第三章③
ボロボロの小屋の側にいた小さな男の子。
その子は、ガリガリにやせ細っていた。
だけど、その子がどうしてここにたった一人でいたのかすぐに察してしまった。
傷んでぼさぼさになった髪が黒かったから。
この国では、黒い髪は不吉の証と忌み嫌われる色だから……。
でも、王宮の端に建つボロ小屋にどうしてと考えてすぐにその理由が思い浮かんだ。
国王夫妻のお子なのだろうと。
きっと今まで最低限の世話だけで放置されているのが伺えたわ。
一度も切られたことのないような長くぼさぼさの髪。
カサカサの肌。襤褸切れを纏っただけのその姿。
誰にも見られない、話すことも出来ない孤独感。
わたしはそれを良く知っている。
最初は同情だったと思う。
わたしと同じように、孤独な時間を過ごす少年。
だからだと思う。
見えなくても、話せなくても、側に居てあげたいと、そう思ったのは。
だけど、目が合ったの。
赤い、ガラス玉みたいな何も映していないような瞳と、確かに目が合ったのよ。
少年は、瞬きもせずにわたしの姿を目で追ったの。
右に、左にと。
信じられなかった。
もしかして声も聞こえるのだろうかと、少しの期待を持って、わたしは声を発していた。
「わたしが……見えるの?」
そう問いかけるけれど、少年の口が開くことはなかった。
だけど、無気力そうな瞳がわたしを捉えていたことには変わりなかったの。
「あ……ああ……ぅ……」
少年が擦れた声でそう声を上げた。
「ああ……あ……あ」
苦しかった。胸が痛かった。
どうしてこんなひどい仕打ちが出来るのかと、わたしは胸が張り裂けそうだった。
「大丈夫。わたしが側にいてあげるから……」
そう言って、わたしは少年を抱きしめようとしたが、それは叶わなかった。
いくら物が動かせるようになったとはいえ、アストラル体では直接触れることは出来なかった。
それでも、抱きしめずにはいられなかった。
そんなわたしを不思議そうに見つめる赤い瞳。
黒い髪と、赤い瞳。
何の根拠もない昔の言い伝えを信じて、こんなことをする両陛下。
誰も王子殿下を助けない王宮の家臣連中にわたしは怒りを覚えた。
だけど、こんな体のわたしでは、王子殿下を助けることなんて出来なかった。
それでも、何かしたかったの。
たとえ、自己満足だと、偽善だと言われてもよかったわ。
それからは、王子殿下の側で一日中過ごすようになっていた。
出会ってすぐに、王子殿下に必要な物も把握したわ。
まず、食事が用意されるのが数日おきに一食という有様だった。
王子殿下がここまでガリガリでボロボロな理由はすぐに分かった。だからわたしは、王子殿下の食事と衣類の調達に動こうとしたのだけれど……。
「ああ……。ぅぅう!!」
「大丈夫ですよ。すぐに戻りますからね」
「あああ!! うぅぅうう!!」
「ああ、どうしたらいいの……」
言葉が通じないし、王子殿下も言葉が話せないでいた。だけど、王子殿下の寂しいと思う気持ち。側にいて欲しいという願いはすごく伝わったのよ。
だから、触れることは出来なかったけれど、ぎゅっと小さな体を抱きしめた。
「大丈夫よ。わたしは、王子殿下のお側に居ますよ」
そう言って宥めること数時間。
いつの間にか眠ってしまった王子殿下をボロ小屋の中の寝藁の上に魔力で移動させた。
「なんてひどいの……」
トイレの仕方も教えられていないことはすぐに分かった。
部屋の中は汚物の匂いで充満していたと思う。
アストラル体になってから、そう言った感覚が無くなっていたから。だけど、汚れた小屋内を見て、これまで王子殿下がどういう扱いをされていたのか、わたしの想像よりもさらに酷いということが理解できたわ。
小さな弟がいたわたしは、弟よりも小さな王子殿下の不当な扱いに感情が爆発してしまいそうだった。
「見てなさいよ!! わたしが王子殿下をしっかり育ててみせるんだから!!」
そう決意したわたしは、王子殿下が起きる前に必要な物資の調達に動いたのよ。




