第一章⑧
買い出しを終えたわたしは、再び門を開いて公爵城に急いで戻ったのだけれど、目の前に広がる光景に言葉が出なかった。
旦那様とダンたちが待っていたのは、公爵城で唯一埃が払われたわたしと旦那様の寝室だったのはいいのだけれど、旦那様はベッドの上で膝を抱えてガラス玉のような瞳で虚空を見つめていたのだ。
そして、ベッドの周辺には、激しくぶつかり合う半裸のダンたち……。
部屋の外はかなり寒いのに、中はむわっとするほどの熱さ……。
わたしは……いったい何を見せられているのだろうか……。
そんなことを思ったわたしは、虚無状態の旦那様と目が合ったの。
そのとたん、旦那様はベッドから飛び降りて、わたしの胸に飛び込んでいたわ。
「ギネヴィア!!!」
「た……ただいま戻りました……」
「ギネヴィアぁ~」
ぎゅっと、縋る様に旦那様がわたしに抱き着く様子に、わたしの中の母性がくすぐられる。
何があったのか分からないけれど、とにかく旦那様を慰めなければという思いに駆られたわたしは、ぎゅっと旦那様を抱きしめ返したの。
「ごめんなさい。少し遅くなってしまって……。ところで、この状況は……」
「ギネヴィア……」
かなりショックを受けているようで、旦那様から状況を聞くのは難しそうだと判断したわたしは、ダンに状況を確認することにしたの。
「ダン? この状況を簡潔に説明してくれないかな?」
わたしがそう聞くと、ダンはぶつかり合いを中断し、背筋を伸ばしてわたしに向きなおったのだ。
「はい。お嬢!! お嬢と別れた後、公爵様の提案で公爵城に来たの良かったんですが……。兎に角寒すぎてですね……。公爵様の側は暖かかったんですが……」
そこまで言われたわたしは、これはわたしの所為だということを理解し半裸の男たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
とりあえず、部屋全体を魔術で暖かくしてから素直に自分の過失を謝罪していた。
「旦那様、そして貴方たちも。ごめんなさい。わたしの配慮不足だったわ。今まで魔術でどうにかしていたから薪も用意してなくて、さぞ寒かったでしょう」
「いえいえ!! 公爵様が自分の側に居れば暖かいと仰ってくれたのですが……」
「うん。わかってるわ……。効果範囲が狭くてごめんなさい」
「そんなそんな!! 公爵様は本当にお優しくて、むさ苦しい俺たちにくっつかれても嫌な顔一つしなくて……。でも……。でも!!! 俺たちが耐えられなかったんです!! 公爵様のような美少年に俺たちのようなむさ苦しいおっさんが引っ付いてる絵面!!」
ああ……。そう言うことね。酷い絵面に耐えるよりも、おっさん同士で激しく体を動かして暖を取った方が気が楽だったってことね……。
旦那様の遠い目なんとなく理解したわ。
ダンたちの羞恥心? を理解できず、嫌われたとか思ったのかも。
それなら誤解は早く解かなくちゃ。
ダンたちの様子から、旦那様の髪や目の色はまったく気にしていないみたいだし。
腕の中にいる旦那様をもう一度ぎゅっと抱きしめたわたしは、出来るだけ優しい声で話しかける。
「ダンたちは、愛らしい旦那様にこうやってくっつくのが恥ずかしくて、ああやって男どうしで体を暖め合っていたみたいなの。だから、ダンたちのこと許してあげてね」
「はずかしい?」
「そう。旦那様が可愛いから」
「そうなの? ギネヴィアも?」
「わたしも旦那様を可愛いと思いますよ」
そう言って、不安そうな旦那様の瞳を見つめて笑みを浮かべると、旦那様もわたしにつられるようにニコリと微笑んだのだ。
その恥ずかしそうに微笑むお顔が可愛らしくて……。
「も~、旦那様は超絶にお可愛らしいです!!」




