化石
「それはあっちに持って行ってくれるか。」
ここは街のはずれにある小さな炭鉱所。日々、化石燃料が発掘されている場所だ。
寒空の下、今日も力いっぱいに働く人たちが集まっている。
「おい新人。どうしたぼーっとして。」
「これ、もしかしてなにかの化石じゃないですか?」
「どれどれ…でかしたぞお前!こりゃあ恐竜の化石じゃねえか!」
「連絡をしなくちゃいけませんよね?どこにでしたっけ?」
「いやいいんだ!最高の暇つぶしになる!」
「珍しいんですかね。」
「珍しいことだと思うだろ?これが意外と多いんだよ。全体でいったら少ないけどな。」
「そうなんですか?」
「でもな、土地の所有者はオーナーだから、化石の報酬もオーナーのもんになる。」
「そうなんですね。」
「なあ、この化石なんの化石だと思う?」
「さあ、ぼくはまるでそういうものには詳しくないので。」
「なんだつまらねえやつだな!これはだな、ここがこうなっているだろう…」
先輩の熱弁は続いていたが、新入りはぼーっと寒さをしのぐための炎を見つめていた。
「お前またぼーっとして!俺の話聞いてっか?」
「ああはい。」
「だからな、こいつみたいに有名な化石もあるけどな、ほとんどは名もなき化石ばかりなんだよ。」
確かにそうだ。自分には有名なこの化石の名前すら分からない。そういうものなのだろう。どこかのプロ野球チームの選手を誰もが知っているわけではないように、それはごく当たり前のことなのだ。
「でもな、名前もない化石たちが燃料となって誰かを温めて命を救ってるんだよ。」より近くでぼくらを救うのは名もなき化石たちなのかもしれない。
「俺たちの仕事は限りあるものなのかもしれないし、なにか特別なものでないのかもしれない。でも誰かを救えてたらいいよな。さっ、仕事だっ新入り!」
生命の蓄積。生きた証。我々は今日もその炎を繋いで生きているのだ。
「でも、やっぱり恐竜はかっこいいよなあ。」先輩は言った。
ぼくはバットを置いて何年になるのだろう。