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第3話 主人公――全う

 世界の正体に確信をした直後、オトギは自分の愚かさにようやく気がつくことになった。

 きちんと辺りを見渡せば、この青い空間は決して見覚えがない場所なんかではなく、プロローグで訪れる始まりの場所。

 記憶を失っている主人公(プレイヤー)が、謎の存在『ファトゥム』と出会いを果たす場所であり、即ち、「フォーチュン・アルカディア」の物語が始まった、まさに原点とも言える尊き場所であることに。


 どうして気がつかなかったのか、と、自分をぶん殴りたい気持ちもある反面、少しばかり言い分を聞いてほしい、と心の中で誰に聞かせる訳でもない言い訳を長々と並べ始める。


 実際にプレイした携帯の画面、何度も見返した動画サイトの投稿……それらでは、この空間は真っ青だったはずだ。青というより藍色に近い感じで薄暗く、少なくとも水色寄りでは絶対なかった、なので気づけなかったのは仕方なく、自分の非ではないと言った感じで、恥ずかしげもなくきっぱりと断言していた。


「――これが今の君だよ」


 話を戻して今現在、ファトゥムから語られるプロローグは何事もなく進んでいっている。オトギはその見えない存在からの一言一言を有難く噛み締め、ニヤケ面を晒さないように必死に耐えていた。

 何度も見たし、何度も聞いた話で、内容も完璧に記憶するほどループした事もあるが、生で見るとまた違った感じがしてくるのは何故だろう。しかも機械を通した音ではなく、完全な生ボイスときたもんだから彼の興奮は収まらない。


 肝心の内容はというと、そこはゲームと変わりなく。端的に言えば、力を貸してくれ、って感じだ。


 この世界、名を『アメンダロド』と呼ぶ。たった一柱の神の力によって生み出され、そして人間達の均衡を保ってきた歴史を持つ、あまりにもワンオペ上等な世界。


 そんな世界に今、危機が迫っている。

 長きに渡り力を酷使し続けた影響か、それとも神様であれど、流石にワンオペはきついのか、神は壊れ、力を失った。


 その結果、神の力は断片として様々な歴史、時間軸へと散っていき、各々が自由に成長を遂げ、やがて悪神となって人に取り憑き始めた。このまま放っておけば、世界の均衡が崩れ、崩壊するのも時間の問題。

 なのでその力を回収し、神を復活させる手伝いをしてほしい、というのが、ここまでファトゥムが喋ってきた全ての内容だ。


 酷く簡単な説明ではあるけれど、まあほとんど間違ってはいない。実際のゲームでは主人公の暗めな独白であったり、滅びゆく国の中、逃げる人々と悲痛な叫び声が行き交う映像を見せられたりと、こんな軽く語れるような雰囲気でもないけども。


 なお、断ればそのままバッドエンド行きだ。

 主人公はこの時点で命を落としており、ファトゥムから持ちかけられた契約は、このままだったら死ぬけど? 自分が何者か知らなくていいの? みたいな半ば脅迫に近い形で行われている。

 その後の展開として、何を言っても無駄だな、と心の中で毒を吐き、渋々ながら主人公はファトゥムと契約を結ぶ。そうして蘇り、物語は様々な謎を秘めながら開幕する訳だ。


 もちろんこんな序盤でフラグを折る訳にもいかず、かつてゲームで見た行動に習い、ここまで一言一句違わずにオトギは主人公を真似てきた。

 最大の謎である主人公の正体――自身が壊れてしまった神の母体だということも、そしてそれに接近してきたファトゥムの目的――自分で苦労することなく力を回収させ、後に奪い去り、独占を目論む悪神の1人だということも、ここから巻き起こる重厚で濃密なストーリーの数々も、その全てを知りつつも彼は微動だにせず。これからの全てを受けいれ、あるひとつの決心に燃えていた。それは――


「主人公を全うする」


 時に……もしRPG世界の主人公に転生をしたら、常人であれば何をするだろうか? 後の展開を知っているという最強のアドバンテージを持ち出し、俺TUEEEE的な無双するのか、それともメインストーリーをほっぽり出して、ゲーム内にいるであろう推しとイチャイチャラブストーリーを目指すのか。


 そのどちらもの欲望が、彼の中でまるっきり0という訳ではない。だが――


「俺は絶対に許さない――」


 入れたもの全てを噛み潰すかのように言い切り、オトギの瞳に炎が宿る。


「ちゃんとしたエンディングを見るまでは……都合のいいオリジナル展開なんて……俺は絶対に許さない!!」


 悲しきかな、厄介オタクのサガ。

 どんなにお金を積まれても経験することの出来ない貴重な体験をドブに捨てる。なんとバカな事か、と彼は自分の事ながら思う。


 それでも考えは変わらない。1度観た映画をもう一度映画館で見たくなるのと同じで、彼の中では原作こそ至高であり、故に曲げることは絶対に望まない。

 いくらストーリーの9割を確認していようと、最後の最後のエピローグ、生前見ることが出来なかった、それだけの為に、彼は自分の意思を捨てる。


 この世界で「物語の結末」を見届けるまでは、俺が代わりの主人公になってやる、と、オトギは心に誓うのだった。






 Tips【厄介オタクのサガ】

 例 実装が決定したキャラの誕生花をすぐ調べたり、世に怪文書を放出したりすること。どちらも紛うことなきオトギの事である。

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