9 裂けゆく境界
なあ、君も感じたことないか?
何かが変わり始める、その一瞬を。
空気が張り詰めて、音すらも歪んで聞こえるような。
俺は――その感覚を、この夜、全身で味わうことになった。
鷹村との会話を経て、呪印術が地球を浸食していることを知った俺は、次の動きを探る必要があった。
境界が崩れる――それがどんな影響をもたらすか、想像するだけで嫌になる。
「零、これってどうやったら止められるのかな。」
ハルが肩の上で不安そうに問いかけてきた。
「わからない。」
俺は正直に答えた。
「ただ、呪印術を使った奴を見つけないと何も始まらない。」
そのためには、もっと情報が必要だった。
俺は再び模様が出現した路地裏を訪れ、少しでも手がかりを探そうとした。
その場所に到着した時、空気が異常に重いのがわかった。
いや、重いというよりも、押しつぶされるような感覚だ。
「零、これ…嫌な感じだよ。」
「ああ、俺もそう思う。」
路地の奥に進むと、再び模様が浮かび上がっていた。
今回は以前よりも明らかに複雑で、範囲も広がっている。
「これ、やばいな…。」
俺は模様に手をかざし、魔力の流れを探った。
その瞬間、空間が揺れ始めたんだ。
「零、何か来るよ!」
ハルが叫ぶ。
俺は即座に防御魔法を展開した。
次の瞬間、空間が裂けるような音がして――そこから、異世界の魔物が現れた。
「またかよ…!」
魔物は、異世界で見た中でも上級に分類される強力な奴だった。
巨大な体に鋭い牙、そして全身から漏れ出す異様な魔力。
君ならどうする?
こんなの目の前にしたら逃げるよな?
俺も正直、逃げたい気持ちになった。
だけど、ここで逃げたら被害が出るのはわかりきってる。
「ハル、下がってろ!」
俺はハルに指示を出し、魔物と向き合った。
戦いは激しかった。
魔物の攻撃は重く速い。
そのたびに防御魔法で何とかしのぎ、隙を見つけて反撃を繰り返す。
「これでどうだ!」
俺は渾身の魔法を放ち、魔物を倒した。
だが――それで終わりじゃなかった。
模様はまだ残っている。
いや、それどころか、さらに光を放ち始めた。
「零、これ、止めないとまずいよ!」
ハルが叫ぶ。
「ああ、わかってる!」
俺は模様の中心に向かい、全力で魔力を注ぎ込んだ。
なんとか術式を壊すことに成功したが、その代償は大きかった。
俺の体力も魔力も、ほとんど削られていた。
君なら、この状況で次にどう動く?
俺には、まだ動ける気力が残ってた。
夜空を見上げると、月が薄雲に隠れていた。
まるで、この先の不安を象徴しているかのように。
「零、これ、終わったわけじゃないよね。」
「ああ、まだ続く。確実にな。」
俺は肩の上のハルを撫でながら、心の中で覚悟を固めた。