第一章①
わたしの名前は、ギネヴィア・ケイネス。可愛い旦那様と結婚したのが今から十年ほど前のことになるわ。
可愛い旦那様より五歳年上という設定になっている……。
結婚当初は、こんなことになるとは思ってもいなかったとだけ言わせてほしいの。
現在二十歳になる可愛い旦那様のアルトラーディは、北部の主として日々立派に政務に励んでいるわ。
うん。素敵な男性に成長したわ。
艶やかな黒髪。ルビーのような美しい瞳。形のいい眉。高い鼻梁。薄いけれど形のいい唇。
見上げるほどに高い身長と鍛えられた美しい体。
もちろん性格はとても可愛らしい、素敵な男性に育ったわ。
うん。頑張って育てたわたし、偉いわね。
頭の回転も速く、飲み込みもいい可愛い旦那様は、王籍の忌子の墓場と呼ばれていた北部を見事に立て直した。
もちろんわたしや家臣たちの協力があってこそではあるけど、アルトラーディの人々を率いる統率者としての才覚が理想を現実にしたのよ。
王籍の忌子。
それはこの国の悪い因習よ。
黒い髪。赤い瞳。それらは、不吉の象徴とされていたの。
なんでも、建国当初に国を滅ぼしかねない災いをもたらした王家筋の人物が、そういった容姿だったとかなんとか。
馬鹿馬鹿しい話よね。
だけど、悪い因習をそのまま放置した王家は、臭いものには蓋とばかりに、黒髪や赤目の子供が生まれたら、なんだかんだ理由を付けて王位継承権を剥奪して、北部にその子を送るようになったのよ。
なぜ北部かというと、王国の中で手の付けられないほど荒れた土地だと言えばなんとなく想像がつくと思うの。
作物がまともに育たない荒れた土地。冬には雪で領地が閉ざされるなんてこともある。
そんな土地をまともに統治できる貴族などいなかった。
だから、王家に生まれた忌子をその土地の領主として、追いやったのだ。
北部の主。ケイネス公爵。
長年まともな統治などされていなかった荒れ果てた領地。
代理領主が適当に管理し、忌子が生まれたら、その王家の子供が訳も分からず苦労して領地を治める。
そんなことが続けば、民も他の領地に移っていく。
名ばかりの公爵領。
だけど、可哀想で可愛い旦那様のため。
わたしは、無駄にため込んでしまった知識チートってやつで北部を発展させたわ。
長い間、孤独に過ごした対価として得た、使いどころのない知識だと思っていたけれど、そうでもなかったみたいでよかったわ。
そう、可愛い旦那様は、王家に生まれたのだけれど、持って生まれた髪と瞳の色を不吉だといわれて、北部に追いやられてしまったのよ。
わたしは、旦那様の艶やかな黒髪も、宝石のように輝く赤い瞳も素敵だと思うのだけれど。
まあ、いろいろあって、可愛い妹のような存在の子を厳しい北部にやらないため、そして、孤独だったわたしを救ってくれたアルトラーディに恩を返すため、わたしは彼の妻になり、アルトラーディを支えることにしたの。
何故、支える為に妻になったのかというと、あの狸宰相の思惑に乗せられ……、じゃなくて、乗ってやったのよ!
そう、あれは今から十年以上前のことよ。
わたしが、自由の身になって数カ月。
ちょっとだけ財政難に陥りかけていた生家のフェンサー伯爵家のためにお金儲けに明け暮れていた時だったわ。
あの、狸親父……、いえ、宰相閣下がフェンサー伯爵家を訪れたのは……。




