第一章⑪
サラン村の収穫祭は、五年前から始まった行事なの。
最初の頃は食糧確保が最優先だったのだけれど、今は収穫量にも余裕が出た為、加工して他領に売り出している物もあった。
そんなサラン村の収穫祭には毎年参加させてもらっているのよ。
今年も旦那様と一緒にと思ったところで閃いてしまったわ。
鬼も居ぬ間に作戦よ!
わたしが一人で収穫祭に出かけて、その間に旦那様が意中の女性にアプローチをする隙を与えるのよ!
そう、今までわたしと旦那様は本当に二人三脚で十年間を過ごしていたの。
だから、いつでも一緒と言うのが染みついてしまっていたわ。
こんなんじゃ、旦那様のハッピーライフが遠のいてしまう。
そうと決まれば、数人のお供を連れて収穫祭に参加しましょう。
でも、急に単独行動を口にすれば旦那様に怪しまれてしまう可能性があるわね。
何か……。何か理由を……。
「まあ、そういえばサラン村の収穫祭の時期だったわね。ああ、でも今は東部の商団との取引で重要な時期だわ。でも、毎年のお呼ばれをお断りするわけにはいかないわね。そうだわ、今回はわたしが一人で行くから、旦那様は取引の方をお願いね。そうそう、取引の合間に、羽を伸ばすのもいいと思うの」
うぅぅ……。不自然にならないように頑張ったのに、すごい棒読みと早口になってしまったわ……。
まずいわ……。旦那様が首を傾げているし、ダンなんて笑いを堪えている表情になってる。
何か、言い訳を。追加の言い訳を!
「ほ、ほら! たまにはわたしから離れて羽を伸ばしたいでしょ?」
慌ててわたしがそう言うと、旦那様の表情が曇ってしまったの。
「もしかして……。ギネヴィアは俺と出かけたくないの?」
「ちっ違うわ!」
「なら問題ないね。商談との取引は数日で終わらせるから問題ないよ。それに、俺はいつだってギネヴィアと一緒に居たいよ」
「そ……そうなのね……」
あああ、失敗したわ。可愛い旦那様にそう言われたら断れるわけがないのよ……。
でもわたしは諦めないわよ。
全力で旦那様の恋路を応援するんだから!!
それから、数日で旦那様の言ったとおりに東部の商団との取引が終わっていたのよ。
お互いの条件だとかで揉めそうだと思ったのに、流石は旦那様。
こちらに有利な条件ではあるけど、東部の商団側にも理がある様な契約が結ばれているわ。
これなら、わたしが居なくても北部は大丈夫ね……。
それでも、離婚が決まるその日まで全力で旦那様をお支えしないと。
そうじゃないと、申し訳が立たないわ。
旦那様が辛い思いをしたのは全部わたしの所為で、それなのにわたしはそんな旦那様に救ってもらった……。
だから、どんなことがあってもわたしは旦那様の幸せのために全力でなきゃいけないのよ。
そうじゃないと……。許されないのよ……。
わたしは、十分過ぎるほど旦那様から幸せにしていただいたから。




