うなよ! 迷惑なんだよ!」


俺の怒号が、凍てついた整体院に響き渡る。

泣きじゃくる自称・魔王の娘。

ガタガタ震えながら「尊いけど寒い……!」と呟く二階堂。

そして、マイナス収支確定の現状に頭を抱える俺。


……どうやら、俺の平穏な「MP自転車操業」生活は、今日で終わったらしい。


【現在MP:5 / ???:測定不能】


次回更新は、毎日21:00です。


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