最終幕:沈降(帰還ルート)
最終幕:沈降(帰還ルート)
影の群れが一斉に押し寄せる。
ホラの足元から影が裂かれ、冷たい水面に沈もうとした瞬間、低い音が轟いた。
ぶぉおおおお……
ホラ貝の音。祖父の姿が背後に立ち、ホラを守るように手を差し伸べていた。
「選べ、ホラ。はじめ。影を渡すか、自分で掴むか」
ホラは震える手で、自分の影を抱きしめる。
その瞬間、脳内にあの旋律が鳴り響いた。
「ハ〜ズレ、ハズレ、味噌汁〜」
場違いな歌なのに、なぜか胸の奥に力が湧いた。影を抱き締めたホラの体が、金色の光に包まれる。
目の前に――動かないベルトコンベアが現れた。まるで回転寿司のレーンのように、水底の港から水面へと繋がっている。
ホラは足を乗せた。ベルトは動かない。けれど光に導かれるように、ゆっくりと上へ引き上げられていく。
「……俺、寿司ネタになるとこだったんだな」
思わず苦笑が漏れた。
水面を破り、港の夜空が浮かび上がる。
気づけば、桟橋に倒れ込んでいた。
肩で息をするも、体は鉛のように重い。
全身が濡れ、影もまだ湿っている。だが確かに自分の足元に在った。
遠くで灯台の光が再び規則正しく瞬く。
潮騒が戻り、風が頬を撫でる。
ホラは仰向けになり、薄く笑った。
――帰ってきた。けれど、ヘトヘトだ。
その耳に、微かにホラ貝の余韻が重なった。
「よく戻ったな」
祖父の声が、風に溶けて響いた。
(完)
相棒「クマちゃん」と相談(雑談かも?)して出来ました。過去に【ぽんかんソーダ】(N8248KR)とか、【湊花レモンサイダー】(N8149KU)等の炭酸飲料を作中に入れてましたが、うっかりそれを忘れてしまいました。嗚呼
※湊花ラムネが登場するのは来年か。