第15話 スケベよりステータス
遠い……遠すぎないか、とオトギは不平不満を心の中で漏らす。
里までの道のりは思った数倍長い。ゲームではこんなとこ通った記憶もなく、異世界に来たんだな、という重みを改めて感じている。
またもやシプリンは「疲れた」と言い、あちらの世界に帰ってしまっている。お前仮にも1凸してるんだからもう少し働けや、と吐いたものの、煩いのがいなくなって清々している気分も否定できない。おかげで今はユディとの二人旅……隣で歩く彼女にも若干の疲れが見え隠れしている。
「この道、本当にあってるんですか? 分かるんですか? 記憶ないのに?」みたいなニュアンスを含んだ視線を感じるのは、オトギの自意識過剰ではなさそうではあるものの、面倒なので彼は気の所為としておく事にした。
そうして歩いていると、あるものが彼らの目に入りこんだ。
「川……ですね」
「川……だな」
大きな音を立てながら、勢いよく水が流れていく道筋――川、と便利な1文字で表す光景が、彼らの目の前に広がっていた。
「凄い……森の中とは思えないほど綺麗です」
透き通るその水は、確かに森の中という状況下で考えれば、限りなく綺麗だと思われる。汚れすら見えず、水道から出てくる水と言っても差し支えない。
だが、実際は目に見えない細菌やウイルスを孕んでいるはずなので、微塵も綺麗とは言い難い。
二人の間に流れる静寂。水が石にぶつかる激しい音だけが耳を満たし、流れてくるちょうどいい風が心地よい。そんな中で、ユディが小さく口を開く。
「あ、あのー……えっと、そのですね……」
彼女は頬を赤らめ、指先で髪をいじりながら視線を泳がせ、もじもじと足元を見つめ続けている。何か言いたげだが、煮え切らない様子に、オトギは、なんだコイツと一瞬押し黙ったが、すぐにそれを察した。
「ん……? ……あぁ、分かった。向こうで待っている」
「……あ、ありがとうございます!!」
そう言うと、ユディを置いて足早に森の中に入っていくオトギ。
現実では女性経験すらなかった彼が、どうしてこうも人を察す能力に長けているのか。これもまた演技の賜物……はたまた本当に主人公の意志を疑わざるをえない。
大方、水浴びと言ったとこか、まぁよくあるイベントである。
ゲームで「汚れ」なんて面倒な仕様は実装されていないが、これを現実に落とし込んでみれば、当然汚れる。
魔物からの返り血でベッチャベッチャ、動き回って汗ベッチャベッチャ、清めたくなるのも無理もない。
女性だからそういうとこが気になるんだろうな、と、シプリンという例外を無視してオトギは納得していた。
そうして彼は川からかなりの距離をとった。ここまでするほど? と言えるほどの距離。その理由は………ラッキースケベを誘発しない為である。
これもまたよくあるイベント。
川から近く、「きゃっ」なんて悲鳴が聞こえると、つい思わず近づいてしまい、丸見えなんてのはもちろんの事、他に何が起こるのかもわかりはしない。
おちゃらけた主人公であるならまだしも、彼のイメージに住まう主人公は絶対にそんなことをしない。そういう硬派なとこが彼は好きなのだ。
己が見たい気持ちは多少あれど、自分の煩悩で彼を汚す訳にはいかず、だからここまで離れてきた。
それ紳士的にどうなの? とも思わなくないが、彼女なら、いざとなれば戦えるだろうから問題もない。
それにオトギ自身、確かめたいことがいくつもあった。
「ステータスオープンッ!」
森の静けさをぶち破り、彼の声がこだました。しかし無情にも、それに応えるものはいない。
「ダメか……ならステータスセット!!!」
再び森に響き渡るが、やはり応じない。
「ステータス解錠!!! ステータスプリーズ!!! ステータス開けゴマ!!!!」
言い方を変え、言葉を変え、何度も何度も試してみるものの、反応があるのは鳥や虫達だけであり、誰一人として彼の言葉に応じるものはいなかった。
「いや……どうすれば?」
オトギの率直な感想として、1番初めに出てきたのは、ただただ困惑。
異世界転生……と言えば、ステータスオープン! なんて掛け声とともに、自らの情報が乗ったウィンドウが、目の前に出てくるのが多くある。
あんなもん現実にあったらどれだけ素晴らしい事か、身体に突如発生する痛みの正体とか、知りたくて仕方がないと彼は常々思っていた。
この地に足を踏み入れてから、出会うまでの短い時間と、ガチャを引いた時を除き、ユディとずっと行動を共にしてきた。
不審な行動をとる訳にもいかず、更に呼び出す呪文、そしてその掛け声も分からなかった為、使用するのを控えてきていた。だが、仮にも異世界に来たということで、好奇心に抗えず、ウッキウキで試してみたものの、うんともすんとも反応がない。
まぁ別に異世界転生の本質はそこではない。
ステータスウィンドウが登場しない作品だって散々あるし、なくたって話は進むのだから問題はない……これが"普通"の異世界転生であればだったが。
「どうやってレベルとか見ればいいんだ……?」
Tips【レベル②】
キャラクターが使うスキルには、各々にレベルが存在する。1からスタートし、最大は10。上げるのには素材とゲーム内通貨が必要だ




