第4話 関所の鷹
肩を射抜かれながら関所を突破!
次回──王都目前の街道で、ガルド司祭が単身で待ち構える。
「神の目」に映る俺は、もう逃げられないのか?
第5話「銀仮面の追跡者」乞うご期待!
エリドンを抜けて三日目。
俺は街道を外れ、森の獣道を進んでいた。
手にしているのは、奪った神託の書原本。
偽造の痕跡は明白。
これを王都に届ければ、少なくとも「悪魔」の烙印は剥がせる。
だが、街道は封鎖されている。
教会の布告が出た。
──「黒崎零を目撃した者は即座に通報せよ。生け捕りは不要」
殺してもいい、と。
王都へ行くには、北の関所を突破するしかない。
そこは王国最大の難所。
城壁のような門と、鷹の群れを使った監視網。
空を飛ぶ者を即座に発見する。
──だからこそ、俺は鷹の目を借りる。
森の端、関所が見える丘に伏せる。
空には十数羽の監視鷹が旋回している。
どれも教会の魔法で繋がれた、生きた監視カメラだ。
1回目。
対象:一番高く飛ぶ老鷹。
視界が開ける。
高度200メートル。
関所全体が手のひらに乗ったように見える。
門の兵士配置、荷馬車の列、
そして──関所長の私室。
机の上に、俺の似顔絵と、
「教会直轄の賞金首・死体確認で500金貨」という紙。
生け捕りは不要、の意味がわかった。
死体でいいらしい。
2回目。
対象:関所長の肩に止まる若い鷹。
今度は室内。
関所長は、銀の仮面の男──ガルド司祭と手紙をやり取りしている。
手紙の内容。
『転生者のスキルは「神の目」の盲点を突く。
生け捕りし、王都へ護送せよ。
──大司教』
……やっぱり、俺のスキルが狙いだった。
神の目と呼ばれる監視網を、俺は無効化できる。
だから抹殺ではなく、捕らえて研究したいらしい。
ガルドはまだエリドンにいる。
だが、時間の問題だ。
関所の門が閉まるのは日没後。
それまでに抜ける。
3回目。
対象:荷馬車を待つ商人。
商人の視界。
彼は関所長に賄賂を渡し、
荷台の隠しスペースを確保している。
──密輸用の空洞。
大きさは、人が一人ギリギリ入れる。
完璧だ。
俺は丘を下り、商人列の最後尾に紛れる。
ぼろ布を頭から被り、足を引きずるふり。
前世の変装技術が、ここでも役に立つ。
順番が回ってくる。
商人「次の荷馬車は?」
衛兵「中身は?」
商人「薬草と布だ。いつもの通り」
衛兵が荷台を槍で突く。
──俺のすぐ横を槍が通る。
息を殺す。
心臓がうるさい。
「よし、通れ」
門が開く。
荷馬車が動き出す。
俺は隠しスペースで体を丸め、
関所をくぐった。
──突破。
だが、
門の外に出た瞬間。
空から、鷹の群れが急降下してきた。
数十羽が一斉に。
まるで俺の位置を正確に知っているかのように。
商人「なんだ!?」
衛兵「転生者だ! 囲め!」
──バレた。
俺は荷台から飛び降り、走る。
街道を外れ、森へ。
背後から矢が飛ぶ。
一本が肩をかすめ、血が噴き出す。
スキルは使い切った。
今日はもう借りられない。
森の奥へ、奥へ。
追手の足音が近づく。
鷹が頭上を旋回。
逃げ場はない。
──と思われた、その時。
森の奥から、低い唸り声。
巨大な影。
森の王・シルバーベア。
体長4メートル。
教会の鷹すら避ける魔獣。
追手の衛兵が凍りつく。
「ま、魔獣だ! 退け!」
俺はベアの横をすり抜け、
さらに奥へ走る。
追手は魔獣に阻まれ、追跡を断念。
鷹の群れも、ベアを恐れて高度を取る。
──逃げ切った。
森の奥、倒木に座り、肩の傷を布で縛る。
血は止まらないが、致命傷ではない。
神託の書原本は無事。
王都までは、あと三日の距離。
空を見上げる。
鷹はまだ旋回している。
遠くに、銀の仮面の影が見えた気がした。
「……ガルド」
奴は、もう俺を“獲物”として見ている。
俺は立ち上がる。
傷口が熱い。
でも、歩ける。
「お前の目だけじゃない。
この世界の全ての目を借りてでも──
俺は、王都に辿り着く」
──関所を突破した冤罪の逃亡者。
次に待つのは、王都の門と、大司教の罠。
(第4話 終)




