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第10話 ピンチの時、攻撃力は■■パーセント上がる

 こんなもんがチュートリアルだとするのなら、このゲームはあまり人気でないと思う。オトギは草木に身を潜め、呼吸を殺しながら心の中で毒を吐く。


 最初のボスに“覚醒”なんて要素があるとは露知らず、有利に傾きつつあった戦況は、途端に逆風へと戻りつつある。恐るべきバーサーカー、シプリンの猛攻でさえ凌駕する雑魚の生成速度。確かに一体一体は脆く、彼女の一撃で容易く吹き飛んでいく。だが、いくら倒しても湧き出す黒い影の群れを前にしては、さすがのシプリンもお手上げと言った感じだ。


 結局のところ、狙うべきはあの後方に鎮座する影を纏った巨体だ。奴さえ倒せば戦闘は終わる。逆に言えば、奴を倒さぬ限り終わりは訪れない。囮作戦か、ダメージ前提の全員で総突撃か――そんな選択肢を頭の中で繰り返していると、赤髪の彼女からある提案を持ちかけられた。


「提案があるのですが……あの黒いモヤは自由に操れますか?」


 唐突な問いに、一瞬何を言っているのか理解が追いつかなかったが、彼女の指差す先を追えば、そこにはシプリンの姿。なるほど――彼女にはシプリンが、オトギから繋がった、ただのモヤにしか見えていないらしい。オトギが懸念していた“同キャラ対戦”という異常事態の解決方法が、こんなゴリ押しご都合主義だとは、異世界が聞いて呆れる。まぁ、ゲーム慣れしている身としては、いまさら驚きはしないが。


 要点に戻ろう。彼女の提案は、要するに囮役を決めようということだった。細かく長々と論理的に説明されたが、噛み砕けばオトギの考えと全く同じ。後ろで悠然と構えるボスを討つため、雑魚を引きつける者と、死角から突撃する者とで役割を分担しようということ。


 そして――消去法により、オトギは必然的に後者へ抜擢されることになった。いや、抜擢というより最初から決まっていたと言うべきか。話を聞かず突っ込み続けるシプリンは論外として、赤髪の彼女は足を斬られ、怪我をしている。奇襲に必要な素早さを欠く以上、彼女を突撃に使うのは無謀だ。結果として、必然的にオトギが最も重要な役を担う羽目になったわけである。


 こうして今――女性二人を囮にする、なんとも情けない男が木々の奥から虎視眈々と飛び出す瞬間を狙っている。胸中の葛藤を押し殺し、ただ最適なタイミングを探る。


 幸いにも、溢れ出す魔物どもに知性はないのか、姿を消したことに気付かれないの好都合だった。しかし、本体の行動は厄介極まりない。雑魚の生成とセットで、広範囲への薙ぎ払いまでついてくる。そんな蕎麦屋の定食みたいな軽い感じで、オマケとして攻撃までつけられたら容易に近付くことなどできはしない。


 更にもう1つの問題もある。奴の雑魚生成を止めるには、あの巨体から生えた二本の触手を破壊するしかないが、そこまで届く攻撃手段がない。この時点で主人公のスキルは皆無、つまり何個か覚えのあった遠距離攻撃などは一切望めない。

仮に触手を無視し、本体を殺そうと攻撃して万が一仕留め損なった場合、次からは警戒され、チャンスはなくなるだろう。そう考えれば、触手を叩き斬るのが現状で最もベストだが、それすら困難を極めている。


 刻一刻と状況は悪化していく。このまま時間を引き延ばしても、崩れるのは味方の方だ。しかし


 ――あの瞬間なら、いける。


 観察の中で掴んだ一つのパターン。奴の弱点にも等しい攻略の糸口。オトギは呼吸を整え、汗ばむ手のひらで武器をしっかりと握り込む。鼓動が全身に走り、視界が狭まる。


 その時を逃すまいと、巨体を睨み、

 そして――ついに訪れた。


「――今ッ!!!」


 触手が振り下ろされ、大地が震えた。その衝撃に合わせるように新たな雑魚が一斉に地上へと吐き出されていく。だが、まさにその瞬間こそがオトギの狙いだった。


 この時だけは雑魚を生み出す為、触手が地面に突き刺さる。つまり容易に手が届く位置にある。


 オトギは息を切り裂くように吐き出し、全身をばねのように弾いて、草木の影から一気に飛び出した。途端に押し寄せる熱気、血と鉄の匂い、呻き声と咆哮が耳を圧迫する。


 雑魚の爪が目の前に迫った。反射的に剣を振るい、全身ごと吹き飛ばす。黒い肉片が飛び散り、足元へと霧散していくが構っている余裕はない、巨体の元へ一直線に向かい――


「ここだァァァァァァァァっっっ!!!!」


 全身全霊の力を絞り、振り下ろした剣が触手の根元へと突き刺さった。だが――


「か……硬っ!?」


 手応えは岩のように重く、刃はわずかにめり込んだだけだった。黒い繊維が絡みつき、剣を押し返そうと震えている。それでもオトギは歯を食いしばり、両手に力を込め続ける。


「ここで負けたら……主人公の名が廃っちまうだろ……ォォっ!!」


 声を荒げ、全身の体重を刃に叩き込む。

 刃が数センチ、さらに数センチと食い込み、黒い繊維が裂ける悲鳴を上げた。粘り気のある黒い液体が飛び散り、顔に降りかかるも、ついに勝負は決す。


 地面に豪快な音を立て、タコ足のようにピチピチと転がる触手。本体にもきちんとダメージが通ったようで、影を纏った巨体が低い悲鳴を上げよろめいた。


「どっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 取ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 オトギはどこかの芸人を思わせるような勝利の雄叫びを上げ、剣を引き抜き、その場に立ち尽くした。最初のボスのくせに時間を取らせやがって、ようやくこれで戦況は変わる、そう確信したのも束の間。


「あっ、やべ」


 視界の端で影が揺れる。

 感極まってオトギは忘れていたが、触手は全部で2本、今切ったのは1本目だ。ダメージすら与えていないもう一本の触手が音を置き去りにして迫り来る。

 慈悲すらなく振り下ろされたその触手。攻撃は間に合わない。大ダメージを覚悟し、腕で防御の体勢を取ったが、それは杞憂に終わった。


「お主にしてはまずまずの結果じゃなぁ」


 飛び込んできたシプリンが双剣を使って、触手を1口ステーキサイズにカット。あんなに斬るのを苦労したというのに、その労力すら感じさせない一瞬の出来事。仮にも今の主人公だってアタッカーなはずなのだけども、星4、星5ランクの差か、それともレベルの差か、力の差は歴然である。


 だが状況は明らかに優勢へ傾いた。二本の触手という最も厄介な武器を失った巨体は雑魚を生み出せず、身を振り乱して苦しげに唸るばかり。赤髪の彼女も巨体の前に辿り着き、やや生み出されてしまった残党を着実に削っていく。戦いの決着は目前であった。


 オトギは剣を構え直し、切っ先を魔物に向ける


「……そろそろ終わりにさせてもらおうか」


 静かな呟きに、苦労させやがってという怒りが宿っていた。






Tips【レベル】

フォーチュン・アルカディアでのキャラクター最大レベルは90。70から上は上がりにくくなる。

レベル天井が3回あり、素材を使用することで解放できる。それぞれ20、50、70の3回である。



 

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