~冤罪のハッカーは目を借りて真実を追う~【第1部 街の鼠編】第1話 冤罪の目撃者
──俺は、殺していない。
国家機密をハックしたのは事実。
だが**「漏洩」**はしていない。
真犯人は、政府の闇。
俺はスケープゴート。
追跡ヘリのサーチライトが、最後に見た光景だった。
次に目覚めたのは、異世界の牢獄。
「悪魔の転生者、黒崎零! 神託により、火炙りの刑!」
教会の審問官が叫ぶ。
周囲は剣と魔法。
首には「鑑定済み」の札。
──スキル【目を借りる(Eye Borrow)】
──1日3回、対象の視界を1秒間だけ借りられる。
──代償:頭痛。
牢の外、群衆が石を投げる。
「悪魔め!」「神の敵!」
でも、俺は知っている。
神託は偽物だ。
誰かが「俺を悪魔」と仕立て上げた。
「動くな」
衛兵が牢を開ける。
鎖が外れ、俺は引きずり出された。
その瞬間、最初の1回。
──対象:牢の隅にいたネズミ。
視界が重なる。
ネズミの低い視点。
牢の床に、小さな排水溝。
俺は走った。
衛兵が叫ぶ前に、排水溝に飛び込む。
狭い。臭い。
でも、ネズミの視界が道を示す。
排水溝の先は、市場の裏路。
そこからさらに──
2回目。
対象:屋根のカラス。
空からの視点。
教会の広場に、審問官のリーダーが立っている。
彼の手には、「神託の書」。
──インクが新しく、文字が揺れている。
偽造の証拠。
3回目。
対象:審問官の副官。
副官の視界。
彼が見ているのは、懐に隠した金貨と、
「王都からの密書」。
──**「悪魔の転生者をでっち上げろ」**。
俺は笑った。
冤罪の黒幕は、王都にいる。
市場の荷馬車の下に滑り込み、
布をかぶって息を殺す。
審問官の怒声が遠ざかる。
荷馬車が動き出す。
──逃げ切った。
でも、これは始まりだ。
頭がズキズキ痛む。
1日3回の制限。
使い切った。
でも、
視界は、借りられる。
次は誰の目を借りようか。
審問官の、
王都の、
あるいは──神託を偽造した黒幕の。
「お前の目、ちょっと借りる。
冤罪を、証明するために」
──こうして、
**「冤罪の逃亡者」**の戦いが始まった。
(第1話 終)




