プロローグ かつての英雄
新連載です!
こちら公募の応募作のため、第一幕(約9万字相当)までは怒涛の勢いで投稿します。
その後の続きは更新が緩やかになりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
広い、広い、荒れ果てた大地がどこまでも見渡せる。
数え切れないほどの魔物が地面に伏し、地獄のような様相を呈していた。
そこに、ぽつんと一人だけ佇む人間がいる。
黒のローブを風になびかせた、倒れている魔物より小さな存在が。
「ォォオオオ!」
猛々しい咆哮が空から落ちてくる。
曇りのない青空に、一点だけ浮かぶ影。それが徐々に大きくなり、やがてドスンという音と共に地に降り立った。
「お疲れさま、ゼド」
それは巨大な竜だった。蒼い鱗を持つ、伝説の蒼竜。
竜は人に懐かない。しかし、蒼竜はローブを羽織った彼女に返事をするように頭を擦り寄せる。
いろんな意味で信じられない光景だった。
魔物の大群が人類の住処に押し寄せ、誰も彼もが逃げ惑った。
勇敢にも戦いを挑んだ者は、そのほとんどが亡骸となって跡形もなく消え去った。
人類の歴史はここで終わりかと、もはや誰もが諦めかけたとき、一人の魔法使いが前線に現れた。
けれど、たった一人で何ができようか。
そう思っていたのに、彼女は迫り来る敵にも動じることなく魔法を使うと、あっという間に魔物の大群を倒してしまった。
大地を這う魔物を天からの槍で串刺しにし、空を飛ぶ魔物を召喚した精霊王の巨大な手が叩き落とす。
これほど鮮やかな魔法裁きを見たことなど一度もなかった。
岩陰に身を潜めてその様子を一部始終見逃すことなく眺めていた男は、味方のはずの彼女に畏怖の念すら抱いたほどだ。
そんな彼女をサポートするかのごとく、蒼竜が魔物を喰らい始めたときにはもう開いた口が塞がらなかった。
「じゃあ終わったし、帰りましょうか」
彼女が蒼竜にそう告げると、蒼竜が再び咆哮を轟かせる。そして、地に伏した魔物の亡骸を蒼い炎で焼き尽くした。
不思議と熱さを感じさせない。
まるで幻術のように美しい炎。
やがてその揺らめきの向こう側に、彼女と蒼竜の姿は消えていった。
――これが、かつて世界を救った英雄、クローディア。
強敵を前にしても冷静さを失わない凜とした佇まいに、魅せられた者は多い。
ゆえに彼女が本当は、
「ゼド、ゼド! まずいわ、洗ってたらついにローブが全部破けたの……!」
超絶不器用で、
「ゼ、ゼドぉ……お腹、壊した。やっぱりあのミルク腐ってた」
超絶無頓着で、
「きゃー! 粉が爆発したわ!」
生活能力が皆無だということは、相棒の竜しか知らない。
そしてそんな英雄が、五百年の時を経て、再び現世に生まれ落ちた。