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異世界逃亡  作者: nekorovin2501


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【第1部 街の鼠編】第2話 偽造の影


 荷馬車の揺れが止まったのは、日が暮れた頃だった。

 街の外れ、廃墟のような倉庫街。

 俺は布の下から這い出し、周囲を確認する。

 誰もいない。

 頭痛はまだ残っているが、明日の朝には回復するはずだ。

 スキル【目を借りる】の制限──1日3回。

 慎重に使わなければ。

 街の名は「エリドン」。

 王国の中堅都市で、教会の影響力が強い。

 神託の書が偽造されたのは、ここだ。

 副官の視界から見た「王都からの密書」。

 黒幕は王都にいるが、証拠はエリドンに残っているはず。

 ──まずは、潜伏先を探す。

 路地を進む。

 空腹と疲労が体を蝕むが、無視する。

 前世のハッカー生活で、徹夜は日常茶飯事だった。

 ここは異世界。

 剣と魔法のルールだが、情報は変わらない。

 視界を借りれば、道は開ける。

 路地の隅に、ネズミの群れ。

 ──1回目。

 対象:群れのリーダーらしきネズミ。

 視界が重なる。

 ネズミの視点は低い。

 地面の隙間、下水道の網目、

 そして──廃墟の地下室への隠し通路。

 俺はそこへ向かう。

 通路は狭く、埃っぽい。

 中は古い倉庫の残骸。

 ここを拠点にしよう。

 ネズミの視界で、食料のありかを探る──古いパンと果物。

 十分だ。

 夜が深まる。

 外の喧騒が聞こえる。

 審問官の声だ。

 「悪魔の転生者、黒崎零! 街中を捜索せよ!」

 衛兵が家々を叩く音。

 賞金首の張り紙が貼られているらしい。

 ──奴らの動きを把握する。

 2回目。

 対象:屋根の上を飛ぶカラス。

 空からの視点。

 街全体が見渡せる。

 教会の広場に、審問官のリーダー──ガルド司祭が立っている。

 彼の周りには、10人ほどの衛兵。

 そして──副官が、教会の裏手へ向かう。

 副官の行動が怪しい。

 神託の書の偽造現場は、そこか?

 俺は地下室から抜け出し、影を縫って教会へ近づく。

 教会の裏は、厳重な警備。

 直接入るのは無理。

 ──3回目。

 対象:教会の壁に止まる小鳥。

 小鳥の視界。

 教会の窓から、中が見える。

 副官が部屋に入り、机の引き出しを開ける。

 そこに──神託の書の原本。

 インクの瓶と、偽造用の道具。

 そして、密書の封蝋──王家の紋章。

 証拠だ。

 王都の誰かが、教会を操っている。

 神託を偽造して、俺を悪魔に仕立て上げた理由は?

 ──おそらく、俺のスキル。

 【目を借りる】は、監視を突破する脅威。

 だが、視界が切れる直前。

 副官が窓の外を見て、

 「誰だ!」と叫ぶ。

 ──小鳥の存在に気づいた?

 俺は慌てて影に隠れる。

 頭痛が激しくなる。

 使い切った。

 衛兵の足音が近づく。

 教会の裏路地に、追手が迫る。

 ──逃げろ。

 ネズミの通路を逆走。

 廃墟の地下へ戻る。

 息を殺して待つ。

 衛兵が通り過ぎる。

 「見失ったか……」

 奴らの声が遠ざかる。

 ──今夜はこれで終わり。

 だが、証拠の場所はわかった。

 次は、原本を盗む。

 冤罪を証明するために。

 地下室で目を閉じる。

 頭痛が俺を眠らせる。

 夢の中で、前世の追手が笑う。

 「逃げても、無駄だ」

 いや。

 俺は違う。

 ここでは、目を借りられる。

「お前の影、ちょっと借りる。

 真実を、暴くために」

 ──審問官の追跡は、激しさを増す。

 零の次の標的は、神託の書。

(第2話 終)

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