探し求めし鬼姫
物心ついた時から見る夢がある。
大抵の場合の見る夢は目覚めた時にはどんな夢でどんな内容であったかを思い出すのには多少時間がかかっていたり曖昧な部分があるはずなのに、ある一定の夢は、記憶に焼きついているかのように目が覚めても忘れることができなかった。
桜が咲く場所で桜を見上げている時に黒髪で黄土色の瞳の1人の少年と出会う夢から始まり、夢ごとにゆっくりと時間が進んで行ってるようだ。
まるで映画を見ているかのように少しぎこちないコマ送りのように見える。
隣に桜色の髪を無動作に垂らして、かなり古い時代の着物を着た女性が座っているのを目の端で捉えたが、お互いに、挨拶するでもなく目の前の映画を並んで見つめている。
ふと、水面に映った姿。
映画視点の女性の髪が隣の人物の髪色と同じなのに気づいて目を向けるが気配が一瞬にして消えてしまって、目が覚めるのである。
窓からの日差しが眩しく目を瞬き身体が眠りから覚醒したのを確認して彼女は身を起こしていた。
寝癖によって黒い毛先があっちこっちに跳ねている。
「梅婆ちゃんの話を聞いていたから、夢をみたのかなぁ」
伸びをしつつ呟き。
ベッドから立ち上がる。
(夢の隣にいる人って、誰なのかな。なんで映画の人と同じ髪の色してたんだろ?)
制服に着替えながら尽きない疑問が胸の中で浮かんでは弾けて、また次の疑問が浮かんでは沈んだ。
洗面所へ移動し歯磨きなどの身支度を整えて居間へと足を向けて歩き出す。
「梅婆ちゃん。おはよう」
「結華や、寝癖がまだ直ってない。髪を梳いてこないでどうする」
あくびを噛み殺しながら結華は椅子に座ったのを見て梅子はブラシ持ちながら結華の後ろにたち梳かしていく。
「むふふ。ばあちゃんにブラシしてもらうの好きー」
朝ごはんをもぐもぐしながら結華は答えていた。
「身支度くらいは自分でする」
梅子は軽く頭を叩いて“はい、梳いた”と自分の席について梅子も朝ごはんを食べ始めた。
「結華や、……今日は旧屋敷の方へ行ってくる予定なんだが……」
結華は手を合わせて“ご馳走様でした”と挨拶をした後に食器を炊事場へと運んで梅子を見る。
「遅くなりそうなら、家の事何個か大変そうなの終わらせとく」
結華の言葉に梅子は“頼みたいねぇ”と言う梅子の言葉にうなづいて学校へと向かう結華を見送った。
天華は旧鬼灯の館へ訪れていた。
見渡すと手入れが行き届いていて、今でも誰かが管理してくれているのがわかる。
ゆっくりと歩き、日当たりが良い小部屋に入る。
「あっ雪太郎だ!」
雪太郎の顔を見つけて夜は走って雪太郎の肖像画の前で止まる。
歴代当主の絵や写真での肖像画が飾られている中を歩いて通り過ぎ、初代当主の鬼灯雪太郎の前にいる夜の隣に立ち天華も優しい目で見上げていた。
「当代の方に挨拶したいですね……」
「挨拶したいと言うと思ったので、今日、呼んでおいた。時間があったら来てくれるはずだ」
天華の言葉に静かについてきていた月が答えていた。
「……私、あっちの部屋がいいです!」
夜が走って狙った部屋を取りに行っている。
「……」
月は夜の行動に頭を抱えている。
「部屋ある程度、掃除しないと使えんだろうから使う部屋だけでも掃除してくる」
月も部屋から出ていく。
「安全だとは思うが、……天華様何かあったら呼んでくれ」と部屋を出る前に言い置いて歩いていく月を天華は見送る。
「この館……また借ります」と歴代当主の前で天華は声を出して一礼していた。
月と夜はせっせと使う場所を重点的に確認しつつ掃除を始めていた。
「……あの時代からずっと、鬼灯の方たちが手入れを続けてくれていたんですね」
夜はしっかりしている屋敷の状態に感激の涙が出てくる。
「今でも綺麗に管理してくれているのはありがたい事だ」
感激している夜の後ろで日焼け防止の布を片付けながら月はうなづく。
「あっ炊事場……綺麗か見てきますー」
夜はバタバタと炊事場に向かっていった。
「……食べることしかないのか……あいつは」
月は、くっと吹き笑いを抑えて夜を見送っていた。