第17話 予定調和の予定外
時間はしばらく経過した。
オトギは襲い来る獣を相手にしつつ、溜まっていく記憶の欠片から醸し出されるガチャの誘惑を我慢して、ただひたすらに突き進む。ユディとの間に生じてしまった壁も、渾身の説得で納得? してもらった。時折突き刺さる鋭い視線は、彼が思い描いていたクールな主人公像に向けられるものではないと感じているが、もはや仕方ないと、彼は涙ながらに割り切った。
そうして歩き続けた末、ついに第1章物語の目的地である里「インペリアル」に無事辿り着いた。
本来であれば、開始からスキップなしでも10分程度で見れるイベントシーンの場所。だが現実は甘くなく、時刻は夜寸前に差し掛かり、歩いてきた森の広さは桁違いだった。ゲーム画面で見ていた歩んできた地図を1とするなら、今体感しているのは10分の1スケールどころか100分の1ではないかと思えるほどだ。汗は乾いてまた滲み、足は棒切れ同然に重く、喉は砂漠のように干からびている。
そして到着した安堵に浸る間もなく――
「は、離してくださいっ!!」
「黙れっ!! 怪しい奴らめ、一体何が目的だっ!!」
突如、門前で取り押さえられ、木製の枷を首にかけられると、そのまま広場らしき場所に連行されてしまった。木材で作られた粗雑な造りとはいえ、顔も腕もがっちりと固定され、自由などまるでない。
武器も奪われ、完全にピンチな状況。そんな中でもユディは必死に抵抗し、何とか訳を話そうと試みるものの、兵士たちは一切耳を貸さず。
その光景を見た周囲の村人たちは、距離をとって輪を作り、ざわめきが渦のように広がっていく。視線には好奇と警戒が混ざり、子どもの泣き声すらどこかに混じっていた。
「見たこともねぇ格好だぞ!」
「魔物の手先かもしれん!」
「間違いねえ、こいつらが原因だぁ!」
罵声が容赦なく浴びせられ、ユディの顔はますます青ざめていく。
無理もない話だ。彼らとオトギらでは見た目に差異がありすぎる。向こうは獣の皮をそのまま纏いました、みたいな土臭い格好なのに対し、こちらは真っ黒な軍服と露出多めなサイバースキン。目立つどころの話ではない、怪しい以外の何物でもなく、彼らからすれば、そりゃ当然捕えるべき存在である。
――まあこれも想定のうちだけど。
オトギは枷に固定されながらも、大して焦りはしていなかった。誤解を受けて捕らえられる――これは一切の狂いもなく、メインストーリーそのままの流れだったからだ。むしろ「この展開は知ってる」と、改悪されていないことに、妙な安心すらしている。
一方、ユディがそんなことを知る訳もなく、
「ど、どうしましょう……っ、このままじゃ」
「大丈夫だ、ここはまだ大丈夫だから、絶対手を出さないでくれ」
「な、何を言って……!」
枷をガタガタ揺さぶりながら青ざめるユディ、対照にやけに冷静に宥めるオトギ。その温度差は兵士たちの疑いをさらに深めたのか、「妙な術を使う気だな!」と怒鳴られ、さらに手荒に押さえつけられてしまっていた。
――しかし……
ただ、オトギにも一つだけ気がかりなことがある。
本来ならこの先で現れるのは、若き里長シプリンだ。あの傲慢でツンと澄ました態度からは想像もつかないが、この場面では意外にも冷静な判断を見せ、多少は庇いの手を入れてくれる。
そして彼女は「自分には力がないから、代わりに里のトラブルを調べて欲しい」と口にするくだりがあり、まだ登場していないプレイアブルキャラクターと共に、解決を目指して動くのだが……先の戦いを思い返せば、力がないなんて口が裂けても言えそうにない。
そもそも彼女は今こちらの青き世界の中にいる。ユディが見えなかった事を考えるに、他の人たちもおそらく、こちらのガチャ産シプリンの姿を捉えることは出来ず、黒いモヤに見えるのだろう。それはきっとご都合主義と言ってしまえば簡単な話で、仮に同キャラ同士の対決が始まっても、何も問題ないようになっているのだろう。オトギ目線からすれば、非常盛り下がり、ガチャ産シプリンからはどう見えるのかは謎ではあるが。
しかしそれだけでは、彼女が脳筋アタッカーに改変された理由がつかない。ゲーム通りでいけば、ガチャのシプリンもストーリーのシプリンも同一人物なのだ。それが1章クリア後なのか前なのか、というのは一旦置いておくとして、何らかの改変で彼女に「力を持つきっかけ」が与えられていたとしたら、この後のストーリー展開にも余裕で影響が出てくるのではないか? それだけが不安の種だった。
「里長をお連れした!!」
そうこう考えているうちに、兵士の一人が駆け去ってから、気づけばその場に戻ってきていた。広場のざわめきは高まっていい、海を割るモーセのように人々がどんどんと横にはけていく。
オトギは静かに息を呑んだ。
来る……ここで現れるのは、シプリンのはず――
しかし見上げた先に現れたのは、想像していたのとは全くの別人だった。
陽に焼けた腕、獣骨の首飾り、肩に無造作に掛けられた分厚い毛皮。山の王を思わせる荒々しい雰囲気を漂わせる中年の男。身長も主人公と比べられないほど高く、無精髭が顎を覆い、眼光はぎらりと鋭く、胸板は岩のように厚い。腕には鉄の輪がいくつもはまり、歩くたびにカランと鈍い音を立てる。
「おうおう、どこで騒いでると聞けば――これか! ガハハ!! とんだ珍客じゃのう!!」
低く響く豪快な笑い声が広場に散り、兵士達ですら思わずたじろいだように見える。
男はズカズカと近づき、枷を上から覗き込むと、野生の獣じみた匂いが、オトギ達の鼻を掠めた。
彼はそんな光景を信じられず、理解が追いつかないまま思わず声を上げた。
「…………性転換?!」
ユディも兵士も意味が分からず首を傾げる中、ただ一人オトギだけが、あり得ない現実に唖然としながら固まっているのだった。
Trps【シプリン②】
『1凸効果』 自身の攻撃で敵を倒す度、元の攻撃力が10%上昇、最大5回まで。




