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第17話 転生大魔法使いは前代未聞の使い魔と契約した


 ラヴィニアの叫び声が響く。

 すぐさま反応したのはマヒュネリアだった。

 彼女はラヴィニアの魔術式に近寄り、それが間違いなく召喚術のための術式かを確認している。

 そりゃあそうよね……とラヴィニアは白目を剥きそうになった。使い魔召喚でまさか〝人間〟を召喚した者などいまだかつて存在しない。

 その召喚主であるラヴィニアも、今回の自分の『やらかし』にはさすがに頭を抱えた。

 誰もが言葉を失っている中、人一倍早く我に返ったのはセルジュだ。


「……なるほど。なるほどな…………ふ、ははっ、はははははっ!」


 突然壊れたように笑い出したセルジュに、クラスメイトたちが同情の眼差しをラヴィニアへやる。

 おそらくクラスメイトたちは皆、セルジュが怒りでおかしくなったと思ったのだろう。

 ラヴィニアも思った。

 おかげで今とても漏らしそうだ。

 もはやアシュレイの使い魔のことなど誰も見ていないし、頭にもないだろう。

 そういう意味では『意識を逸らそう作戦』は成功したとも言える。

 ――が、今度はラヴィニアがピンチだ。


「な、ナナ、ナイっ、ナイトレイ、さんっ」


 恐怖で声が裏返った。恥ずかしすぎる。

 しかし魔術式から一歩踏み出したセルジュは、心底嬉しそうな、なんならうっとりと熱の孕んだ瞳をして、ラヴィニアの前で立ち止まった。

 そしてラヴィニアの左手を取ると、手の甲に唇を落とす。


「最高だ、ラヴィニア。今も()も俺のあるじはおまえただ一人とはいえ、まさか俺を召喚してくれるとは――しっかりと愛してくれよ、ご主人様?」

「はぎゃっ!?」


 美しすぎる顔で艶然と微笑まれ、直撃を食らったラヴィニアはそのまま後ろに倒れそうになった。

 それを難なく受け止めたセルジュは、喉の奥を鳴らしてまだ楽しげに笑っている。


「――わ。いいわいいわ、いいわー! とっても素敵よあなたたちッ!」


 マヒュネリアが興奮したように胸の前で両手を合わせて、きゃー!とテンション高く小躍りした。


「今まで数多の召喚に立ち会ってきたけど、こんなにも胸がトキメク召喚は初めてよ! やっぱり『愛』ね! 愛に勝るものはないわね!」

「マヒュネリア先生は相変わらずですね」

「あなたが召喚した使い魔にも興奮したけど、そんなナイトレイが召喚されたことにもわたし、興奮してるわ!」

「ええ、見ればわかります」


 人が気を失いかけているのに、構わず会話が進んでいく。


「それで、マヒュネリア先生。ラヴィニアの使い魔は俺ということで、召喚は成功でいいですね?」

「もっちろんよー! 最高の成績あげちゃう!」

「え!?」


 マヒュネリアの大盤振る舞いにはさすがに復活した。

 地面につま先もちゃんとつけて立ち直すと、ラヴィニアはもう一度確認する。


「本当にいいんですか? わたし、ナイトレイさんを召喚したのにっ?」

「いいわよー。それに、言ったでしょう? 召喚は一回きりだって。それはね、召喚した使い魔と召喚主の間には、対になる契約印が刻印されるからよ」

「そういうことだ。見ろ、ラヴィニア」


 セルジュが大きく口を開け、舌を見せてきた。

 なんとなく破廉恥な気がして視線を下へ逃がそうとしたら、マヒュネリアに後ろから顔を掴まれてしっかり見るようにと彼の正面で固定される。


「使い魔によって刻印される場所は様々よ。あなたたちは〝舌〟に契約印が出たのね」


 確かに彼の赤い舌には、ラヴィニアが描いた魔術式がそっくりそのまま描かれていた。


「ラヴィニアにもしっかりと刻まれているな」


 口を閉じたセルジュが、今度はラヴィニアの口を開けさせるように口内に指を突っ込んできた。

 その遠慮のなさに仰天しながらも、人にそんなことをされたのは初めてで、ましてや間近に国宝レベルの美貌があって、ラヴィニアは暴れた。


「んー! んんーっ!」

「はいはい、暴れないの。ナイトレイ、放してあげなさい。まったく、いくら契約印を確認するといっても、いきなりレディの口にれるのはどうかと思うわよ。――まあとにかくそういうわけだから、ロヴェーレ、あなたも使い魔召喚のやり直しはできないの。その子としっかり話し合いなさいね」

「…………」


 アシュレイは俯いて答えない。

 その足元に小さなトカゲがせっせと近づくと、己の主を窺うように見上げていた。

 ちょうど授業終了の鐘が鳴り、そこで授業は終わる。

 クラスメイト全員が無事に使い魔を召喚することはできたものの、なんだかどっと疲れた授業だった。


「ところでナイトレイさん、授業は……?」

「魔術練習場で実技の授業中だった」

「ご迷惑おかけしてごめんなさぁーい!」


 このあとグラウンドにラヴィニアの謝罪の声がひたすら続いたのは、言うまでもない。



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