第三章①
サラン村の収穫祭での出来事は、わたしに様々な衝撃を与えたわ。
今まで、ダンたちとお酒を飲みに行くことがあった旦那様が、まさかどう……。だったなんて。
てっきり、ダンたちと一緒になって、綺麗な女性との一夜を楽しんいるとばかり……。
どんなに美しい女性を前にしても動じていないのは、そうやって大人の階段を上った結果だと思っていたのだけれど……。
もしかして旦那様は……。
いや、やめておこう。確かにわたしの見た目はようやく十五歳に見えるまでに成長できたわ。
旦那様と同じベッドで寝るのは、七年ぶりかしら。
最初は眠れるか心配だったけど、やっぱり疲れていたみたいで、お風呂を使ってからの記憶が曖昧で、気が付けば朝になっていたのよね。
隣に眠る旦那様を見ると、よほど疲れていたのか、ピクリとも動かなくて、ちょっとだけ心配になってしまったわ。
だから、ちゃんと呼吸をしているのか確かめようとして、横向きで眠る旦那様の顔を覗き込もうとして体を寄せた瞬間、旦那様がバネの様に飛び起きてとても驚いたわ。
身支度を整えたわたしと旦那様は、少しぎくしゃくしてしまいつつも、招待してくれたサラン村のみんなにお礼を言ってから公爵城へと帰っていったの。
帰城後、簡単な仕事をお互いに片づけていると、いつの間にか日も暮れてしまっていた。
あの話をするのに、夕食の席でというのは……。
そう考えたわたしは、旦那様に特に深く考えることもなく言ったのよ。
「旦那様。夜の支度が終わりましたら、旦那様の寝室に行きますがよろしいでしょか?」
長い話になるし、話し終わった後すぐに寝られるようにとそう言ったのだけれど……。
食事の給仕をしていた侍女たちが小さく黄色い悲鳴をあげたのよ。
顔を赤らめて、ひそひそと……。
どうしたのかしら。
そんなことを考えていると、旦那様が緊張したように言ったわ。
「分かった……。俺も、夜の支度をしてギネヴィアのこと待っているよ」
「はい。では後ほど」
「あ……ああ」
擦れた声でそう言う旦那様を食堂に残したわたしは、この後どこから話していいのかと悩みながら湯に浸かっていた。
その日の侍女たちは、いつもと様子が違っていた。
いつも以上に肌を磨き、髪に香油を垂らし、見たこともない夜着を着せつけられてしまったの。
デザインは可愛らしいものだったけど……ちょっと生地が薄くて寒そうな、そんな夜着はとても肌触りがよかった。
夜着の上に厚手の羽織を掛けてくれた侍女たちは、何故か瞳をキラキラとさせてわたしを旦那様の部屋まで送ってくれたの。
旦那様の部屋に入ると、緊張した様子の旦那様が紅茶を用意してくれていた。
バスローブ姿の旦那様の向かいの椅子に座って、落ち着いた照明に照らされた旦那様を見て、わたしは思った。
これから旦那様に打ち明ける内容は、きっと旦那様を傷つける。
もしかすると、この場からすぐに追い出されるかもしれない……。
それでも、わたしは全てを話す覚悟を決めて、ここにいるのだから、しっかりしなければならない。
旦那様も緊張しているみたいで、視線を泳がせながらも、チラチラとわたしを見ては手元に視線を戻すことを繰り返していたわ。
「旦那様……」
「!!」
「ふふ……。緊張……しているのですか?」
「まあ……、少しな」
「そう……、ですよね。これから話す内容は……すごく……。すごくショックをうける内容です……。でも、それでも最後まで聞いて欲しい……」
わたしがそう言うと、旦那様は深く頷いてくれた。
旦那様から勇気を貰ったわたしは、深く息を吸って、それを吐き出した後わたしという人間について話し始めたのだ。
「わたしは、フェンサー伯爵家の長女として生を受けました……。わたしが十五歳になる数週間前のことです。王太子殿下との婚約話が持ち上がったのは……」




