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第4話 利用規約に同意しました

「さぁ救世主(メサイア)。覚悟は出来たかい?」


「……あぁ」


 ファトゥムからの呼び声に、低い声でオトギは応えた。爽やかであるが、どこか闇を抱えたような暗い声、なんてよく分からないイメージを完璧にやり遂げる。

 これもまたキャラ崩壊を防ぐ為、若干喉がきつい程度では、彼のロールプレイは止められない。


 そもそも彼の見た目は今や主人公と瓜二つであった。

 鮮やかで少し長めの黒い髪。細身で長身、それでいてガリガリの印象はなく筋肉質。鋭い目付きをもっても損なわれない、絵画のような整った顔立ち。現実の冴えない彼は完全に消え失せ、いわゆる世間的に見ても、イケメンと言って差し支えなくなっていた。


 つい先程までは、そんな風貌を持ってしても庇いきれない"全裸"という変質者まっしぐらコーデではあったのだが、それ見越したファトゥムからきちんとゲーム内の初期衣装、装飾のない黒い軍服らしき物が支給され、カッコ良さはとめどなく発揮されている。

 トイレの時にものすごい時間がかかりそうなことを除けば、彼からの評価も高い。


 そして、見た目だけではなく声帯も全くの同じになっている。具体名は出さないが、声優が演じる声そのものであり、つまりはどこからどう見ても主人公本人、無理に意識なんかしなくとも、発する素の声がロールプレイみたいなものなのだが……当の本人は、そんなんじゃ愛が足りない、と納得できないようだった。



「ふふっ、素晴らしい聞き分けの良さだね」


「勘違いするな、世界なんかどうでもいい……俺は俺の記憶を取り戻すだけだ」


 ファトゥムからの神経を逆撫でするような発言に、オトギは冷めた態度を貫き通す。声だけの存在、怪しき契約、そのどちらもが主人公にとって信じ難い話なので無理はない。

 なお現実。彼の中ではそんな毒気は一切なく、実際にこんなカッコイイセリフを誰かに言えるなんて!? 生きてきて良かったぁ! と心を躍らせているなんて、誰が分かるだろうか。


「そうか、僕はそれでも構わないよ……ではそろそろ始めようか」


 ファトゥムのその言葉を合図にし、オトギの目の前、先程から何も変わりない青い空間は突如として眩い光を放ち始めた。

 一体なんだこれは……と、オトギは白々しく驚きの演技をしながら呟くものの、想定以上に眩きを増していく光に圧倒され、手で遮りつつも目を瞑った。


 やがて少しの時間が流れた。光が収まっていき、目を開けると先程から変わった点が2つ。

 彼の右手にはバランスの悪い十字架のような、いかにも王道ファンタジー感溢れる剣が握られており、目の前には世界には引けを取らない青い扉と、それに巻き付く鎖が浮かんでいた。


「さぁ物語の始まりだ救世主(メサイア)。まずは君自身の手で……絡みつく死の運命を断ち切って見せろ!!!」


 打って変わったファトゥムの勇ましい声を皮切りに、オトギは抑えきれずニヤリと笑うと、剣を強く握りしめ、目の前の鎖を思いっきり、持てる力の全てを乗せて斬りつけた。

 その瞬間、鎖はバラバラに砕け落ち、扉が勢いよく開くと、奥に存在するブラックホールのような渦巻く何かが、空間を、オトギを纏めて吸い込んでいく。


「目を覚ましたら、まずは森の中心部にある、とある里へ向かうといい。そこに回収すべき最初の力がいる。念の為、方向を示しといてあげよう」


 ご丁寧な目的説明の末、ファトゥムの声は途端に聞こえなくなった。


 ――あぁ、本当に始まるんだな。


 彼は今までの劇的な流れを思い返していた。サービス終了のお知らせに心を刺され、大型トラックとの接触事故で命を失い、そんでもって、流れるように異世界転生したかと思えば、フォーチュン・アルカディアの世界だった……なんてご都合的なんだ。あまりにも整備されすぎている道、嫌いな人はとことん嫌いで、彼もまた好みではないけれど――


「こんな機会……楽しまなきゃ損すぎるだろって!」


 既に転生してしまったのなら、仕方がない。だったらとことん楽しんでやろうと、彼はこれから待ち受ける物語に期待を寄せる。


 無論、楽しい感情が湧くような物語だけではない。

 辛い真実、過去、出会いなんてのはザラにあり、苦痛に苛まれる展開だってある訳だが、それを乗り越えるのが"主人公"の役目でもある。


「さて……これからまた楽しませてもらうとしよう!! 2度目の……フォーチュン・アルカディアを!!」


 そう意気込みながら、暗転していく扉の奥へと消えていく。

 そんな彼は知らなかった。この世界は――




 ゲームとは違う(・・・・・・・)ということを。







Tips【ロールプレイ】

キャラクターに成りきって役割を演じることを指す。

以前、オトギもSNSのなりきりチャットでもやってみようかなと思ったが、ギリ理性が勝った。

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