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第6話 転生大魔法使いは修羅場に巻き込まれた


「ええ、見ていたわ。それで、何か御用でも? ロヴェーレ様」

「アシュレイでいい。この学園に在学中は身分などあってないようなもの。なにせ実力主義の世界だからな!」


 まるで勝ち誇ったように胸を反らす彼の名を、ラヴィニアは二人の傍らで必死に思い出していた。

 オリエンテーションのとき一人一人自己紹介させられたのだが、彼は確かそのとき『アシュレイ・ディ・ロヴェーレ』と名乗っていたはずだ。

〝ディ〟の称号を持つということが西のガーネ王国の上級貴族であることを示しているのだとは、エメリーヌからオリエンテーションのあとで教えてもらったことである。なんとアシュレイは侯爵家の人間らしいというのも、そのとき聞いた。

 それと同じように、北の上級貴族は〝ヴァン〟、南の上級貴族は〝ラ〟、東の上級貴族は〝フォン〟の称号を持つらしく、上級貴族とは伯爵位以上のことを指すようだ。

 前はそんな複雑な関係なんてなかったことを思うと、五百年の歴史は複雑すぎる……とラヴィニアは途方に暮れた。


「そんなことより、わたしは『何か御用でも』とたずねたのよ。質問にはそれに対応する回答を述べなさいな、()()()()()様」


 エメリーヌが名字ファミリーネームを強調すると、アシュレイのこめかみがぴくりと動いた。

 よくわからないが、アシュレイはおそらくエメリーヌに敵対心を持っているようだ。

 前世にもああいう人いたわね……とラヴィニアは遠い過去を思い出す。

 竜は人に懐かない。そんな竜を使い魔にしたラヴィニアのことは一気に噂が広まったようで、ラヴィニアの実力とくだんの竜を見定めようとやって来る敵は多かった。

 なんならラヴィニアを倒してゼドを自分の使い魔にしようと目論んだ者もいて、それらを全て追い払う戦いの日々には正直に言ってげんなりしたものだ。

 それもあって、山奥に引きこもっていた面もある。山の中ならどれだけ暴れても関係のない者を巻き込むことがないからだ。

 そしてああいう手合いが、一度勝負して実力差を見せつけてやらないと引き下がらないこともラヴィニアはよく知っている。


「では単刀直入に言おう。私はあなたが入学試験を首席で突破したことに納得していない! あんな氷像、誰にでもつくれるからな」

「え~、俺には無理だけど」


 そう言って突然両者の間に割り込んできたのは、クラスメイトの『酒オジ』だ。

 ラヴィニアが内心でそう呼ぶのには訳があり、彼だけ明らかに他の生徒より年齢が高めだからである。

 この魔術学園は、実は入学条件に年齢制限がない。入学試験さえ突破してしまえば、条件上は0歳から入学できてしまう。

 といっても、やはり平均的に16歳から入学する者が多い中で、彼は自己紹介のときに31歳と言っていた。

 長い襟足を赤いリボンで一本に束ね、入学式に酒瓶持参で教師に激怒されていたという強烈な印象を残した彼のことは、ラヴィニアも苦労せずに名前を思い出せた。

 ――ディーノ・カステッリ。


「だって俺、さっき風をちょろっと吹かせることしかできなくてさ~。ひっく」


 ヤベ、と呟いたディーノが、懐からおもむろに小型水筒スキットルを取り出す。

 まるで薬でも飲むかのように中身を煽ると、ぷはーっと口の端を制服の袖で拭った。


「校内での飲酒は禁止だが!?」


 ディーノの割り込みにぽけっとしていたアシュレイが、ようやく我に返り突っ込んだ。

 スキットルは酒を持ち運ぶための水筒である。かすかに漂う香りからしても、ディーノが今(あお)ったものが酒であることはこの場にいる誰にも想像がついた。


「ロヴェーレ様の仰るとおりよ。それとも、またドゲルグ先生に叱られたいのだったら別だけれど」

「二人とも優等生だなぁ。てか俺、一応お嬢さんの助けに入ったつもりだったんだけど」

「頼んでないわ」

「女王様~」


 ディーノのひと言に、今度はエメリーヌのこめかみがぴくりと反応した。

 なんだかだんだんと険悪な雰囲気になってきたなと、ラヴィニアは遠い目をする。


「まあそうカッカすんなって話よ。氷像も二属性の同時発動も十分すごいってこと。俺らクラスメイトだよ? もっと仲良くいこうぜ」

「申し訳ないけれど、アルコール依存症と仲良くする気はないわ」

「そこは私も彼女と同意見だ。貴様のような奴と仲がいいと思われたら私の品性まで疑われる」

「え、なにこれ。今の若い子って人の親切撥ねのける系? オジサン泣いちゃうよ? こっちの白髪の子なんてなんにもできてなかったのに! おまえらかわいそうだと思わないのかよ」


 ちょっと酒オジ!?とラヴィニアは心の中で盛大に叫んだ。

 自分が拒絶されたからといって、矛先をこちらに向けるのはひどすぎる。しかもさりげなく悪口を挟んできた。

 アシュレイが「はっ」と鼻で笑った。


「悪いが魔術の使えない奴は俺の視界に入らない仕様になっている。白髪など知らん」


 こっちはこっちで酷い。存在否定か。


「あなたたち、先ほどから聞いていればわたしの友人に対して失礼じゃない?」


 そのとき、エメリーヌが一歩前に出て反論した。やはり彼女は女神のように優しい。

 と、思ったけれど。


「ラヴィニアは確かに魔術も整理整頓もできないけれど、そういう馬鹿な子ほどかわいいと言うでしょう?」

「エメリーヌ!? フォローになってないわよ、それ!」

「わたしは事実しか言わないの」

「余計に傷つくやつなんだけどそれぇ!?」


 ここに味方はいないのか。第二の人生はなんて無情なのだろう。


「ふん。そんな奴が友人とは、ラ・ドゥールの名が泣くんじゃないか。それとも、ラ・ドゥール家も実は大したことないのか?」

「なんですって?」

「『類は友を呼ぶ』と言うだろう? 出来損ないの友人を持つ君も、引いてはラ・ドゥール家も、実は世間で言われるほど大した実力なんてないんじゃないか、ということだ」


 ラヴィニアは二人のやり取りをハラハラしながら見守る。

 これは本格的にまずいのでは、とエメリーヌの顔をチラリと窺ったら、案の定目尻がつり上がっていた。


「おあいにくさま。わたしは魔術で友人を選んでないの。あなたみたいに、親の七光りでできた人間関係を『友人』とは思えなくて」

「なんだと?」


 エメリーヌとアシュレイの間に火花が散る。

 エメリーヌの背後には吹雪が、アシュレイの背後には燃え盛る炎が見えるようだ。


「あちゃ~。こりゃだめだな」


 ラヴィニアの耳元近くで、ディーノが呟いた。

 吐息が酒臭い。


「ありゃあ一度発散させてやったほうがいいかもしんねぇぞ、嬢ちゃん」

「発散? どうやって?」


 すると、ディーノがニッと口角を上げた。


「俺に任せな」



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