第一章④
現在、わたしの教育のおかげ……、いいえ、違うわね。
旦那様の努力の賜物で、立派な男性に成長したアルトラーディ。
誰が見ても美麗! 筋肉! 華美! 筋肉!! の美しすぎる姿に成長を遂げていたわ。
艶やかな黒髪。キリリとした形のいい眉。高い鼻梁。形のいい薄い唇。剣士としても優秀な旦那様は、程よく付いた筋肉が最高にセクシーで、すべての女性を魅了することでしょうね。
お声だって、低音の甘く色気がダダ洩れで、耳元でささやかれた日には腰が砕けてしまう。
涼やかな切れ長の目元、宝石のように輝くルビーのような美しい瞳。
まさに、美の結晶のごとき旦那様!!
そして、その隣に並ぶわたし……。
貧相オブ貧相!!
ははっ!!
結婚当初は、わたしよりも小さかった旦那様だったけれど、衣食住の改善でみるみるうちに年相応に育ち、五歳差の年齢設定だったにもかかわらず、すぐにわたしの方が年下に見られるようになってしまったわ。
結婚して十年だった今は……。
完全に旦那様の妻ではなく妹のような見目になってしまったわ……。
高身長の旦那様の隣に並ぶと、頭二つ分は背が低いわたしは、知らない人が見れば妹のような存在に見えてしまうことでしょうね。
顔立ちも幼いころのままで、当然胸もペタンよ。
どうせわたしなんてロリババアよ!!
白髪と紫色の瞳の所為もあって、ババア感マシマシよ!!
だからなのか、最近は旦那様に介護されているような気分になってしまうのよね。
身長差の所為で歩く歩幅が違いすぎて……。それを見かねた旦那様に抱っこされてしまうし、食事だって、喉に食べ物を詰まらす老人を介護するがごとく、旦那様が小さく切った肉や野菜を口元に運ばれてしまう始末。
ふぇぇ……。介護にはまだ早いってば旦那様。
だけど、最近の旦那様の様子がどうにもおかしい。
まぁ、今までも様子がおかしいことなんて数えきれないほどあったけれど。
それに輪をかけておかしいのよね。
顔を赤らめて、瞳を潤ませて、何かを言いたげな……。
あっ……。
そうか、そういうことね。
それなら決断は早い方がいいわね。
必要な書類にサインをしたわたしは、騎士団の訓練所にいるはずの旦那様のもとに向かった。
訓練所には、旦那様の他にも数人の騎士たちがいたのだけれど……。
おかしいの。何故か全員が車座になって頭を突き合わせるようにしてひそひそとしていたのよ。
駄目だとは思いつつも、無意識のうちにわたしは気配を魔術で遮断したうえで忍び足で旦那様たちの側に近づいていた。
「閣下、そこは正直に言った方がいいですって」
「いやいや、ストレートすぎても女性に嫌がられますよ。そういった雰囲気づくりをしたうえでですね」
「閣下……。ポンコツ。拗らせすぎ」
「お……。お前たち! 俺だって好きでこうなったんじゃない! これは惚れた弱みと言うか……。なぁ、俺たち相思相愛に見えるだろ?」
「まぁ……。可もなく不可もなく?」
「同感です」
「右に同じ」
なるほど……。やっぱりそうなのね。旦那様にも春が来たということで間違いないわね。
でも、お相手は?
公爵城に勤める者は現在既婚者のみのはず……。
あの清廉潔白な旦那様が、不貞を働くなんて絶対にないから除外するとして……。
心当たりは数人ね。
部下たちに何度か連れて行かれた食堂の看板娘。
取引先の商会のご息女たち。
食堂の看板娘は会ったことがないから分からないけれど、取引先の紹介のご息女たちには何度か会ったことがあったわ。
旦那様と年頃も違い可愛らしいお嬢さんたち。
旦那様と並んだ姿を想像して……なんだか胸がモヤモヤした。
まるで、大切に育てた息子を嫁にとられる母親のような、そんな心境ね……。
ううん。決めたじゃない。わたしは、旦那様の幸せを第一に考えるって。
旦那様が幸せならわたしは最高にハッピーなのよ。
だから大丈夫……。あれ? 何が大丈夫なんだろう?
うぅん。なんだか胸のモヤモヤがムカムカに進化したわ。
うん。これはきっと、お昼に食べ過ぎてしまったのよ。それしかないわ。




