第三章④
まずは、厨房に堂々と入り込んだわたしは、その豪華な料理の数々に怒りを覚える。
だけど、今は怒ることよりも王子殿下の食事を優先させたわたしは、王子殿下が食べられそうな物を物色したの。
弱っているお腹でも食べられそうなものを探して、ブイヨンスープを発見する。
魔術で隠ぺいした保温壺にブイヨンスープを注ぎ、お皿を数枚拝借する。
その他に、柔らかそうな桃を二つと、焼き立てのパンも四つほど頂いた。
そのままリネン室に向かい、シーツを数枚と枕も拝借したわ。
そして、衣装室に入り込み、まだ使用されていなさそうな下着数枚と、小さめのシャツを四枚ほど拝借していた。
その次に、離宮の使われていない部屋もいくつか周って、ベッドも頂いたわたしは、急いで王子殿下の元に戻ったの。
幸い、王子殿下はまだ眠っていた。
まだ陽は高く、気温も暖かかった。
わたしは、王子殿下をそっと外の日当たりのいい場所に移動させたの。
それからすぐに、ボロ小屋を隙間風のないように修繕し、部屋全体に洗浄の魔術を掛ける。
中が綺麗になったところで、その辺の木を加工して床に敷いたわ。
床が綺麗に板張りされた後に、頂戴してきたベッドを設置して、シーツを敷いて枕も置く。
今度は、頂いてきた下着を魔術で調整して、王子殿下が履いても問題ないように手直しをする。
部屋の準備と王子殿下の下着の調整が終わったわたしは、外にいる王子殿下の元に戻ったわ。
ちょうと、王子殿下が目を覚ますところだった。
持ってきたお皿にスープを注いで、スプーンを取り出して王子殿下に差し出したのだけど……。
王子殿下は、スプーンを見て首を傾げるだけだった。
まるで、初めて見るかのような、そんな表情だったわ。
そこでわたしは、またしてもあることを察してしまった。
「ああ! もう信じられないわ!! まさか、今までお皿から直接食事をさせていたとでも言うの!! 信じられない!!」
空を睨みつけたのはほんの数秒で、わたしはすぐに王子殿下に向き合っていた。
身振り手振りで、スプーンはスープを飲むためのものだと伝えようとしたけれど……。
駄目でした……。
でも、それならばと、魔力でスプーンを動かしたわたしは、スープを掬って王子殿下の口元にそれを持っていく。
すると、最初に匂いを嗅いだ王子殿下は、ペロッと少しだけスープを舐めたの。
その後は、瞳を輝かせてわたしが差し出したスープを美味しそうに飲んでくれたの。
スープを飲んだ後、今度は王子殿下の体を洗うことにしたわたしは、念のため周囲に目隠しの魔術を使ってから、王子の襤褸切れの様な服を脱がせて裸にしていた。
あばらが浮いたガリガリの体が痛々しかった。
魔術で出した水を温かいお湯にしてから球状にお湯を浮かせた。
そこに魔力で浮かせた王子殿下を浸からせて……。
一瞬でお湯が黒く……。
何度かお湯を変えて、王子殿下を綺麗にした後、体を拭いて用意した下着とシャツを着せたわ。
王子殿下はというと、初めてのお湯で体を洗ったことが気持ちよかったみたいで、心地よさそうに舟をこいでいたわ。
そんな王子殿下を起こさないように、そっと魔力で王子殿下をベッドまで移動させたの。
フカフカのベッドが気持ちいいみたいで、すぐに可愛らしい寝息が聞こえて来たわ。
だけど、その翌日のことだった……。
わたしは、王子殿下を思いっきり泣かせてしまったのよ……。




