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異世界逃亡  作者: nekorovin2501


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第3話 教会の裏口

夜明け前。

 エリドンの空は、まだ鉛色だった。

 地下室の埃を払い、俺は再び動く。

 頭痛は完全に引いた。

 スキル【目を借りる】──1日3回のチャージ完了。

 今日の目標は一つ。

 神託の書の原本を奪う。

 教会の裏手は、昨夜よりも警備が厚い。

 衛兵が二重の輪を作り、松明が揺れている。

 正面突破は不可能。

 ──裏口を探す。

 1回目。

 対象:教会の屋根を這う黒猫。

 猫の視界は鋭い。

 夜でも輪郭が浮かぶ。

 教会の裏壁に、給水用の小さな鉄扉。

 鍵はかかっていない。

 ──そこだ。

 俺は廃墟の影を縫い、鉄扉へ。

 錆びた蝶番が軋む。

 中は、地下倉庫。

 酒樽と古い聖典の匂い。

 階段を上がれば、教会の本堂裏。

 静かに進む。

 足音を殺し、息を整える。

 前世の潜入経験が、ここで生きる。

 だが、異世界の敵は剣と魔法。

 油断は死。

 階段の上で、声がした。

「副官殿、昨夜の小鳥は……?」

「気のせいだ。だが、念のため警備を増やした」

 ──副官と衛兵長。

 声の方向は、原本の置かれた部屋。

 まだ時間がある。

 2回目。

 対象:副官の懐にいる小鳥(昨夜と同じ?)。

 小鳥は副官の肩に止まっている。

 視界が副官のすぐ横。

 部屋の机に、神託の書。

 隣には、王家の紋章の封蝋。

 そして──もう一枚の紙。

 「転生者のスキルは危険。捕縛か抹殺を」

 署名は、王都の大司教。

 黒幕の名前が出た。

 だが、小鳥が首を傾げる。

 副官が気づき、手を伸ばす。

 「またか!」

 小鳥が飛び立つ。

 視界が切れる。

 ──ヤバい。

 衛兵が部屋から飛び出してきた。

「誰だ! 裏口に気配が!」

 松明が階段を照らす。

 逃げ道は一つ。

 ──上へ。

 俺は階段を駆け上がる。

 本堂の裏。

 祭壇の陰に隠れる。

 衛兵が地下へ向かう。

 チャンスだ。

 3回目。

 対象:祭壇の聖騎士像の目(宝石)。

 宝石の視界は、部屋全体。

 副官が机に戻る。

 原本を懐にしまう。

 ──奪うなら、今。

 俺は祭壇の陰から飛び出す。

 副官の背後。

 懐に手を伸ばす。

 原本を──掴んだ。

 だが。

「──動くな」

 冷たい声。

 振り返ると、ガルド司祭。

 松明の光に、銀の仮面。

 手には、魔法の鎖。

「悪魔の転生者。

 神託の書を盗むとは、いい度胸だ」

 鎖が飛ぶ。

 俺は身を翻す。

 だが、遅い。

 鎖が足首を絡め、引き倒される。

 頭が床に打ちつけられる。

 視界が揺れる。

 スキルは使い切った。

 ──終わりか。

 ガルドが近づく。

 「お前のスキルは、確かに厄介だ。

  だが、神の目からは逃れられん」

 その瞬間。

 ──カツン。

 小さな音。

 祭壇の陰から、石が転がる。

 ガルドが振り返る。

 「誰だ!」

 隙。

 俺は鎖を引きちぎる。

 ──前世の技。

 魔法の鎖でも、結び目は物理。

 足首を捻り、抜ける。

 原本を握りしめ、窓へ。

 ガルドが叫ぶ。

 「追え!」

 窓から飛び降りる。

 2階の高さ。

 着地に失敗し、肩を打つ。

 痛みで視界が白くなる。

 だが、走る。

 路地へ。

 廃墟へ。

 追手の足音が迫る。

 ──逃げ切れ。

 廃墟の地下室へ。

 扉を閉め、息を殺す。

 追手が通り過ぎる。

 「見失った……!」

 声が遠ざかる。

 ──生き延びた。

 原本を開く。

 偽造の痕跡。

 王家の封蝋。

 大司教の署名。

 ──これで、冤罪は証明できる。

 だが、

 ガルド司祭の言葉が耳に残る。

 「神の目からは逃れられん」

 ──神の目。

 スキル【目を借りる】は、

 本当に「神の監視」を突破できるのか?

 頭痛が、再び始まる。

 明日には、また3回。

 次は、王都へ。

「お前の目、借り続けさせてもらう。

 真実まで、逃げ切るために」

 ──教会の追跡は、全土へ広がる。

 零の手には、偽造の証拠。

 次の標的は、王都の大司教。

(第3話 終)


【文字数】約1,600文字

【タグ】#異世界転生 #逃亡 #頭脳戦 #スキル借りる #追われる系 #冤罪 #教会潜入 #第3話

【次回予告】

「王都への逃亡ルートを確保せよ! 零は賞金稼ぎの目を借りて、街道の関所を突破するが……ガルド司祭の“神の目”が迫る!」

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