第3話 教会の裏口
夜明け前。
エリドンの空は、まだ鉛色だった。
地下室の埃を払い、俺は再び動く。
頭痛は完全に引いた。
スキル【目を借りる】──1日3回のチャージ完了。
今日の目標は一つ。
神託の書の原本を奪う。
教会の裏手は、昨夜よりも警備が厚い。
衛兵が二重の輪を作り、松明が揺れている。
正面突破は不可能。
──裏口を探す。
1回目。
対象:教会の屋根を這う黒猫。
猫の視界は鋭い。
夜でも輪郭が浮かぶ。
教会の裏壁に、給水用の小さな鉄扉。
鍵はかかっていない。
──そこだ。
俺は廃墟の影を縫い、鉄扉へ。
錆びた蝶番が軋む。
中は、地下倉庫。
酒樽と古い聖典の匂い。
階段を上がれば、教会の本堂裏。
静かに進む。
足音を殺し、息を整える。
前世の潜入経験が、ここで生きる。
だが、異世界の敵は剣と魔法。
油断は死。
階段の上で、声がした。
「副官殿、昨夜の小鳥は……?」
「気のせいだ。だが、念のため警備を増やした」
──副官と衛兵長。
声の方向は、原本の置かれた部屋。
まだ時間がある。
2回目。
対象:副官の懐にいる小鳥(昨夜と同じ?)。
小鳥は副官の肩に止まっている。
視界が副官のすぐ横。
部屋の机に、神託の書。
隣には、王家の紋章の封蝋。
そして──もう一枚の紙。
「転生者のスキルは危険。捕縛か抹殺を」
署名は、王都の大司教。
黒幕の名前が出た。
だが、小鳥が首を傾げる。
副官が気づき、手を伸ばす。
「またか!」
小鳥が飛び立つ。
視界が切れる。
──ヤバい。
衛兵が部屋から飛び出してきた。
「誰だ! 裏口に気配が!」
松明が階段を照らす。
逃げ道は一つ。
──上へ。
俺は階段を駆け上がる。
本堂の裏。
祭壇の陰に隠れる。
衛兵が地下へ向かう。
チャンスだ。
3回目。
対象:祭壇の聖騎士像の目(宝石)。
宝石の視界は、部屋全体。
副官が机に戻る。
原本を懐にしまう。
──奪うなら、今。
俺は祭壇の陰から飛び出す。
副官の背後。
懐に手を伸ばす。
原本を──掴んだ。
だが。
「──動くな」
冷たい声。
振り返ると、ガルド司祭。
松明の光に、銀の仮面。
手には、魔法の鎖。
「悪魔の転生者。
神託の書を盗むとは、いい度胸だ」
鎖が飛ぶ。
俺は身を翻す。
だが、遅い。
鎖が足首を絡め、引き倒される。
頭が床に打ちつけられる。
視界が揺れる。
スキルは使い切った。
──終わりか。
ガルドが近づく。
「お前のスキルは、確かに厄介だ。
だが、神の目からは逃れられん」
その瞬間。
──カツン。
小さな音。
祭壇の陰から、石が転がる。
ガルドが振り返る。
「誰だ!」
隙。
俺は鎖を引きちぎる。
──前世の技。
魔法の鎖でも、結び目は物理。
足首を捻り、抜ける。
原本を握りしめ、窓へ。
ガルドが叫ぶ。
「追え!」
窓から飛び降りる。
2階の高さ。
着地に失敗し、肩を打つ。
痛みで視界が白くなる。
だが、走る。
路地へ。
廃墟へ。
追手の足音が迫る。
──逃げ切れ。
廃墟の地下室へ。
扉を閉め、息を殺す。
追手が通り過ぎる。
「見失った……!」
声が遠ざかる。
──生き延びた。
原本を開く。
偽造の痕跡。
王家の封蝋。
大司教の署名。
──これで、冤罪は証明できる。
だが、
ガルド司祭の言葉が耳に残る。
「神の目からは逃れられん」
──神の目。
スキル【目を借りる】は、
本当に「神の監視」を突破できるのか?
頭痛が、再び始まる。
明日には、また3回。
次は、王都へ。
「お前の目、借り続けさせてもらう。
真実まで、逃げ切るために」
──教会の追跡は、全土へ広がる。
零の手には、偽造の証拠。
次の標的は、王都の大司教。
(第3話 終)
【文字数】約1,600文字
【タグ】#異世界転生 #逃亡 #頭脳戦 #スキル借りる #追われる系 #冤罪 #教会潜入 #第3話
【次回予告】
「王都への逃亡ルートを確保せよ! 零は賞金稼ぎの目を借りて、街道の関所を突破するが……ガルド司祭の“神の目”が迫る!」




