第11話 ズレた世界に批評を届ける
そのあとは驚くほどあっけなく終わった。
圧倒的な物量を武器にしていたボスは、その力の源を失えば途端に勢いを失う。手下頼りの王様など所詮そんなものだ――オリジナル設定のヤケクソボスなんて二度と顔を見せるな、とオトギは心の中で呟いた。
膝をつき、剣を杖のように地面に突き立てて荒い息を吐くオトギ。額からは汗が流れ落ち、視界の端で血混じりの土がじっとりと黒ずんでいくのが見える。
赤髪の彼女も、疲労と安堵で力尽きたようにその場へバタリと座り込み、手足からは力を抜いていた。戦場に残るのは、血と魔物の死体が無数に転がる無惨な光景。風の音すら重苦しい。
そんな中、ただ一人だけ対照的だったのが、シプリンだった。
双剣を握ったまま、未だに戦意を抜かず、名残惜しそうに刃から血を振り払っている。死体の前に立つその姿は、先程の狂気はどこへやら、と言った感じで、不思議と鮮烈な存在感を放っていた。
「全くお主らは情けないのお」
シプリンの口調はいつも通り、ゲーム通りの傲慢さを孕んでいる。だがその声音には、怒りよりもむしろ楽しさが混じっていた。戦いを終えた後の高揚感が、わずかに笑みとなって表情に浮かんでいる。
「あの……彼女……? はなんと?」
赤髪の彼女は小首を傾げ、怯える様子も見せずにオトギに問いかける。
「え? ……あぁ、お疲れ様、みたいな」
オトギは簡単に答えたが、その瞬間、背後で「そんなこと言ってないわい!!」とシプリンの甲高い抗議の声が響いた。
だがオトギは気にしない。真実をそのまま伝えて、彼女の気を悪くする必要はないからだ。
彼女はシプリンの姿が見えていないのに、それを認識できるのは、なんとなくだが生きてるように見える、かららしい。
黒いモヤを操れるか問われた際、絶賛シプリンは暴走中だった。当然言うことを聞かない彼女を操れる訳もなく、説明に困ったオトギは、気の荒い幽霊みたいなもんだ、と雑に答えた。
それ以降意識をし、気づくと、会話はできないものの、生物として認識できるようになった……と、彼女は大真面目な顔をして言ってきたので、面倒だったオトギは、まぁそれで別にいいか、と割り切って納得した。
幽霊でも幻でも、本人がそう思って落ち着いてるならそれで十分だろう。わざわざ訂正してやる義理もない。
――とりあえず、今はそんな話よりも、目の前の彼女本人だ。
「ありがとうございました……私一人では死んでいたでしょう」
赤髪の彼女は力なく頭を下げた。その声は少し震えていたが、込められた感情は間違いなく純粋な感謝だった。
「いや、こっちも足を引っ張って悪かった」
オトギは肩で息をしながら答え、目の前の彼女をじっと見つめた。戦闘中とは違い、今なら冷静に顔立ちを確認できる。柔らかな赤髪、切れ長の瞳、そして儚げな雰囲気、色々デカイ身体――思った通り、ゲームで見たユディとは正反対の印象。あの元気で少し口うるさい少女とは似ても似つかず、ここにいる彼女は間違いなく別人だった。しかし――
「なんか似てるんだよな……」
どことなくユディの面影を感じる。人に説明はできないものの、その不気味な感覚は確かに存在する。仮にも二次創作だから、やはり影響を受けているということだろうか。こういう出会いでなければ、素晴らしいオリキャラだ、と賞賛を送っていたのかもしれないが、現実は酷だ。
それにしてもここからどうしよう、とオトギは彼女らを見ながら考える。
正直モチベは底を突きぬけ、最底辺中の最低辺。例えるなら、プレイ開始から続けてきた数百日分のログインが途切れてしまった時のような、何とも言えない気持ちである。
最初の目標――「正規のエンディングを見る」というのは実質的に不可能になってしまった。
ゲーム完結前に死んでしまい、最後が見れなくなってしまった者への救済措置……と思っていたのに。
現状を見るに、目の前の赤髪の彼女、そして横で血に飢えたように双剣でシャドーボクシングをするシプリン。どちらも本来プレイしてきたゲームとはかけ離れており、オトギが歩いているのは別物の道筋だ。
かといって現実世界に戻してくれ! なんて叶うはずもなく、もし現実に戻ったとしても、既に火葬場あたりを通っていることだろう。そう思うと、オトギの中には妙に冷めた笑いが込み上げる。
「参ったな……ほんとに参った」
この後のストーリーがどう進むかなんて、オトギにとってはどうでもよかった。どんな風に展開しようとも、それは所詮まがい物に過ぎず、さっきの戦闘だって別に彼女を裏切ったって良かったし、全力で戦う意味もない。
それでも彼を突き動かすのは、主人公の意思……なんて真っ当なオカルトではなく、自らが思い描く主人公像が崩れて欲しくない一心だ。
姿を借りている身というのもあるせいか、自分の行動一挙一動に、主人公ならどう動くか、こんなとこで諦めるだろうか? なんて考えがチラついてしまう。いくら一番好きなキャラであろうと、ここまで来ればもはや呪いだろう。
「……まあ、仕方ないか。続けるしかないんだろうな」
彼はそう呟いて立ち上がる。
これは強制イベント。子が親を選べないように、転生者も死後の世界を選べない。こちらが自由に選べる選択肢など、ハナから存在しなかった。本来の主人公なら、こんな気持ちを味わうことはなかっただろう。
これしか選択がないのなら、この世界で生きろと言うのなら、今はそれに従ってやる。
だがいずれ、歪んだ展開も、ゴミみたいな筋書きも、俺が全てを元に戻してやる。
剣を肩に担ぎ直し、死臭と血に満ちた景色の中。
オトギはその場にいるはずのない神と、そして創作者に、
「かかってこいやゴミ改悪っっ!!!!!」
平等に啖呵を切ったのだった。
Tips【ユディ赤①】
自身の近未来風の服装に若干恥じらいを持っている。




