第13話 廃課金は息吸うようにガチャを引く
「ユディは右奥から殲滅! シプリンは残りのカバー!!」
「はいっ!!
「妾に命令をするなっ!!」
オトギは獣からの攻撃を右へ左へと華麗に避けつつ、彼女らに指示を出しながら、己も剣を振る。伊達に10年もプレイしていないと言ったところか。いくらジャンルが変わろうと、既存の敵であれば何となくではあるが行動は読めてくる。
自らも行動しつつ、戦場を見定め、的確な指示を出す。文字に起こすと難易度は高く感じるが、実際はそれをものともせず、思った数倍上手くやれていた。
まさかこんな才能まであるなんて……とオトギは異世界に来なければ気づかなかったであろう数々に、自己肯定感がグングン上がっていく。
もしかして前世は軍師だったのかもしれない――なんて調子こいた冗談は置いておくとして、それにしたって順調だ。
先程の何だか分からない魔物に比べれば、今相手しているこいつらはかなり弱い。リアルの戦闘経験が1時間を超えてないオトギでさえも、それは見るだけで分かる。
――ただ今は良くてもなぁ
オトギは剣を払って飛び散る血を視界の端に映しながら、内心で苦いため息を吐いた。
たしかに今は好調だ。シプリンの火力が圧倒的なのは言うまでもなく、ユディの斧槍と魔法のコンボも申し分ない。
この中で群を抜いて弱いのは、隠すことなくオトギな訳だが、彼とて現状は何も問題なく戦えている。
だが――考えれば考えるほど、未来に希望が見いだせない。
何せ3人ともアタッカーという立ち位置にいる。火力はある、勢いもある。しかしそれだけで攻略できるほど、この世界は甘くないだろう。
腐っても元は「フォーチュン・アルカディア」。慈善事業なんかではなく、れっきとした商売だ。アタッカーオンリーでクリアするのは、公式から縛りプレイのド変態と称されても、何ら文句は言えやしない。
「フォーチュン・アルカディア」のキャラには、大きく分けて4つの役割がある。
攻撃を主軸に立ち回るアタッカー『剣』
味方のサポートをメインとする支援役『聖杯』
敵の妨害を主とする『杖』
敵の攻撃を引きつける『護符』
これらを4人1パーティで組み合わせ、多種多様な敵に対応していく……それがゲームの基本だった。
まぁ属性という概念があったり、たまに役割を大きくはみ出してるインフレの象徴みたいな奴も中にはいたが、少なくとも、序盤実装アタッカー3人はキツイ、キツすぎる。
本来であればシプリンはサポーター、つまり聖杯だった。
剣が2人、聖杯が1人であれば、多少歪ではあるものの、バランス的に問題はない。ただなんの因果か、彼女は今1番必要としない剣へと成り果てている。何なら主人公と丸かぶりである物理属性であり、正直全てにおいて、現状は彼女の方が上位互換だ。
問題点を挙げるなら、もう一つ決定的なのが存在する。
ゲームであればステージを進行し、その都度パーティを組み直して戦っていく訳だが、現実において、このステージという区切りが存在しないのである。
敵が来るタイミングは、ある程度纏まっている。纏まりすぎててもっと散らせよと思ったくらい。だが問題はHP……疲労感は回復することなく、じわじわと蓄積していくばかり。
ステージを跨げばHP満タンから、なんてのはゲームの中だけの話。
いざ現実に身を置いてみれば、当たり前のように行ってきた「ステージ開始=全回復」という仕様が、どれだけ恵まれたものだったのか、今更ながら彼は酷く思い知った。
オトギは剣を払って飛び散る血を見やりながら、感慨深く思う。軽い気持ちで転生したいなんて呟いたものの、これを知ったら、もうそんなことは言えない。
死んでもコンティニュー、疲れても回復薬ワンタップ。お手軽便利なゲームシステムの数々を「当然」と受け入れていたが、それらがいかに現実に置き換えられないものか、今こうして汗と血にまみれながら痛感させられている。
「ガチャ引きたいなぁ……」
彼女らが無双する傍ら、彼はボソリと呟いた。
そう、結局はガチャだ。簡単に強くなりたければ、戦闘後に回復をしたければ、ストレスの発散をしたければ、1にガチャ、2にガチャ、3にガチャしかありえない。
特に三番目……ストレス発散という点においては、彼はこのゲームに頭が上がらない。
基本的に毎月1体は出る新星5キャラを完凸まで引き、余裕があれば、モチーフ武器……略して餅武器と呼ばれる、そのキャラに1番適したアイテムも引きに行く。
課金者の中でも上澄みの上澄みであり、完凸から放たれるぶっ壊れた火力と、他のプレイヤーより強いという優越感で何度も救われてきた。その発散するストレスが引き起こされる原因は、課金のし過ぎでお金が無い、という元も子もない理由ではあったが。
そして現在、度重なる戦闘と改変された世界に押し潰され、彼の心にはガタが出始めていた。
――まぁ引けるには引けるんだけど……。
そう言って、こんもりと膨らんだポケットに目を向ける。
いつからか、敵を倒し一息つく度に、軍服に付けられたポケットは重みを増していっていた。
中を見れば、ガチャ石である『記憶の欠片』が増えていっている。1粒1粒はかなり小さいものの、両ポケットが埋まる程度には量もある。
が、1回のガチャにかかるのは150個。10連を引くのには1500個、程遠い道のりである。
オトギは10連派であった。というか単発は一切信用していないと言った方が正しい。星五確率は約3パーセント、更にキャラ以外のアイテムも平気で出てくるため、この仕様にどれほど泣かされてきたか分からない。
これがゲームであれば、メールボックスにはプレイ記念やらなんやらで、20連分くらいは用意されていたかもしれないが、そんなものはどこにも存在しない。
――あぁっクソッ……引きたい……引き"た"い"っっ!!!
1度考え出したが最後、欲は留まることを知らなかった。呼吸は荒くなり、手がプルプルと震える禁断症状。
脳裏をよぎるのは、これまでの爆死の記憶。当然のごとく天井まで出ない推しキャラ、すり抜けで何度も見た恒常キャラ達、課金履歴を見て胃痛で寝込んだあの日の朝。
だが同時に、単発1回目で神引きした友人のスクショもフラッシュバックする。
「くそ……! 分かってる……分か"っ"て"る"の"に"……!」
オトギは髪をかきむしり、頭を抑えた。
止めろ、やめろと理性は叫んでいる。だが本能は、あの“引く瞬間の高揚”を求めてやまない。たった3連で出るはずもない。頭では分かってる、分かってるのに……それでも回したい。
――引け。
――いや、引くな。
――だが今なら……。
脳内で天使と悪魔が真剣でチャンバラを繰り広げる中、オトギはふらつくように片手を突き出す。
「片付きましたね……って、え?」
戦闘が既に片付いたのか、ユディが近寄ろうとしたその瞬間、オトギは振り返りざまに低く告げた。
「……すまない、少し待っていろ」
そう言って、オトギは空を手で大きく振り払った。
シプリンの見よう見まね、意識すると、応じるようにその場に青い空間が姿を現す。そして彼は、青い空間に勢いよく飛び込んでいった。どうやら本人達には見えないが、何かしらで繋がれているらしく、戦闘の終わりでハイになったシプリンも引きずりながら。
「なっ!? 妾を巻き込むでなぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「えぇ……?」
そしてユディだけが、その場にポツンと取り残されたのだった。
Tips【属性】
フォーチュン・アルカディアには6つの属性がある。
炎、氷、風、物理、闇、光。
物理以外には有利不利が存在し、与えるダメージに大きな影響をもたらす。




