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旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。  作者: バナナマヨネーズ


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第一章⑦

 その夜は、持ってきた食料でお腹を満たして、ベッドで抱き合う様にして眠りについた。

 旦那様は、誰かと一緒に眠るのが初めてだったようで、最初はソワソワしていたけれど、すぐに可愛らしい寝息を立てていたわ。

 

 次の日からは、大変な日々の連続だった。

 城下街を調べると、ならず者の巣と化していたことがすぐに判明したのよ。

 だけど、それを見逃すほどわたしは優しい女ではないのよ。

 あいにく剣を所持することは許されなかったため、即席で剣の代わりの棒切れを魔術で強化したの。

 えっ? 強化した棒切れをどうしたのかって?

 もちろん、ならず者たちの()に使うに決まっているでしょう?

 

 結論から言うと、余裕だった。

 ろくに食べていないだろう、ならず者たち。

 棒切れを強化することもないほど、呆気なく散っていったわ。

 

 リーダー格の男が言うには、他所の領地から追い出されたものだったり、北部の村で口減らしで追い出されたものがここに集まって助け合って暮らしていたのだという。

 それならと、わたしは彼らに機会を与えることにしたの。

 持っていた食料を分けて、彼らに仕事を与えることにしたわ。

 

 急遽大所帯となったため、差し当たっての急務は食料問題ね。

 少し考えた後、王国内の地図を思い浮かべる。

 王都を中心に四方に広がる地域を、北部、南部、西部、東部と呼んでいた。北部以外は、複数の貴族が合わさって、その土地を管理していた。

 北部は、その全体が不毛な土地だと思われているため、ハズレ爵位だと言われているケイネス公爵以外に治める貴族は存在しなかった。

 現在地から考えると、わたしが商売を出来そうな場所は東部の端の領地ね。

 昔に行ったことのある場所を思い浮かべて、魔術で門を開くためのパスを通す。

 うん。実践は初めてだけどいけそうね。

 そうと決まれば行動は迅速に!

 

「えっと、貴方のお名前は?」


 わたしがリーダー格の体格のいい男にそう声をかけると、慌てるように返事が返ってきた。

 

「俺は、ダンです」


「分かったわ。ちょっと稼いでくるから、旦那様をお願い。たぶん……三時間ほどで戻ってこられると思うから」


「えっ?」


 日が暮れる前にあれこれやらなければならないことを考えながら、目の前に現れた門を通っていた。

 門を通った先には、昔一度だけ物見で訪れたことのある、小さな町があった。

 ここは、王都とは遠い場所にあるため、わたしが何をしても、情報が行くことはないでしょうね。

 

 さっと町を見渡して、目的の店が目に入ったわたしは、懐から三本の小瓶を取り出していた。

 と言っても、実際に懐に入れていたわけではないわ。

 懐から取るふりをしただけで、実際には異空間魔術でしまっていた小瓶を取り出したに過ぎない。

 異空間魔術が出来る人間は少ないため、その使い手だと知られると面倒だから、その対策としてよ。

 

 小瓶を取り出したわたしは、目の前の薬屋に入っていた。

 店の中はいたって普通で、可もなく不可もなくって感じね。

 店の奥の店主が一瞬だけ視線をよこしたけれど、子供には用はないとばかりに視線はすぐにそらされていた。

 普通はそうよね。

 ここは、普通の薬屋ではなく魔術的な処置がされた高価な薬を扱う店だったから。

 そんな店に、十歳くらいに見えるわたしが入ってきても、お客だとは思わないでしょうね。

 迷うことなく店主に近づいたわたしは、店主の目の前に小瓶を三つ突き出すように置いていた。

 

「魔術処理済みの万能薬よ」


 わたしがそう言うと、店主は視線だけを小瓶に向けてすぐに読んでいた新聞に視線を戻していた。

 だけど、すぐに視線は小瓶に戻されていた。

 

「お……お嬢ちゃん……」


「本物よ。入手経路は企業秘密。今回は初回だから安くしてあげてもいいわ。お得意さんになってくれるならね」


 わたしがそう言うと、店主は慌てたように器具を取り出して言ったの。

 

「まっ……待ってくれ。測定してもいいか?」


「いいわ」


 魔術処理済みの薬を見てその対応が出来るのなら、この店は優良店だと言えるわ。

 測定とは、施された魔術処理を確かめるための行為だ。

 そうしないと、偽物を買わされることもあるから、こういった薬を売り買いするときの基本的な行動よ。それをしていない店で売られているものは偽物が殆どね。

 

「すごいな……。測定値は低く見ても上十級……、いや下……中上級でもおかしくない出来だ……」


 魔術処理された薬には等級が存在しているの。

 低いものから一級の下、中、上、とはじまり十級。さらに上は上級、特級と等級が上がれば上がるほど効果も価値も上がっていくのよ。


「安くするよ?」


「ゴクッ……三本まとめて買いたい。金貨……」


「金貨三十枚」


「さっ……ン十枚……」


 店主は、金貨三十枚と聞いて頭の中で勘定を開始する。

 金貨一枚で、慎ましく暮らせば四人家族がひと月は不自由なく暮らせるほどの金額だ。

 それでも、それを余りあるほどの価値がこの薬にあることは店主も理解していたようで、すぐに笑顔で金貨を準備していた。

 

「わかりました。それで買わせてもらいます。ですから、次も当店で」


「ええ。もちろんよ。次もよろしくね」


 交渉成立。高価な薬だけど、実は腐るほどあるから全く問題ないのよ。

 それよりも、安く買いたたかれてもいいからお金が欲しかったのよ。

 食料と衣類の調達は急務だったからね。

 こうして、金貨三十枚を手に入れたわたしは、町で日持ちのする食料を買い漁り、丈夫な布を大量に購入した。

 

 買ったものを異空間魔法で収納し、急いで公爵城に戻ると……。

 地獄のような光景が広がっていたわ……。



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